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第五章 本当の戦い
第79話 謀略と葛藤
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「じゃあ、マリーダ。武器はこれだけ?」
武器庫を案内する、マリーダ。だがその腰には紡の手が回っている。
「そうだと思います。あっ、すみません。思われます。ですが、開発中のものは、こちらにはございません」
つい二人きりの時のように喋ってしまい、赤くなりながら言い直す。
「二人きりの時は、言葉を気にしなくて良いよ」
それを見て、笑顔で紡がフォローするが、彼女は真面目。
少しふくれっ面で反論が来る。
「ですが、それに慣れてしまうと、とっさの時に出ますから」
「それもそうか」
そう言って彼女の頭をなでる。
「子ども扱いをしないでください」
「はいはい」
色々な所で、妙に距離感の近い二人が目撃される。
「あの距離感、やったな」
にやけながら、その光景を見つめる目があった。
「そうね、あの子の家、侯爵だったっけ?」
「そうだが、そっちは何とかする。だが、手を出した以上、働いて貰おう」
龍一の顔がすごく悪そうな顔になる。
「―― 的はあれですか?」
「ああ、向こうの岩場に塗料を塗ってある」
龍一に誘われて、紡は平原が見渡せる崖の上にいた。
無論、紡の後ろにはマリーダが控えているが、彼女はその現場で不穏な空気を感じていた。
それはきっと女の勘。
彼女も、少し気にしながら周りを見てもおかしな感じはなく、気のせいかとも思っていた。
十メートルほど下。
眼下には荷車と、荷車改が並んでいる。
「ようし、一斉射。てぇ」
魔導具の起動する、キュイイィィンという独特な音。
周囲の魔素を吸引するための、ブースターが過給音を開始する動作音だ。
単発発射ではパンと言う破裂音が連続し、ブーンという唸るような音に変わる。
その瞬間、錬成された石の鏃のようなものが飛んでいく。
弾は高速で回転をしながら、風を切り裂きまっすぐに的に向かう……
そう風魔法を纏っている、銃の弾とは違い、放物線を描かない。
これにより、距離が遠くとも狙い通りに撃てる。
ただまあ、魔力が切れれば落下するのが、物理的限界。ある点を過ぎれば威力が無くなりぽてんと落ちる。それが、射程距離となる。
「あれって、毎分幾つですか?」
「今はスピードモード、錬成をしているのが石だから五百とかかな」
「へーそうなんですね」
紡は真面目にメモを取る。
「そういえば、魔法は覚えたのか?」
「あっハイ。おかげさまで」
紡がそう言うと、龍一は、その後ろに控えるマリーダへと目を向ける。
「どうやって教えた? 秘術か?」
その目は、明らかに笑っている。
だが相手は王、嘘などつけない。
「ほら親父さんはなんとかしてやるから、全て吐け」
礼を取りながら、冷や汗が流れる。
相手は王国民では無い。
だけど、親父さんはなんとかしてやるとのお言葉。
此処で行かなければ、私は変われない。
「はい。使いました。房中術でございます」
そう答えると、龍一は満面の笑み。
「ほう、それは、彼のために大きな代償を払ったな。侯爵家の令嬢。家に背き姦通を行ったとなれば、相手は死罪。娘は一生尖塔暮らしか……」
しみじみと語る龍一。
だが、背の低いマリーダは見た。
うつむき、残念そうに王は喋りながら、必死で笑いをこらえていることを。
かすかに震える肩は、顔を見ていないなら泣いているようにも見える。
「えっそんな」
つい、紡はそんな事を……
あまりのことに、冷静な判断が出来なかった。
「何とかなりませんか?」
その一言を言ってしまう……
「なるよ」
どこかの俳優さんのような口調で答える。
彼はそれを聞いて胸をなで下ろす。
だが次の言葉で絶望をする。
「どうせあんたは、日本じゃ犯罪者だ。もろに、淫行だものなぁ国野くーん」
それを聞いてえっと驚く。
「マリーダ嬢、驚いているから、年を教えて差し上げろ。王命だ」
こんな事に王命を使うのかと、周りの兵達が驚く。
綺麗な礼を取りながら、恭しく応える。
「当年で十五歳となりました」
そう聞いてしまった。
自分の年を考えると、半分。
娘と言っても良い。
当然日本じゃ未成年。
親はさっき説明があったとおり、怒り狂うだろう。
そう彼は詰んでいた。
彼女が、そば付きとなった時から、それは強力な布石だった。
「はめましたね?」
「馬鹿言うな、はめたのはあんただろ」
そう言ってにっこり……
彼は膝をつき、四つん這い……
「国野様…… 紡。どうしたの?」
優しくかわいい、マリーダ。
「かっ、彼女と離れるものかあぁ。条件を言え」
もうやけくそである。
「そう大したことは無い。ちょっと王国のために働け、爵位もやる。そうすれば王国の常識で動けるだろう。王国の外交部という部署を新設し、これからこちら側の諸外国と話をせねばならん。とりま、ダイモーン王国側がこちらの大陸と重なったために中央帝国と戦闘になってな、全滅させちまった。そこからだ。いやあ、向こうと話が通じなくて困っていたんだ。よろしく頼む。わっはっは」
そう笑いながら、平原の中央に向けて、ぽいっと魔法を一つ投げる龍一。
この平原、カルデラの様になっており、隕石の落下したクレーターのような感じだった。直径十キロ程度、その中央で静かに光が弾ける。
その瞬間、衝撃波が襲う。音が来て、爆風が押し寄せてくる。
そして今度は、中央に向かい、広がった空気が戻っていく。
こちら側にはシールドが張られていたせいで、周りの惨劇がよく見える。
「どうだ、王国の最強武器は人間なんだよ」
