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第2章 魔法の使える世界

第31話 初めての県外遠征 第二夜 その2

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 外のダンジョンへ戻る。

 ダンジョンのシステムにアクセスするが変化はない。
 管理権限を上書きする気はないようだ。

 すでにつぶしたクモの巣も、復活をせず黒い部分は消えていた。

「さあじゃ、昨日の続きだ。行くぞ」
 二人に声をかけて、すぐに蜘蛛のダンジョンエリアに入る。
 するとパターン化された攻略法。雨を降らして雷で焼く。
 それを繰り返すと、周りにいい匂いが立ち込め始める。

「本当だ。うまそうな匂いが、漂ってくる」
 一翔がのんきなことをつぶやく。
「しかし水を撒いて感電させるって、水はいるんですか?」
 一翔にそう聞かれて俺は考える。
「あーそりゃ……? 最初に始めたときは魔素が薄くて、魔法が使えなかったからなあ。水を撒いてバッテリーを昇圧して使っていたけれど。今なら蜘蛛のいる穴に直接打ち込めばいいのか?」
 そう考えると、いけそうな気もするな。
「ちょっと次のやつで、やってみる」


「神意なる雷を以って、我が敵を滅ぼせ 雷閃」
 無言で撃つのもなんだから、言ってみた。
「ドカーン」
 と穴に落ちたが……
「ざわざわざわ……」

 そんな音がして、ぞろぞろと穴から小さいのが湧いてきた……。

「「「ぎゃー」」」
 それを見た全員が叫ぶ。
 湧いている穴、あそこを囲むように、炎を発生させ魔素をつぎ込む。
 基本的にあまり好きではない蜘蛛。それがわさわさ出た日にはもう……
〈主。止めてダメです〉〈馬鹿野郎やめるんだ。にゃ〉
 2匹が何かを叫んでいるが、知るか。
 そう思って発動させたが、やりすぎた。
「あっ、次元断、そしてバリア、目いっぱい魔素」

「バフッ」
 周りの空気が一瞬で温められて一気に膨張する。
 そして、膨らんだものは当然縮む。
「「「うわー」」」
 みんなが、ひっくり返りそうになる。いや二人は倒れた。
「畜生。急激な気圧変化で、一瞬意識が飛んだ。おい大丈夫か」
 ひっくり返っている二人。ともに一応浄化と治療を行って、自分にも治療魔法をかける。
「あー死ぬかと思った。狭いところで、威力上げすぎるとだめだな」
 そばで2匹は、ジト目だ。

「うっ」
 一翔と芳雄の目が開き、気が付いたようだ。
「大丈夫か?」
「ええ何とか、何があったんですか?」
 芳雄が聞いてくる。
「気合を入れすぎた、火魔法だから空気の膨張と収縮が起こった」
 目の前は、地獄のような光景。地面は煮えたぎり放射熱がすごい。
〈フェン、あれを冷やして何とかしてくれ。水を掛けたら水蒸気爆発しそうだ〉

 いまだに融解している地面、ごぼごぼと沸き立っている。
 魔法をかける前にシールドで囲ったため丸い池となり、周辺は完全にガラス状に変質している。
〈はい、すぐに〉

 へたり込んで、地面が冷えるのを待ちながら、ダンジョンシステムの確認をする。
 すると、ふいにダンジョンのシステムにつながっていた意識の中に、光点がわらわらと7つほど出てきた。
 うん、これは人間か? 3人程足りんが。

「20階にたぶん生存者がいる。ちょっと先に行くぞ。フェン冷えたら、そこの二人と追いかけてきてくれ。フレイヤ行くぞ」
〈にゃ〉

 俺とフレイヤは、全速力で駆け出す。真っ赤な穴は飛び越した。


 途中の蜘蛛は、きっちり濡らして感電させた。ただ奴らのダンジョンを見たとき半分は穴から這い出して来たりしている。急激な気圧の変化で弱体化したのか?

 一司はそんなことを考えたが、おバカなことをしたために、ダンジョン内の魔素濃度が急激に下がったのである。
 炎の発動にバカみたいな魔素をぶち込み、薄くなった周辺魔素。それが空気の膨張と収縮で混ぜられ、気圧と気温の変化の後、魔素濃度が急激に薄まった。
 その変化により酩酊状態になっていた。
 20階まであと3階層ほどしかない今の状態。ダンジョンの奥までその影響は届いた。

 そんな、蜘蛛たちの混乱のさなか。
 餌になるべく、つかまっていたチーム。
 ダンジョン駆除部隊Aは、気圧の変化による繭の崩壊で意識が覚醒して、逃げ出すことができた。

 だが、当然のように、周りにつかまっていたモンスターたちも覚醒を始める。
 逃げ出したとき、何とかして仲間を探そうと考えていたダンジョン駆除部隊Aだが、モンスターが這い出し始めた光景を見て、ダンジョンからの脱出優先を即断する。

 その頃。
 急ぎながらも、一司はシステムからの光点情報が増えてきて、プチパニックを起こしていた。もともと一司が見ているのは、つぶされたダンジョンの情報。今の20階はモンスタークイーンアラーニェが拡張をしている。
 餌のストック場は、一司が思ったより広かった。


 ダンジョン駆除部隊A
 役所からの依頼を受けて、ダンジョンへ潜った。
 予備となる食料や機材は重いが最初だけだ。
 浅い階層の雑魚を倒しながら進んでいけば、必然的に消耗される食料により荷物は軽くなる。

 いつものように、順調に攻略を進め。2日目には10階を攻略。
 あと3日で、20階まで攻略できれば、いつものペースだ。

 ところが、12階を過ぎた辺りから様子が変わり、なぜか嫌われ者の蜘蛛のダンジョンがダンジョン内にできている。

 幾度か退治をしたが、周辺部で巣に刺激を与えて出てきたところを、遠距離から攻撃するしかない。おまけに、とれる魔石も小さいのが1つで採算が合わない。

「なんだって、ダンジョン内に蜘蛛のダンジョンがあるんだ。時間ばかりかかって仕方がない」
 一応、チームを分けて複数同時に攻略しているが、通常のモンスター攻略よりも時間はかかる。

「ええい、抜けられるところは迂回して。邪魔なところだけ攻略する。それでいいか」
「ええ、リーダーの言う通り、これじゃあ時間がかかって話にならないわ」
 とはいっても、目の前の通路上に点々と存在する蜘蛛のダンジョン。
 目の前に集中すると、ほかの巣を踏んだ時に、バックアタックを食らう可能性もある。

「予定より一日。時間が押して来たな。予備日は3日。どうする、帰るか?」
「微妙なところだよな。でもダンジョンの中に、ダンジョンがあるなんて予想外も良いところだ」
 チームメンバーたちも頭を抱える。
「明日。蜘蛛のダンジョンを、躱せるだけ躱しながら進んで、ダメそうなら引き返そう」
 リーダーは、そう判断を下す。
 そして、5日目の早朝。大量の蜘蛛たちに襲われて全員餌として捕獲された。
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