新しい年、新しい自分、変わる切っ掛けは…… 一つの出逢い

久遠 れんり

文字の大きさ
25 / 29

第25話 導かれる

しおりを挟む
 彼女は、ブルージーンズに、黒色のバイク乗りが着そうなブルゾン。
 あの廃墟で見せた顔は何だったのかと言うくらい、明るくて色々とぼやいていた。
 道が遠いだの、寒いだの。

 俺のことも聞かれたが、適当に御茶を濁す。

 そして温泉宿へ到着して、俺は自身の常識知らずさを知る。

「ありがとうございました」
 そう言って彼女は、大きな宿へ向かっていく。
 見送った後、適当に駐車場に車を駐める。

 そしてだ……
 周りを見回すが、どこも宿が開いていない。
 そう、部屋が空いていないどころではない、やっていないのだ。
 『本日休業中』
 そんな看板が、何かの流行のように舞い踊っている。

 仕方が無く、彼女が入って行った大きな宿へと向かう。
 高そうな感じが、敷地全体からにじみ出す、昔のお屋敷風。

「まあ良いや」

 そう思って、この際開き直る。
 たまのことだ、高くてもいいや。
 そうこの時はまだ、部屋が空いていないなどとは、思ってもいなかった。

「すみませんねぇ、お正月ですし、団体様が入りまして」
「こまったなぁ、周りはやっていないみたいだし……」
「そうでございますね。通常でしたら、飛び込みでもなんとかなりますけれど」

 買う気は無いが、お土産コーナーが開いていたので物色をしていた。
 すると、聞いたことのある声。

 予約もせずに来たんだ。
 ふと考える。
 例の襲われた云々計画。だけど同じ部屋に泊まって……

 まあいい、困っているみたいだし。
 したこと無いまま死ぬよりは、あの人いい人だったし……

 基本、光は看護師、人のために働くくらいいい人なのだ。

「あのー、私の部屋なら、部屋が空いているでしょう?」
「あら、七樂様。確かに離れはファミリー向けですが、その…… 男性ですし」
「まあさっき、車に乗せて貰ったし」
 そう言って照れ照れしていたが、普通なら……

「いや考えが甘かった。町まで降りれば宿もあるだろう」
 そう答えると、女将さんは引き留める。
「温泉の入浴と、お料理なら出せます。それから、戻られてもよろしいのでは? それならば、駅前とかのビジネスホテルで素泊まりすれば、お安くなりますし」
 一見良い考えだが、料理代が幾らだよと思わないでもない。
 だが目的の半分は達成出来る。

「うーん。どうするかな」
 女将さんとしては、仕入れの都合で、多めに買わされた物を、なんとかして出さなければいけない。
 何せ、今ある食材は年末の物なのだ。

 食事をするだけなら、大広間の隅っこで……
 メインの所では、還暦のお祝いをしている様だが、良いだろう。
 あっいや、皆が大広間だから、今日は営業をしていない、レストランのほうを一時的に解放をして。
 等々を高速で考える。

「じゃあやっぱり、泊まりません? 私一人であの大きな部屋使うのも気が引けるし」
 そう、ファミリー向けを取っているのが、なんとなく気になった。
 お一人様で料理込みだが十万くらいする、普段の倍ほどする値段だったが、まあ正月料金。

 そう一人泊まると、十万ずつだと勘違いをしたが、一棟借り上げで込み込み十万。
 家族の場合は、それに人数分料理などが追加されていくが、それはもっと安い。
 本来一人では借りることが出来ないのが普通。


 そして女将さんは、キラリと目が光る。
 このお嬢さん、まんざらでもない?
 そしてあくどいことをする。
 一人プラスではなく、もう人ファミリー分。
 光が勘違いをしていた通り、宿泊料金を吹っかける。

「七樂様がよろしいと言われるなら、そうなさいますか?」
 そう言いながら、何かあっても当旅館は責任を負いませんという念書が二つ出てくる。

 そして宿泊の宿帳。
「本当に良いのか?」
「ええ」
「じゃあそれで」
「そしたら、宿泊並びにサービス代と税金で、十万円となります」
「高け」
 そう言いながら、財布を覗き足りなかったのか、バッグに手を伸ばす。
 ポーチから出てきたのは、帯付きの一万円。

 それがいくつか・・・

 そう、初めての遠出で何かると困るので、ホームページの事故が起こったら、かかる費用を参考に金を下ろしてきた。
 ざっと五百万ほど……

 女将さんと光は目が点である。

 それから十枚を抜くと、無造作にバッグへと放り込まれる。
 女将さんの喉が、つばを飲み込む。
 経営は厳しい。でもこのお方、若そうだから駄目ね。
 ある程度なら、そういう接待もしないでも無い。

 そう、当然光も目が光った。
 此処であったのも何かの導き、貸してくれないかしら。
 何なら、お相手をして……

 少し方向が変わったようだ。
 やるのは決定のようだが……
 脅しから、懐柔へ。

 脅していれば、新道はまたかと怒り、なんとしてでも対応するだろう。
 そう部屋とか、浴室とか自分が入るときには、カメラを仕掛けておこうと考えている。用意周到であり、なぜかその類いは、車の中やバッグの中に持っている。
 昨今の、必須用品隠しカメラ。

 すでに、外は夕暮れだった。
 高い旅館らしく、離れに繋がる通路も、遠くの山を借景として使い、随分趣がある。手前の庭、そこに静かに建つ離れは、景色に会うような外観で造られていた。

 見た目は古民家だが、中は新型。
 高気密、高断熱。
 離れの西側が谷に向かっており、露天風呂となっている。
 建物自体は露天風呂を囲むようなコの字型に造られている。
 そこの縁側から、露天風呂に入れる。
 無論、壁はあり、西に向いた大きな窓を開かなければ外気は入ってこない。
 部屋は、六畳が四間と八畳間が一つ。
 六畳間同士は南北で繋がり、そこに挟まれた八畳間と、温泉と言う造り。

 この離れ、気になるのは、玄関が北東、鬼門に開いているという造りだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い

森本イチカ
恋愛
妹じゃなくて、女として見て欲しい。 14歳年下の凛子は幼馴染の優にずっと片想いしていた。 やっと社会人になり、社長である優と少しでも近づけたと思っていた矢先、優がお見合いをしている事を知る凛子。 女としてみて欲しくて迫るが拒まれてーー ★短編ですが長編に変更可能です。

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母、雪江は大学教授であり、著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

ちゃんとしたい私たち

篠宮華
恋愛
小さい頃からずっと一緒に過ごしてきた幼馴染み同士の若菜と宏隆。付かず離れずの距離で仲良く過ごしてきた二人だったが、あることをきっかけにその関係は大きく変化して… 恋愛にあまり興味のなかった女子と、一途な溺愛系幼馴染み男子のお話。 ※ひとまず完結しました。今後は不定期に更新していく予定です。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

処理中です...