新しい年、新しい自分、変わる切っ掛けは…… 一つの出逢い

久遠 れんり

文字の大きさ
19 / 29

第19話 一日だけの奇蹟

しおりを挟む
 彼女は見つけてしまった。

 近所の公園、よく来ていたその場所で、彼はコーヒーを片手にベンチでぐでていた。何かショックな事でもあったのだろうか?

 高校時代に出会い、一目で好きになった。でも彼が苦しんでいたときに、手を差し伸べられなかった。冬野 新道ふゆの しんじくん。
 あの時…… 私は意気地無しで、卑怯だった。


 あれから一〇年、私にきっと罰が当たった。
 人間ドックで膵臓癌が見つかり、もう時間がない。
 勇気を振り絞る。

「すみません。お時間ありますか?」
 声をかけると、ギロッとこちらを見る。
「何だ? 宗教なら信じないぞ。それとも保険か?」
 そして、いきなりそんな答え、でもやっぱり彼の声。

「私、は…… 初瀬って言います。時間があるなら、その…… 恋人の振り、今日だけ…… お願いします」
 勇気を出してお願いをしてみる。

「うーん。 まあ、今日だけなら…… えっ? 恋人の振り。なんで?」
 まあ普通、こんなことを言われたら驚くよね。
 だが引けない。

「私には時間がないんです。お願いします。今日だけで良いですから」
 そう、長谷川 舞依はせがわ まい二十七歳は、ずっと苦しんでいた。

 彼がそんな事するはずないと思いながら、何も言えず何も出来ず。ただ彼のいなくなった教室で、夕日の中でたたずみ、泣いていただけ。
 その後、吉田や清水のおかげで、彼の無実は証明されたが、彼は帰ってこなかった。

 そう、あれから、一〇年。
 時折思い出しては、鬱々としていた。

 その年月の中で、彼氏らしい人も出来たが、どうしても彼を思ってしまい。続かない。

 就職をして、仕事にのめり込む日々。
 だけど、急に体調が崩れた。

 そう膵臓癌。症状が出たときには、ステージ四だった。
 転移や浸潤があり、化学療法を試しているが、いきなり外出許可が出た。
 つまり、そういう事だろう……

 家族も何も言わず、散歩に出た先で彼を見た。
 そう本当に偶然、この公園には数え切れないほどいつも来ている。でも彼とは、この十年会うことがなかったのに……

 あの時より身長も高く、体もがっしりとしている。
 でも、でも、でも、間違いない彼だ。

 思わず駆け寄る。

 体が重く、すぐに息が切れる。
「おい大丈夫か、顔色が悪いぞ」
 彼の前に行くと、すぐにそう言われた。
「大丈夫です。それより……」
 彼にお願いをした。

 生きているうちに、会えて良かった。
 反応を見ると、彼は私のことが分からない様子。
 まあ、思いっきり痩せたし、顔色も悪いし。
 化粧はしているけれど、もっと状態の良いときに会いたかった。

 だけど、そうなると私が私を許せない。
 きっと、面と向かっては会えなかっただろう。
 彼が辛いとき、本当の救いが必要なとき…… 私は逃げてしまった。

「どこかへ」
 そう思うが、ぐるぐると色々と思うだけで、考えがまとまらない。
「体調が悪そうだし、どこかへ入ろう」
 そう言って、さっきコーヒーを飲んでいたはずなのに、近くのコーヒースタンドに入った。
 その時新道は考えていた。彼女は必死の形相で、時間がないと言った。
 体調が悪そう。
 思いつくのは……
 最悪の事。

 誰でも気がつく話……


 食べられそうな物。
 固形物は辛い。
 アイスの……
「フラペチーノ、ストロベリー」
 それが精一杯。

 だけど、彼と一緒に。
 それだけで美味しく感じる。

 アイスを頬張る横顔…… 嬉しそうな。
 うん?
「あんた、なんか会ったことがあるよな?」
 そう聞くと、彼女の体が、ぴょんと体が跳ね上がる。

「いっ、いえ、気のしぇいじゃないですか?」
 思いっきり目線が逃げる。

「そうか? 昔…… いや」
 そう言って、彼は黙ってしまった、だけどその時の横顔、苦悩が一瞬顔に出た。

 あー高校の時の、思い出したのかもしれない。
「あのお仕事は?」
「うん? ああ、トレーダーだ。あー株とか為替とか売買している」
「へー。すごいですね。大学は?」
 その言葉に、彼は一瞬反応。

「大学には行っていない」
「あー、そうなんですか」
 そこで言葉が途切れてしまう。

「普通デートって、ナニをするんでしょう?」
「デート? 本気で恋人ごっこするのか? はぁー、まあいい。さあな、何でも良いんじゃないか? 楽しければ」
 彼はこちらを向かず、道行く人を眺めながら、ぽつりと言った。

「そうか、そうですよね」
 そう言って、彼女は頷く。
 そんな彼女の様子を見ていて、やはり新道は、いくつか思い出していた。
 高校時代、なんかよく絡んできていた女子。
「たしか、長谷川…… 舞依?」
 その言葉に、彼女は素直に返事をしてしまう。

「はい? えっあっ、えっ?」
 無意識に返事をしてしまい、キョドリ始める。

「なんだ、やっぱり長谷川か? 名前が違うということは結婚したのか?」
 彼が覚えていた…… だけど、何か言い訳……

「あっ、えっ、してない。するわけない。その…… そう、お母さんが離婚をして」
 とっさに、思いついた言葉を口から出す。

「そうか、大変だったな。それでやつれてんのか?」
「そう、そうかも」
 つい両親を離婚させてしまった。

 だけど、バレたなら聞ける?

「ねえ、こんな事聞いてあれだけど…… あれからどうしてたの? 吉田君達もブロックされたって泣いてたわよ」
 エイヤと気合いを入れて聞く。機嫌が悪くなったら謝ろう。

「ああ、あれは勢いだ。軽いノリの励ましが、単純にうざくて腹が立った」
「うざって…… まあそうかなあぁ」

 だけどのその後の言葉は、彼にとって、事件の大きさ、そして辛さが分かる言葉だった。
「―― 俺は…… この一〇年ずっと部屋にいた。最近両親が死んで仕方なく出てきたんだ」
 衝撃の事実。

「へっ? ご両親、亡くなって? 一〇年?」
「ああ、人が怖くてな」
「そうなんだ」
 私は途中で限界が来る。

 口元をおさえる。
「―― なんで、あんなに調子が良かったのに」
 今朝から、無茶苦茶調子が良かった。
 だから、散歩にも出てきた。
 だけど、いきなりやって来る、抗がん剤の副作用。

「どうした?」
 心配そうな彼の目。

「ちょっと体調が悪くて…… 」
 言いたくないけれど、心配させちゃう。

「帰るか?」
 その言葉は正論、だけど駄目。

「ちょっとまったぁ、それはない。せっかく会ったのに」
 私は必死で彼にすがりつく。

 その勢いに彼は驚く。
「じゃあ、どうすんだ?」
 考える。どうする、どうしたい?

「お家って、遠かったっけ?」
 青春、あの時の願い。
 彼の部屋での、甘酸っぱい語らい…… ああ憧れ……

「いや近い」
「じゃあ行く」
「行くって、お前なあ」
 そう言って困惑顔。

「まあいいか。文句を言うなよ」
 俺は気付かなかったが、家に来た女達、小物をちょこちょこ置いていっていた。
 この前、涼子に指摘されたが、まだかたづけていない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...