スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり

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第四章 世界との関わり

第33話 美葉は、その一言で、地獄への一歩を踏み出す

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 盛大に目が泳ぎ、何かを考える美葉。

 ここで、望に抱いてほしいなんて、言ってしまえば殺される可能性がある。
 いえ、親友としての付き合いで分かる。好実の目は本気。確実に殺られるわ。
 なんとか、自分の居場所と気持ちに折り合いを付けるため頭の中をフル回転させる。

 ぽこぽこぽこ、ちーん。

 某小坊主のような思考を行い、答えを出す。
「ねえ。ここって、手が足りないと言っていたでしょう。私料理もできるし。もう向こうには帰らない。手伝わせて。いえ、是非お手伝いをさせて」
 そんな答えを、はじき出した。

 それを聞いて、好実の眉間に何かピキッと来たが、手が足りないのは責任者として十分実感をしている。
 その葛藤が、好実を襲う。

「ちっ。滞在を認めます。王国の神民として向かえましょう」
 舌打ちが出た。
 だが、すでに好実は王妃様と呼ばれ続け、自覚もしてきている。
 人は成長し変わるもの。

 そう、たかが半年ちょっとだが、変わるには十分。
 大いなる国の、大いなる王所は決断をした。
 そして迎え入れるという言葉。
 あなたは、ここに居る以上、私の下よとの明言。それは、好実の意思表示。

 意外と短い時間で、決着が付いた。
 ただ姉さんと同じく、言葉をしゃべる事ができない。
「伽羅。美葉に加護を与えて。言葉が分からないと困るから」
 俺に頼まれた伽羅は、すすすと寄ってきて、美葉の頭へ手の平をぽんと適当に置く。
 まれに見る、いい加減な感じの、加護を与える儀式。
 
 するとなぜか、好実が伽羅に耳打ちをする。
「修行は、碧の方が得意でしょう。呼びます」
 そして、碧が姿を現し、スパッと、見た事のある体勢ができあがると、ふっと姿が消えた。一瞬の出来事。

「あっ」
「いいのよ。ここで働くなら必須要件よ。お父様達へもう帰らないと言って、修行に出かけた事を伝えておいてね。私は、お姉様とお話をしに行くの。お願いね」
 そうして、スキップをしながら姉さんの部屋へ向かって行く。
 新作ワインと、フルーツが指示により運ばれていく。

「いつの間に、指示をしたんだ?」

 とぼとぼと、父さん達の部屋へ向かう。

 話し合いと、あった事を父さん達に説明して、何とか納得して貰う。
 母さんが変な顔をして、一言。
「日和ったわね。まあ良いけれど」
 そう言って、ドボドボとワインを注ぎ飲み始める。

 そして、美葉は帰ってこなかった。
 父さん達は、気にした様子はなく、元気に帰って行った。
 今度来るのは、夏休みだそうだ。

 当然、姉さんもノリノリ。きっと、また来るだろう。

 おれは、今回持って来て貰った本を、にまにましながら眺めている。
 ただ、父さんが言うには、厳密には物理特性や、化学変化にちょっとした差異があるような気がするという事だ。
 その辺りは、試さないと分からない。

 料理や建築。物理や化学。
 そして気が利く事に、小学校や中学校、そして高校の教科書や、算数のドリルまで持って来てくれたようだ。
 ただ、中学校の教科書には、俺の歴史。いくつか人に見せてはいけない歴史が、書き込まれている。
 かっこいい技名集なあ。
 あの頃俺は、何を考えていたんだろう。

 懐かしく見ていると、そっと好実が近寄ってきて、背中からハグ気味に覗き込む。
 いま見ているのが、算数ドリルで良かった。

「これを元に、皆のための教科書を作ろう。問題には実用的な事例を入れて、応用を鍛えよう」
「そうね。それなら、どう役に立つのかを理解してもらえるわね。以外と勉強など必要ないという人が多いから」
「そうだな」

 この時、父さん達も帰ったため、彼女の存在をすっかり忘れていた。

「最初は数字を覚えて、物の売り買い。物の長さや高さ面積や周長」
「川に、橋を架ける計算とかどう?」
「構造計算?」
「一足飛びにそこまで行かなくても、丸木橋から行けば良いじゃ無い」
 呆れた感じで言われた。
 魔法で創るときも、ざっと計算をするから、つい癖が出た。

「よし教材で、ジオラマを創ろう」
「そういえば、この世界の物差しとか、どうなっているの?」
「もう、先に原器を作り指定する。根拠は後で作るか。あー神の定めた物でいけそうな気もする」
 一瞬、好実も吹き出すが、なんか納得をしたようだ。

「多分それで通るわ。この国の人、そういう所。素直だから」
「そうだね。助けを求め、そこから救われて伝説の国へやって来た。そして、来てみれば過去の王国と違い、俺達の常識で魔道具を創って整備をしたから、まあカルチャーショックは大きいと思うよ」
「そうね。皆、道具があっても、何に使うか分からない人多いものね」
「衛生観念や、常識も違うし。最初は皆、街角で用を足すからびっくりしたもの」
「そうね」

 助けた住人が来始めて、すぐに町が匂い始めた。
 あわてて浄化をしまくり、家にあるトイレの説明。
 何故外でしては駄目かを、伝染病の発生リスクを踏まえて説明した。
 むろん、家へ帰ってすぐの、手洗いとうがいも。

 後お風呂と、歯磨き習慣。
 本気で、浄化ゲートを、町中に創ろうかと思ったくらいだ。

 そして、食べる事ができれば、何でも良いという人たちへ、それだけではなく美味しく食べる習慣を付けさせた。
 

 その頃。
「ご飯食べたい。水だけじゃ駄目。もう死ぬぅ」
 美葉は二人の追体験を、世界規模で行っていた。
 それはあの時、モンスターを刈り尽くし、強いものが居なくなっていたから。

 今では無意志ながら、飛び出してきたシーサーペントをワンパンで倒せるくらいにはなっていた。
「まあ良いでしょう。次」
「もううぉぉぉ。お家へ帰る。日本へかえしてぇ」
 大海原に声が響く。
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