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第2章 周辺国との和解へ向けて

第24話 火薬の使用と新武装登場。

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 攻撃隊は、一度試しただけで、王都へと帰ってきていた。

「ええ。俺達は見ました。暗闇が迫る中。――確かに奴が、落とし穴を踏み抜きました。ところがです。けたたましい音を立てたと思ったら、砂塵を巻き上げて、浮いたのです。そのまま二メートル以上も跳ねました」
 その後、彼は沈んだ様子になる。

「そこで、巻き上げた砂塵で、息はできないし、目は痛く。思わず座り込んだのです。俺だけですが。――砂塵が晴れた後。仲間は胴体を真っ二つにされていました。そうです。あそこで生き残ったのは、俺だけです」
 そう言って彼は、報告の後。しくしくと泣き始める。

 どうやら、彼の友人? 愛すべき者が、その場に一緒に居たらしく。失ったらしい。

 だが、今回の作戦部隊に、女性はいなかった。

「そうか、報告ご苦労。砂塵については、何とか考えよう」
 涙をこぼし、退室する彼を見送る。

「さて、どうするか?」
「男同士なんて、不毛ですねえ」
 ムルトマー男爵が、ため息交じりに発言をする。

「そっちじゃない。敵側アーマーの件だ。空まで飛ばれたらかなわん」
 思わず。伯爵は、机の天板をたたく。

「飛ばなくても、かないませんけどね」
「ムルトマー男爵殿。くだらない、もの言いはやめて、次はどうするかを、決めねばならんだろう」
 隊長である、ポウタネン伯爵にそう言われて、彼はきょとんとする。

「とりあえず、敵の砦には石が届きましたし、攻撃を続ければよろしいでしょう。ただし、我が軍の側面と背面には十分気を付けてください。私なら、回り込んで攻撃します」
 笑顔でひょうひょうと、進言をする。

「分かった、対処しよう。他に意見はないか? 無ければ各隊持ち場に戻れ」
「「「はっ」」」

 今回、第三次攻撃隊と名付けられた。
 隊長ライハラ=ポウタネン伯爵。
 副官プルック=プッリネン男爵。

「ふうむ。手がないというのは、厳しいですわね」
「だが報告を聞くと、全く手がないわけではないようだが」
「ほう。伯爵その手とは?」
 副官プッリネン男爵の目が光る。

「まだ思いつかん。だが、きっと何かあるはず」
「ご期待しております。さて、向こうでワインでもいかがでしょうか?」
「いやいい。今は遠慮をしておこう」
「あら、それは残念でございます。では失礼」
 そう言って、部屋を出て行く。

 そんな頃、マウリ=ムルトマー男爵は考えていた。
「どう見たって、人は入っているが、あの鎧はかなり重い。それを着て平気で動くには、かなり鍛える必要がある。だが、そんな鍛えてどうにかなるレベルの、重量で収まるのか?」

 椅子に座り、ワインをあおる。
「奴が動くたびに発する音。あれの正体さえ分かれば、原理が分かるかもしれない」
 この時点で彼は、あれが、人の動きを何らかの方法で、サポートをするものだと考えた。
 ただ文明レベルと、基本情報が不足しているため、結論へと至れない。

 答えは今まさに、目の前に大量にあり、それを圧縮し、解放時の力を使っている。
 そんな事は思いもよらない。
 太陽の周りを、地球が回っているがごとく。
 この世界『天動説』が今はまだ、基本である。

 そんな中、彼は水蒸気の存在に気がついた。
 そう、観察を重ね。お湯を作るときに発生する何か?
 それに興味を持つ。紙を持っていくと、上昇をさせる力がある。

 思いついて、湯の沸く鍋に漏斗をかぶせ、そこからでる物を、羊の腸に溜めてみた。

 一気に腸は伸びていき、膨らみ始める。そして、限界を超えて破裂をする。

 それを繰り返して、何かを思いつく。
 そして、家政婦に腸詰め用の腸を使ってしまい。叱られる。

 そう。彼が思いついたのは、蒸気機関。
 それが、あれの正体ではないかと考えた。

 そして彼は、実験を始める。
 周囲から、奇異な目で見られながら。


 そんな頃。
「砦から連絡が入ったぞ。敵がトレビュシェットタイプの投石機を使い始めたらしい」
「それはなかなか。誰か歴史に詳しい人間でもいるのでしょうか?」
 妙に落ち込んで、此方に入り浸っている、ミステリー研の山本が聞いてくる。

「馬鹿だな。トレビュシェットは、この世界には存在していない。俺達も此方の歴史書は読んだ」
「では、今までは?」
「カップの先に石を置き、ねじった紐で巻き上げてリリース」
「あーなるほど。原始的な奴ですね」
「そうだ。それは良いとして、もう黒色で良いから使うぞ」
 裕樹がそう叫ぶと、やっと出番かというようにゾンビが集まってくる。

 この世界、労働基準法などはない。
 さらに、今やっている事は、みんなが楽しんで行う作業。
 つまり、日夜趣味に没頭している状況。
 その結果。すぐにゾンビが量産される。

 それには、男も女もない。
 みんなが、同じ表情。
 薄笑いを浮かべて、何かを持ち。集まってくる。
 それも、同じ格好で作業を続けた結果なのか、体が傾き、足を引きずるようにやってくる。

「試作品はできている。いつでも使え」
 並んだ物は、自動小銃。
 発射した時のガス圧で、トリガーが自動でセットされる。

「基本は、NATO弾の七ミリだ。そして」
 出てきたのは、一回りでかい。

「これは、二十ミリ。基本は対戦車だが、気導鉄騎兵団に持って貰おう。ただあまり連射すると銃身が持たん。三方向に放熱とゆがみ防止に放熱板を付けてあるが、十発ごとに休憩。連射も三秒に一発にしてある」
 そう言って、ちょっと悲しそうな顔を見せる。

「素材か?」
「そうだな。それとやはり、工作精度の問題かな。黒色はゴミが出るんだよ」
 黒色は、黒色火薬のこと。

「詰まると、やばそうだな」
「その辺りは使用者に説明をしてくれ。使用後、毎回必ず分解整備。お掃除が必須だ。火縄と違い、ライフリングは切ってあるし、簡単にどうこうはならんと思うが、ジャムが起こる可能性もある」
「ああ汚れで、排莢ができなくなるのか」
「そうだ」

 そういう事で、あっという間に大弓の役目は終わりそうだ。
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