上 下
30 / 56
第2章 黎明期

第30話 30階記念からの初訪問

しおりを挟む
 今回来たのは、上品なイタメシ屋ではなく、焼き肉屋さんだった。
 だがまあ、個室設定のお店。

 多少ドキドキはしたが、メニューに載った値段を見て安心をする。
 ドリンク類を先に注文して、乾杯。

 僕は、焼き肉ならビールだよねとビールを注文。
 佳代はウーロンハイで、美樹がレモンサワー。
「30階お疲れ様。カンパーイ」
 そう言って、飲み始めるが、二人ともほぼ一気だ。

 それを見て、佳代が美樹に注意する。
「レモンサワー、きついから抑えないと潰れるよ」
「うん? 大丈夫」
 そう言ってヘラヘラ笑い、二人ともおかわりの注文。

 ついでに、野菜の盛り合わせや魚介、そして盛り合わせのセットがやってくる。

「トロールの丸々した感じが、おいしそうだったのよね」
 佳代がそう言って、肉をのせ始めるが、
「先に野菜。肉は後」
 美樹が仕切り始める。

「順番なんて、一緒だろ?」
「ちがーう。何度も説明したじゃない。どうせ焼くなら鳥から」
「また、こだわりだした」
「そんなことを言って、明日おなかぽっこりになるのは、佳代でしょ」
「そりゃそうだけど、最近はならなくなったし」
 そんな、掛け合いがおもしろい。

 二人をつまみに、僕もビールを追加する。
 ご飯と、タレと野菜。
 野菜と、高タンパクを同時に取ると、血糖は上がりにくい。

 だが実は、どこかのコラムに、痩せるなら、最初に炭水化物を食べ、血糖をあげた方が満足度が早く。食べる総量が減るというものがある。
 だが慢性的に急激な血糖上昇、血糖値スパイクをさせると糖尿病になりやすいリスクもある。難しい問題だ。
 たぶん、美樹が言っているように、野菜と、高タンパクを同時に最初食べ、10分程度経って他のものというのが正解なのかもしれない。

 ご飯を食べながら考えたくはないが、考えないといけない問題。おなかぽっこりと食物繊維と言う事は、佳代は便秘気味なのか?
 そんな事が頭に浮かぶ。

「ふふっ」
 つい笑いが出る。
「あ~変な笑い方してる」
「二人が楽しそうだから。ついね」
「そう? いつもこんな感じだけど」
 そう言って、佳代がにししと笑う。

 そして魚介。
 網を変え、その後に肉と、美樹が見事に仕切っていく。

 それは良いが、二人とも5杯程度飲んでいるが大丈夫なのか?
 レモンサワーは、7%の所に載っていたからストロング系だろ?

 心配していたが、いざ帰り際。
「将ぅ。おんぶ」
 そう言って、美樹が抱きついてくる。
「ずるい。そういう魂胆だったのか」
 佳代が舌打ちしながら、ぼそっと言う。

 結局おんぶして、二人の家に初めて入る。
「お邪魔します」
 ちょっとドキドキしながら、入っていく。
 すかさず、佳代が美樹の靴を脱がす。

「まあ上がって、まともに掃除できていないけど。気にするな」
 そう言って、佳代が笑う。
「あっ。はい」

 そこで考える。どこへ下ろそう。
「美樹はどこへ?」
「んー。もうベッドでいいや。こっち」
 ずかずかと奥の扉を開けて入っていく。

 ベッドに机。結構大きめの本立てがあるようだが、布がかかっている。

 机の上には、時計があるが複数のスケルトンがとりついている。

 ペン立ても、造形がおもしろいな。
 ペンを立てる所は井戸のようになっていて、脇に木が立っているが、枝からひもで人間がぶら下がっている。
 空気が動けば、ゆらゆらと揺れる。
「なかなかシュールだな。こんなのどこで売っているんだ?」
「ああ。気持ち悪いだろ。こんなだから、あたし以外、友人がいないんだぜ。こいつ」
「そうなんだ」
 少し仲間として、つながりが見えた気がした。

「良し。寝かせて」
 ベッド脇で少し腰をかがめると、佳代が美樹を支えて寝かせる。

「力が付いて便利になった」
 両手を見ながら、佳代がつぶやく。
 美樹の胸元ボタンをいくつか外すが、動きが止まり
「やっぱり着替えさせる。冷蔵庫にチューハイがあるから適当に飲んでて」
 そう言われて、部屋を出て行く。

 振り向いたら、ドアの脇にもう一つの本棚があり、18禁と書かれたのれんが下がっていた。
 なんだこりゃ?
 気になりながらも、リビングへ向かう。

 勝手にグレープフルーツのチューハイをもらうが、冷蔵庫の1段が完全に酒で埋まっていた。
 まあ他の段にはサラダや、残ったおかずだろうかラップされた皿や、プラスチック製の密封容器がいくつか並んでいる。
 きちっと生活はしているようだ。

 行儀は悪いが、暇を持て余し、くるっと部屋を見回す。
 ここは共用部分で、あのドアが佳代の部屋かな?

 さっき入ってきた、入り口脇に水回りが集まっているのか。

 やっと緊張がほぐれてきた。
 色々強化されているが、生来の感情に、やはり引きずられるのだろうか。

「おまたせ」
 そう言って出てくると、自分も僕の前じゃなく横にやってくる。

「改めて、お疲れ」
 そう言って、缶を持ち上げる。
 レモンだ。やっぱり焼き肉の後だと、さっぱり系に行くよな。

「どう? 初の私たちの部屋」
「うん。しっかり生活している感じがする」
「それって、褒めてるの?」
「そう」
 そう言うと、じっと見てくる。

「じゃあ良いけど。この前チーム組んでから、慌てて片づけたんだよ。将がいつ来るか分からないとか、美樹が言いだして」

「じゃあ、僕のために?」
「そうそう。美樹の部屋なんか、私怖くて入れなかったもの」
「それはどんな? あっホラー系が好きなのか?」
 そう言うと、人差し指を振る。

「元はミステリーから始まって、中学くらいでホラーに行ったんだよ。そこから、高校でスプラッターで、今はもう怖くて聞けない」
 そう言って、ケラケラ笑う。

「恥ずかしいけど、私の部屋も見る? 見たい? ねえ」
「見て良いの?」

 そう言うと、佳代は少し赤くなり
「うー。引かないでね」
 そう言って僕の手を引き、歩き始める。

 ドアを開けると、何というかキュートな部屋? だった。
しおりを挟む

処理中です...