新しい年、新しい自分、変わる切っ掛けは…… 一つの出逢い

久遠 れんり

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第25話 導かれる

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 彼女は、ブルージーンズに、黒色のバイク乗りが着そうなブルゾン。
 あの廃墟で見せた顔は何だったのかと言うくらい、明るくて色々とぼやいていた。
 道が遠いだの、寒いだの。

 俺のことも聞かれたが、適当に御茶を濁す。

 そして温泉宿へ到着して、俺は自身の常識知らずさを知る。

「ありがとうございました」
 そう言って彼女は、大きな宿へ向かっていく。
 見送った後、適当に駐車場に車を駐める。

 そしてだ……
 周りを見回すが、どこも宿が開いていない。
 そう、部屋が空いていないどころではない、やっていないのだ。
 『本日休業中』
 そんな看板が、何かの流行のように舞い踊っている。

 仕方が無く、彼女が入って行った大きな宿へと向かう。
 高そうな感じが、敷地全体からにじみ出す、昔のお屋敷風。

「まあ良いや」

 そう思って、この際開き直る。
 たまのことだ、高くてもいいや。
 そうこの時はまだ、部屋が空いていないなどとは、思ってもいなかった。

「すみませんねぇ、お正月ですし、団体様が入りまして」
「こまったなぁ、周りはやっていないみたいだし……」
「そうでございますね。通常でしたら、飛び込みでもなんとかなりますけれど」

 買う気は無いが、お土産コーナーが開いていたので物色をしていた。
 すると、聞いたことのある声。

 予約もせずに来たんだ。
 ふと考える。
 例の襲われた云々計画。だけど同じ部屋に泊まって……

 まあいい、困っているみたいだし。
 したこと無いまま死ぬよりは、あの人いい人だったし……

 基本、光は看護師、人のために働くくらいいい人なのだ。

「あのー、私の部屋なら、部屋が空いているでしょう?」
「あら、七樂様。確かに離れはファミリー向けですが、その…… 男性ですし」
「まあさっき、車に乗せて貰ったし」
 そう言って照れ照れしていたが、普通なら……

「いや考えが甘かった。町まで降りれば宿もあるだろう」
 そう答えると、女将さんは引き留める。
「温泉の入浴と、お料理なら出せます。それから、戻られてもよろしいのでは? それならば、駅前とかのビジネスホテルで素泊まりすれば、お安くなりますし」
 一見良い考えだが、料理代が幾らだよと思わないでもない。
 だが目的の半分は達成出来る。

「うーん。どうするかな」
 女将さんとしては、仕入れの都合で、多めに買わされた物を、なんとかして出さなければいけない。
 何せ、今ある食材は年末の物なのだ。

 食事をするだけなら、大広間の隅っこで……
 メインの所では、還暦のお祝いをしている様だが、良いだろう。
 あっいや、皆が大広間だから、今日は営業をしていない、レストランのほうを一時的に解放をして。
 等々を高速で考える。

「じゃあやっぱり、泊まりません? 私一人であの大きな部屋使うのも気が引けるし」
 そう、ファミリー向けを取っているのが、なんとなく気になった。
 お一人様で料理込みだが十万くらいする、普段の倍ほどする値段だったが、まあ正月料金。

 そう一人泊まると、十万ずつだと勘違いをしたが、一棟借り上げで込み込み十万。
 家族の場合は、それに人数分料理などが追加されていくが、それはもっと安い。
 本来一人では借りることが出来ないのが普通。


 そして女将さんは、キラリと目が光る。
 このお嬢さん、まんざらでもない?
 そしてあくどいことをする。
 一人プラスではなく、もう人ファミリー分。
 光が勘違いをしていた通り、宿泊料金を吹っかける。

「七樂様がよろしいと言われるなら、そうなさいますか?」
 そう言いながら、何かあっても当旅館は責任を負いませんという念書が二つ出てくる。

 そして宿泊の宿帳。
「本当に良いのか?」
「ええ」
「じゃあそれで」
「そしたら、宿泊並びにサービス代と税金で、十万円となります」
「高け」
 そう言いながら、財布を覗き足りなかったのか、バッグに手を伸ばす。
 ポーチから出てきたのは、帯付きの一万円。

 それがいくつか・・・

 そう、初めての遠出で何かると困るので、ホームページの事故が起こったら、かかる費用を参考に金を下ろしてきた。
 ざっと五百万ほど……

 女将さんと光は目が点である。

 それから十枚を抜くと、無造作にバッグへと放り込まれる。
 女将さんの喉が、つばを飲み込む。
 経営は厳しい。でもこのお方、若そうだから駄目ね。
 ある程度なら、そういう接待もしないでも無い。

 そう、当然光も目が光った。
 此処であったのも何かの導き、貸してくれないかしら。
 何なら、お相手をして……

 少し方向が変わったようだ。
 やるのは決定のようだが……
 脅しから、懐柔へ。

 脅していれば、新道はまたかと怒り、なんとしてでも対応するだろう。
 そう部屋とか、浴室とか自分が入るときには、カメラを仕掛けておこうと考えている。用意周到であり、なぜかその類いは、車の中やバッグの中に持っている。
 昨今の、必須用品隠しカメラ。

 すでに、外は夕暮れだった。
 高い旅館らしく、離れに繋がる通路も、遠くの山を借景として使い、随分趣がある。手前の庭、そこに静かに建つ離れは、景色に会うような外観で造られていた。

 見た目は古民家だが、中は新型。
 高気密、高断熱。
 離れの西側が谷に向かっており、露天風呂となっている。
 建物自体は露天風呂を囲むようなコの字型に造られている。
 そこの縁側から、露天風呂に入れる。
 無論、壁はあり、西に向いた大きな窓を開かなければ外気は入ってこない。
 部屋は、六畳が四間と八畳間が一つ。
 六畳間同士は南北で繋がり、そこに挟まれた八畳間と、温泉と言う造り。

 この離れ、気になるのは、玄関が北東、鬼門に開いているという造りだった。
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