【語るな会の記録】鎖女の話をするな

鳥谷綾斗(とやあやと)

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後記

Kさんによる後書き

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 これが、オレが語るな会で体験したすべてだ。

 夜明けまでの約七時間、飲まず食わず寝ずトイレにも行かず、スマホは時刻表示にだけ使って、バケモノたちと根比べし続けた。

 他の参加者は残らずおかしくなった。
 怪談や怪異についてしたり顔で語り、金儲けの手段にしていた連中が、この後どうなったのかは知らない。

 夜明け後にスタッフルームから出てきた市井に「もう帰っていい」と言われ、一目散に逃げたからだ。
 
 後日調べたところ、ほとんどの参加者は、コンテンツを閉鎖する旨を発表して活動を休止、引退した。
 そうでなくても更新が止まった。

 幸い、誰かが死亡したなどという噂は聞かない。


 思い知らされたんだろう。
 自分たちがちょっかいを出そうとしていた世界が、どんなものなのか。


 オレたちの動画チャンネルも閉鎖した。

 そしてオレは、真剣に就活に励んだ。他の同級生と同じように。
 その甲斐あって、どうにかそこそこの企業に就職できた。

 結果論から言うと、オカルト界隈から足を洗ってよかったと思う。
 そういう点では、語るな会には感謝すべきだ。


 ……でも、いまだに夢に見る。


 鎖女になってしまった、相方のJのことを。
 ビジネスパートナーとか言って一線を引いたつもりだったけど、普通に友達だったんだ。
 一緒にああだこうだ言いながら動画を作った日々が、今では懐かしい。

 自分がバカなせいで、本当は大切だったものを失った。

 軽い気持ちで近づいちゃいけなかったんだ。
 怪談というものに。

 実を言うと、これを書いている現在も、幻聴がしている。


 鎖の音だ。


 時間も場所も選ばず、なんの前触れもなくそれは聞こえてくる。

 会社で、重要な会議の最中でも。
 家で、恋人と抱き合っているときでも。

 これは、一生続くのだろうか。
 結婚しても、親になっても、……年寄りになっても。
 
 でも仕方がない。自業自得だ。
 ――と、自分に言い聞かせないとやってられない。


 元凶のJは、オレよりもっと悲惨な目に遭っている。
 鎖女として、この世のどこかをさまよっている。
 地獄の痛みと苦しみに縛られ締めつけられながら。


 だから、もう二度と怪談には関わりたくない。
 あの得体の知れない市井という女とも、永久に。


 ……長々と書いてきたが、オレが言いたいこと、伝えたいことはひとつだ。


 オレたちのような目に遭いたくなければ。
 鎖女の話だけはするな。


 そのためにオレは、この文書……記録を書いて、信頼できる人間に託して、発表してもらったんだ。


 鎖女のことを忘れてほしい。
 それがJや、小説で矢島莉々子と名付けられた少女、カヨさんという娘さんを救う道になる。


 謹んで、どうかお願いします。

 鎖女の話を、絶対にしないでください。【了】
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