はい。ちゅうもーく。これから異世界に向かいます。 - 私立徳井天世高校の修学旅行 -

久遠 れんり

文字の大きさ
80 / 95
第五章 本当の戦い

第80話 非常識

しおりを挟む
 紡は、報告書をしたためる。
 魔導具の灯りが、優しくその紙を照らす。
 だが彼は、絶望的に字が汚かった。
 今までは、パソコンへの入力だったから問題が無かった。
 だがそれが無くなった今、そう…… この書類が上に回っていくということ。
 そしてこの手の報告書は残る……

 かれは、ワインを口に含み、おもむろに振り返る。
「マリーダ。日本語は書けるかい?」
「いいえ。大陸標準語と、古代魔法文字が少しだけです」
「そうか、残念だ…… 古代魔法文字って何だ?」
 そう聞くと、彼女は多少悩む。

「文字と言いますが、なんと言うのでしょ。組み合わせると魔法が発動するという感じでしょうか?」
 そう言って、少しの文字を紙に書き、魔力を流すと風が吹いた。

「おわっすごいな」
 その文字は、梵字というか……
神代じんだい文字のようだな」
「神代文字でございますか?」
「そう物の形が、文字となったようなものだ。日本では今、こんな形の漢字とか、かな文字を組み合わせて使うが、えーとどんな字だったかな」
 彼はなんとか思い出した、ヒを示す文字を書く。
 横一を書いて、その下に丸。
 その中にまた横一。百が丸くなったか旦が引っくり返って丸くなったか。

 この系統の文字は、神社などでまだ使われているしいくつか系統がある様だ。
 字が持つ意味が、そのまま魔法となって発動をする。
 それは陰陽師とかその辺りとかにも通ずるものじゃないか?

「この漢字というのも、神代文字なのですか?」
 彼女が書きかけの報告書を指さす。

「あっこれは、俺が下手なだけなんだ。すまない……」
 どうやら神代文字というか、象形文字に見えるようだ……

 ガクッと落ち込みながら、報告書に戻る。
 そして当然だが、退職願も同封をする。


「どうなっている? あの国へ行くと皆が退職を願いだしてくる」
「何か魅力的なのでしょうか?」
 主任である成行 真守なるゆき まもる二十六歳と、課長古固 史行ふるかた しこう三十五歳は頭をかかえる。

 主任は進言する。
「私が行きましょうか?」
「それでお前も、なんかに魅入られて帰ってこなくなるのか?」
「いえ、そんな事は。こちらには親もいますし」
 彼は意外と苦労人で、無理をして仕事をした父親が、脳卒中となり今大変なことになっている。
 そう、発見が早く命は助かったのだが、左半身に麻痺が残ってしまった。
 母親がなんとか面倒を見ているが、困っていた。

「そうか親御さんが、大変なんだったな」
 そう言うと考え込む課長。

「バイクを与える。行って見てくれ、これに書かれているような、『この国は併合するのではなく独立を認めるべし、この国は獅子である、犬にあらず。人においては現人神なり』こんな怪しい報告書、信じられん」
 課長は、バサッと机の上に書類を投げ出す。

「はあ、行ってきます」

 だが彼の困りごとが、かの国が手助けをして、改善をされる。

「日本からまいりました、成行と申します。王様にお目通り出来ませんでしょうか?」
「連絡をするから、あそこに見えるのが居城だ。門番に用件を言えば多分通れる」
「ありがとうございます」
 そう言ってバイクにまたがり、城へ向かう。

 あっさりと、面会できることになったが、そこに幸せそうな顔をした国野と、ドレスに身を包まれた稲田がでへでへの顔で座っていた。

「お前達…… 随分と幸せそうだな」
 顔だけで判る。
 役職をと思ったが、この二人半分は退職をした身、ため口でつい言ってしまう。
 すると執事から忠告が入る。

「陽愛様は、王妃様のお一人。国野様はこの度、侯爵位を叙爵じょしゃくされました。礼節を持って接していただけますようお願い申し上げます」

「ウーメザーさん。知らない仲ではないし良いよ」
「そう仰るのであれば」
 インセプトラ―王国宰相、トーミオー=ウーメザーは暇になり、執事のようなことをおこなっていた。
 宰相の場所は、杉原 楓真すぎはら ふうまが完璧にこなし、彼が持つ智の珠もその力を遺憾なく発揮していく。
 情報の解析、それに、第六感のような思考外の何かを与える。
 これにより彼の立てる計画に、不測の出来事が、ほぼなくなってしまった。

「それはそうと、成行さん」
「はい。なんでございましょう?」
「お父さんがご病気だったよね?」
「はい、確かに」
「連れてこないか?」
「はっ?」
 そこに、陽愛の声が割り込む。

「りゅうちゃん、あっ王様で私の旦那様だけど、治療もできるの。腕の一本や二本くらい生やせるそうよ」
「はぃ?」
 当然だが、間抜けな声が出る。

「ああ、あの人はすごいんだ」
 何かやばい薬でもやっているかのような、笑みを国野も浮かべる。

 よく見れば、横に控えている侍女と、こそこそと乳繰り合ってる。
 スカートの中に手が入り、ペシッと叩かれる。
 見た感じ、侍女さんえらく若そうだが……

「信じられなくとも、日本では治せないんだろ。ものは試しだ。魔導具が発展をしているから日本より快適だしな」
「確かに、いまは、モーターを回すだけとかなら出来るので、扇風機とかは使えるのだが。その魔導具とかは見られるのか?」
 そう言うと、国野の指があちらこちらを指し示す。

 ポットは、どう見ても陶器製で中身が空。
 それに魔力を流せば、なんと言うことでしょう?
 お湯が、幾らでも湧き出てくるではあーりませんか。

「ものは試し、日本の常識は今非常識になった」
「ああ……」
 かくして、彼の親父さんは走り回っている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...