上 下
14 / 42
第2章 地方都市 エベラルドトゥリー

第14話 ビザッティの町

しおりを挟む
 あっという間に盗賊は退治され、話し合いの末。大量のオッサン達を貰ってしまった。

 合算で百二十人もの盗賊達を引きずり、馬車は山を下っていく。

 出発時に、なぜか、クリシュという女の子が、こっちへ付いてこようとして、仲間に引きずられていった。

 夕暮れの中。ドナドナされた盗賊達を、町の憲兵達に引き渡そうとしたが、人数が多すぎるので、もう一つ向こうの町まで連れて行けと言われた。
 当然、報告のために、憲兵が一人。付いて来るようだ。

 ザワつく町中が、落ち着きを取り戻し、静かになる時間。

 盗賊の仲間達は、当然やってくる。
 何せ、そこら中に居るのだから……

「ナニをやってんだ。お前達は」
 呆れた感じで、捕まっている盗賊達を見る男。

「いやいや。それは、お前だよ」
 背後から、不意に声がかかり紐を切ろうとした奴らは気絶させられ、盗賊達の列。その後ろに繋ぐ。
 それを繰り返し、朝までに十人ほど増えた。

 朝食代わりに水を飲ませていく。

「さて行くか」

 変に身なりの良いのが混ざっているが、盗賊ですと押し切った。

「おや、君は宿の番頭さん。なぜここで縛られているんだい?」
 新入りはやかましいから、猿ぐつわをしている。

「そいつも盗賊です。宿に泊まった客の情報を流して、峠で襲うタイミングを決めるようですね」
 それだけで、メルカトアさんは理解をしたようだ。
「なるほど。それは効率的だ」
 何か感心をしていた。情報は金だと、納得が出来たと後で教えてくれた。

 そうして、アングラの町を出て、ビザッティへと向かう。

 途中の休憩を取っていた村でも、五人ほど増えた。

 まるで、昔話で聞いた話のようだ。
 ハメールと言う男は、食べ物で村人を誘い。引き連れて向かった先は自領。
 領主だった男は一変し、村人達はそこで、飲まず食わずで働かされて、ひどい目に遭うと言う話だが。
 目先の欲に飛びつくと、痛い目に遭うという戒め。だが、言い得て妙だな。


 夕方にはたどり着き、役人に渡す。
 報償は、ギルド経由で渡されるようだ。
「帰りに寄っておくれ。報償の引き渡し期限は一年だからね」
「ギルド同士で、話が伝わるような道具でもあれば良いのに」
 アミルがそう言ったが、そんな便利な道具はないようだ。

 ビザッティの町は、窯で焼いた薄いパンに具材をのせ、トマトという野菜のソースをかけて、食べるのが名物だった。
 それは、四角く。三十センチ角で一枚が銀貨一枚もした。

 あと、麺と呼ばれる、小麦粉を練って細くしたもの。
 茹でた後、炒めたりスープに入れたりするようだ。
 野営用に便利だから、乾燥タイプを大量に購入をする。

 パンの方も、高いが買ってみる。

 上にのせるものが違うと、かなり味が違う。
 アミルやフィアと、お互いのものを少し交換していくつかの味を試す。

 それを見て、すでに食べてしまった、クノープとリーポスが買い足しに走る。

 わいわいと、相変わらず火を囲み、町の広場で野宿生活。

 そして、それを見つめる双眸が一つ。
 メルカトアさんの娘。リディアーヌ。

 初めての時は、石を投げていた。
 でも今回は違う。
 いつも、ヘラヘラしている皆が、真面目な顔をした時。
 非現実的な魔法が、いきなり何もない所に起こり。彼らの動きは、目で追えないくらい加速をされた。

 だけど、その動きは繊細で流れるような……

 それは、リディアーヌの目を釘付けにして、そう憧れてしまった。
 子供の頃から絵や器、そんなものに心を動かされることがあった。
 でも、人の動き。

 それは、美しくキラキラしていた。
 ううん。雷魔法のせいではないの。
 それは…… そう。

 例えば、モサモサジェロのような古代遺跡。

 ルーザンス時代の巨匠。トゥギャザー聖堂に納められている、ミケジャネが作ったとされるダンク像。
 像の意味は分からないけれど、何かを投げ下ろすような躍動感と、筋肉美に皆は感動をした。

 彼らは、それに近い。
 ――存在そのものが、奇跡であり芸術。

 多少、見方が変わったようだ。

 それのせいなのか、馬鹿なことをして喜び合っている姿が、少し羨ましく感じる。
『だけど、人の心は変わり。裏切るものよ』
 母さんが言った言葉。それが、頭の中でぐるぐるする。

「あんなに仲が良くても、裏切るのかしら?」

 人は、三ヶ月一緒に暮らすと愛情が湧くらしい。
 だけどそれは続かず、いがみ合い。別れることがある。
 だが、アシュアス達は、幼馴染み。

 特に彼らは、別の家で育った兄弟のようなもの。
 物心が付いた頃から、ずっとそばに居た。

 共に遊びという名の、鬼特訓を受けながら。
 チャンバラは、緊張感と重量に慣れろと真剣だし、川遊びは下半身強化と狩猟のかんを鍛えるため、必ず魚の手掴みから始まる。
 仲間内の鬼ごっこは、個人対多の戦闘訓練。

 狩猟は本格的で、罠の設置と獲物が残した痕跡を追う訓練。地形を見ながら追い込み。確実に捕らえる。
 むろん、その処理は当然の技術だし、探査と気配隠蔽。身体強化。覚えなければいけないことは山のようにあった。
 そして、それを行うには、賢くなければいけない。
 瞬時の計算なども教えられた。

 罠を張る時に使用する紐の長さ。
 川に橋を架けるには、歩数と角度で川幅を見る。崖を見れば、距離と角度でおおよその高さを求める。

 彼らは、お互いに、力を理解している。
 そして、剣技と魔法を二十四時間、両親からたたき込まれたアシュアスは、生きる非常識と皆が認めるくらい壊れ性能だ。
 
 ――そう彼らは、凶悪な両親達に鍛え上げられた、サバイバルを含めた超戦闘マシーン。
 全くもって、無自覚だが……
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ねぇ、神様?どうして死なせてくれないの?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:915pt お気に入り:6

【壱】バケモノの供物

BL / 完結 24h.ポイント:768pt お気に入り:310

腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

BL / 連載中 24h.ポイント:28,000pt お気に入り:2,325

龍の寵愛

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,803pt お気に入り:2

愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:58,942pt お気に入り:1,180

【全話まとめ】意味が分かると怖い話【解説付き】

ホラー / 連載中 24h.ポイント:83,283pt お気に入り:650

処理中です...