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49.最下層へ
しおりを挟むメルベ様に会ってから二日後の現在。
一般人でも芸のある者は宴に呼び派手に行うパーティーという名の王様主催の酒飲み大会に参加した私達一行は、早々にその場から抜け出し目的地であるお城の最下層に急いでいた。
「お姉さんは怖くないんだね」
「そういうのはまだないかな。正直イメージと違って驚きはしたけど」
てっきり暗い洞穴や土壁みたいな道を想像していた私には、少し狭く快適とは言えないまでも真っ白なタイルが貼られたようなトンネルの道は予想外だった。
「そうかな。あっ、そこ高さがあるから気をつけて下さい」
一歩を踏み出す度にドレスの裾が足に絡まり次第に苛々しだした私に案内役のスフィー君が先程から気遣って声かけをしてくれていた。
「助かるわ」
お礼を言えば、彼の頬はあがった。
なんか、彼に対して一気に好感度が上がってきている私は単純かしら。
そんな事を思っていたら私の後ろから不機嫌そうな声が。
「何がお姉さんだ」
「君は、なんでさっきからスフィー君に文句ばかり呟いているの?」
「ち、違います! 文句なんて言ってませんよ!」
なんだか二日ほど前から不貞腐れているナウル君なのだ。
私には原因がいまいち分からず今に至る。そもそも男の子ッて何を考えているのかわからないのよね。
いや、まてよ。それとも私が歳をとったせいで理解ができないのかも。
「ふらついている」
「大丈夫ですか?」
「はい、なんとか。ありがとうございます」
ラジには、足元がおぼつかなくなってきたのをみられ、リアンヌさんには心配され始めた頃。
「ここから変わります」
スフィー君が足を止めたのは、もはや見飽きた真っ白い色の扉の前。
私は、数歩前にいる細い彼の背中に聞いてみた。
「スフィー君、この今まで歩いて来た道はやたら清潔過ぎて明るい道だったし、いくら特定の人しか入れないとはいえ誰にも遭遇しないのっておかしくない?」
そうかなというように首を傾けた彼は実に分かりやすい解説をしてくれた。
「僕達、この石が嫌いなんです。僕は成功したほうだけど失敗した奴らが来ないようになっています。まぁ、こんな場所に近寄りたい人なんていないんだけど」
なんか、淡々と話す様子に悲しくなるじゃないの。
「ヒトが来るのは仕方なくですね。この白くて明るさが保たれないと危ないから掃除する人はいますよ」
「…そっか」
本人から語らせるには良くない内容だったとちょっと後悔した。
「普通は、この扉から入るんですが、なるべく見つかるまでの時間があったほうがいいと思うし。あと、お姉さんがビックリしないようにこっちから入りますね」
そんな私の心なんて知るよしもない彼は、無駄なく進めているし異議も勿論ない。
*~*~*
「やっとイメージ通りかも」
「しっ。彼らは、目は悪いけれど耳はよいから気をつけて」
「あっ、ごめん」
つい口から出ちゃったよ。
だって、私のイメージって病院みたいな通路よりこんな感じだわ。
「更に狭くなります」
扉の横にある隠し扉に誘導された私達は、傾斜のある道を音をたてないよう進んでいるのだが、岩場を登るような道になり私は皆に目で文句を言われながらもドレスの裾を膝上で結びなんとも色気もへったくれもない格好だ。
「頭を低くして。下を見てください」
少し開けた場所に着いたら今度はほふく前進って…。聞こうにも声は出せないし、仕方なく彼の近くへついていく。
他の皆もスフィー君の近くへ私より遥かに素早い動きでたどり着いていた。
ああ、お姉さん疲れた。珈琲、勿論ブラックで一杯下さい。叶わぬ願いを抱きながらスフィー君の隣へ。
「あれは、人なの?」
見下ろした場所は、室内が暗くてもその異様な光景は充分過ぎるほどだった。
地面を這いずる生き物。
彼らは人なのだろうか。
強いなんとも言えない匂いと言葉ではない悲鳴や遠吠えのような声の中。
──あれは。
「リューさんっ…」
変わり果てた彼がいた。
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