龍一はそう言ったのだが、周りの兵達は思う。
そんな化け物は、あんた達だけだよと……
武器庫を案内する、マリーダ。だがその腰には紡の手が回っている。
「そうだと思います。あっ、すみません。思われます。ですが、開発中のものは、こちらにはございません」
つい二人きりの時のように喋ってしまい、赤くなりながら言い直す。
「二人きりの時は、言葉を気にしなくて良いよ」
それを見て、笑顔で紡がフォローするが、彼女は真面目。
少しふくれっ面で反論が来る。
「ですが、それに慣れてしまうと、とっさの時に出ますから」
「それもそうか」
そう言って彼女の頭をなでる。
「子ども扱いをしないでください」
「はいはい」
色々な所で、妙に距離感の近い二人が目撃される。
「あの距離感、やったな」
にやけながら、その光景を見つめる目があった。
「そうね、あの子の家、侯爵だったっけ?」
「そうだが、そっちは何とかする。だが、手を出した以上、働いて貰おう」
龍一の顔がすごく悪そうな顔になる。
「―― 的はあれですか?」
「ああ、向こうの岩場に塗料を塗ってある」
龍一に誘われて、紡は平原が見渡せる崖の上にいた。
無論、紡の後ろにはマリーダが控えているが、彼女はその現場で不穏な空気を感じていた。
それはきっと女の勘。
彼女も、少し気にしながら周りを見てもおかしな感じはなく、気のせいかとも思っていた。
十メートルほど下。
眼下には荷車と、荷車改が並んでいる。
「ようし、一斉射。てぇ」
魔導具の起動する、キュイイィィンという独特な音。
周囲の魔素を吸引するための、ブースターが過給音を開始する動作音だ。
単発発射ではパンと言う破裂音が連続し、ブーンという唸るような音に変わる。
その瞬間、錬成された石の鏃のようなものが飛んでいく。
弾は高速で回転をしながら、風を切り裂きまっすぐに的に向かう……
そう風魔法を纏っている、銃の弾とは違い、放物線を描かない。
これにより、距離が遠くとも狙い通りに撃てる。
ただまあ、魔力が切れれば落下するのが、物理的限界。ある点を過ぎれば威力が無くなりぽてんと落ちる。それが、射程距離となる。
「あれって、毎分幾つですか?」
「今はスピードモード、錬成をしているのが石だから五百とかかな」
「へーそうなんですね」
紡は真面目にメモを取る。
「そういえば、魔法は覚えたのか?」
「あっハイ。おかげさまで」
紡がそう言うと、龍一は、その後ろに控えるマリーダへと目を向ける。
「どうやって教えた? 秘術か?」
その目は、明らかに笑っている。
だが相手は王、嘘などつけない。
「ほら親父さんはなんとかしてやるから、全て吐け」
礼を取りながら、冷や汗が流れる。
相手は王国民では無い。
だけど、親父さんはなんとかしてやるとのお言葉。
此処で行かなければ、私は変われない。
「はい。使いました。房中術でございます」
そう答えると、龍一は満面の笑み。
「ほう、それは、彼のために大きな代償を払ったな。侯爵家の令嬢。家に背き姦通を行ったとなれば、相手は死罪。娘は一生尖塔暮らしか……」
しみじみと語る龍一。
だが、背の低いマリーダは見た。
うつむき、残念そうに王は喋りながら、必死で笑いをこらえていることを。
かすかに震える肩は、顔を見ていないなら泣いているようにも見える。
「えっそんな」
つい、紡はそんな事を……
あまりのことに、冷静な判断が出来なかった。
「何とかなりませんか?」
その一言を言ってしまう……
「なるよ」
どこかの俳優さんのような口調で答える。
彼はそれを聞いて胸をなで下ろす。
だが次の言葉で絶望をする。
「どうせあんたは、日本じゃ犯罪者だ。もろに、淫行だものなぁ国野くーん」
それを聞いてえっと驚く。
「マリーダ嬢、驚いているから、年を教えて差し上げろ。王命だ」
こんな事に王命を使うのかと、周りの兵達が驚く。
綺麗な礼を取りながら、恭しく応える。
「当年で十五歳となりました」
そう聞いてしまった。
自分の年を考えると、半分。
娘と言っても良い。
当然日本じゃ未成年。
親はさっき説明があったとおり、怒り狂うだろう。
そう彼は詰んでいた。
彼女が、そば付きとなった時から、それは強力な布石だった。
「はめましたね?」
「馬鹿言うな、はめたのはあんただろ」
そう言ってにっこり……
彼は膝をつき、四つん這い……
「国野様…… 紡。どうしたの?」
優しくかわいい、マリーダ。
「かっ、彼女と離れるものかあぁ。条件を言え」
もうやけくそである。
「そう大したことは無い。ちょっと王国のために働け、爵位もやる。そうすれば王国の常識で動けるだろう。王国の外交部という部署を新設し、これからこちら側の諸外国と話をせねばならん。とりま、ダイモーン王国側がこちらの大陸と重なったために中央帝国と戦闘になってな、全滅させちまった。そこからだ。いやあ、向こうと話が通じなくて困っていたんだ。よろしく頼む。わっはっは」
そう笑いながら、平原の中央に向けて、ぽいっと魔法を一つ投げる龍一。
この平原、カルデラの様になっており、隕石の落下したクレーターのような感じだった。直径十キロ程度、その中央で静かに光が弾ける。
その瞬間、衝撃波が襲う。音が来て、爆風が押し寄せてくる。
そして今度は、中央に向かい、広がった空気が戻っていく。
こちら側にはシールドが張られていたせいで、周りの惨劇がよく見える。
「どうだ、王国の最強武器は人間なんだよ」
龍一はそう言ったのだが、周りの兵達は思う。
そんな化け物は、あんた達だけだよと……
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