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第1章 壊された生活と異世界の村
第26話 そして私は、途方に暮れる
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「なんで、こっちに?」
一年ぶりに会った彼は変わらず。
いいえ。少し、たくましくなっていた。
私は駆け寄り、抱きしめる。
それと共に、あの時の記憶を上書きする。
今も鮮明で、夢に見る。
車の下で、冷たくなっていった。あの姿。
「あー、普人。知り合いか?」
「ええ。知り合いです」
村長が聞いてくる。
だが、俺と委員長の関係を理解したのだろう。
「じゃが、大丈夫か?」
「さあ?」
笑うしかない。
今の俺の家族。今更、離れる事なんてできやしない。
「あっ、あった。これ貰ったの。あなたが居なくなってから、お母さんが見つけてくれて」
「ああ。受け取ってくれたんだ。君に渡すつもりだったから」
「そう良かった。あれから、いろんなことがあって、毎日あの場所でお話ししていたけれど、こんな所に居たのなら、聞こえていなかったよね」
「そうだね。残念だけど。ごめん」
おれは、はははと。力なく笑う。
話を聞くと、ひょっとすると、自惚れかもしれないが。
委員長は、俺の事を忘れずに、この1年過ごして来たのだろう。
「家に行こう。紹介したい人たちもいるし」
「家があるの? 紹介したい……。 人? たち?」
あー察したか。委員長の表情が、こわばった。
「まあ行こう」
手を繋いで、引っ張っていく。
委員長は、周りを見回し、「田舎のお家だ」と珍しそうに見ている。
家に着き、「ただいま」と声をかける。
ちょうど、久美が出てきて、委員長とつないでいる手をめざとく見つける。
目が、きらーんと光る。
「なに、普人。昔の知り合いが、こっちに来ちゃったの?」
鋭いな。
「ああ。そうだ。みんなに、紹介するから。みんな居る?」
「うん。呼んでくるね」
「居間に、居るから」
「はーい」
とてとてと、家の奥へ入って行く。
水とお茶っ葉。
急須と湯飲みを持って、家に上がる。
「どうぞ」
「お邪魔します」
委員長は、おずおずとついて来る。
居間で囲炉裏の脇に座り、自在鉤に水の入った鉄瓶をかける。
囲炉裏の真ん中に小枝を山形に組み、魔法で火をつける。
その瞬間。目を見開く委員長。
「魔法。あの変な女の人が言ったの。本当だったんだ」
「ああ。でも、普通じゃ使えなくて。俺が精霊に使い方を聞いて、使えるようになったんだ」
「精霊? そう。なんだ」
うーん。委員長が、思いっきり困惑している。
火が起きてきたら、少し大きめの木を、火の上に持たせかける。
「おまたせ。ああ。湯飲みは、用意してくれたんだ」
「ああ」
皆が、囲炉裏の周りに座る。
「誰から、いく」
「まあ。久美からでいいだろう」
「久美?」
委員長の、目が光ったがまあ良い。
「えーと、私が川瀬久美。今年で4年目。次が長瀬さんかな」
「それじゃあ。私が長瀬みゆきで、この子が長瀬隆。今、本当は4歳だね。来たのは普人と一緒の事故」
「次。私が、広瀬佳奈美。私も普人と一緒」
「私も、普人と一緒で、瀬尾佳代。よろしくね」
「私は、普人君とクラスメートで、高橋香織です。よろしくお願いします」
「香織ちゃんは、どうして、こっちに来ちゃったの?」
それを聞かれ、ちょっと、考えた後。
「ちょっと、言いづらいのですが。あの事故現場に毎日行っていて。手を合わせた後。赤信号なのに、ふらっと出そうになった子供が居て。つい手を出して。逆に自分がバランスを崩して。車道側へコロンと。気が付けば、変な女の人が。死んだから自由にする。私の世界を、発展させろって」
「わー健気。普人と付き合っていたの? どのくらい?」
いきなり。何を聞くんだ、久美め。
「ちょうど、1週間ね」
「ああ。そうだな」
「あらー。丁度一番うれしい時か。それは、辛いわ」
なんだか、みんな頷いている。そうなのか?
「あのー、長瀬さん。その男性って、お子さんなんですか?」
「そうよ。一緒にこっちへ来て。あの女神が、体を15歳くらいにしたから。いきなりこんなに大きくなっちゃって」
「と言うことは。皆さん。私達より年上なんですよね?」
皆の目が光る。
「香織ちゃん。私は18歳。他のみんなは、16歳いいわね」
謎のプレッシャーが、場を支配する。
こくこくと頷く、委員長。
「それで皆さん。この家で、共同生活をしているんですよね」
「そうね。一緒に来た。普人と暮らし始めて、その後、久美さんが転がり込んできたのよ」
長瀬さんが、説明する。
「転がり込んだは、ないでしょう」
「いえ。あれは、乗り込んだが正解かも」
そう言って、ふふっと笑う瀬尾さん。
「久美さんは、どうして? ご自分の家は、あったのでしょう?」
「ああそうか。そこから説明が必要か。この家は、すべて村の物でね。借りているだけなんだよ」
「そうなんだ」
「それで久美は。一年この村に居て。その後、調査団に参加していてね。帰ってきて。家が無いから、ここへ転がり込んだんだ」
「また。転がり込んだって言う」
ふくれっ面になる。
「どうして、この家に?」
「そんなもの、決まっているじゃない」
その瞬間。二人の間に、火花が飛ぶ。
鍛えられた久美は、躊躇などしない。
「普人が、気に入ったからよ」
言っちゃった。
まあいい。どうせすぐばれる。
「ほかの方。良いんですか? その。同じ家で。その……」
「ああ。大丈夫。全員彼のだから」
ガーンという顔。ほんとうに、そんな表情出るんだ。
「えっえっ? それこそ、良いんですか?」
「ああ。ここ日本じゃないし。男少ないし。良い男は特に」
「えっでも」
「まあ。香織ちゃん。高校生だから。夢見る乙女か」
言われて、赤くなる委員長。
「ここのお風呂とか、水道とか。村へ続く道とか。ぜーんぶ。普人が作ったのよ」
「そうそう。それまで、夜真っ暗だったものね」
「水も。必要なら、井戸から汲んでこないと、いけなかったし」
思った以上に、普人君は優秀だったようだ。
でも、死んで。いくら私のいない世界でも、1年で4人。
うう……。モテるのは、でも、軽過ぎだよ。
一年ぶりに会った彼は変わらず。
いいえ。少し、たくましくなっていた。
私は駆け寄り、抱きしめる。
それと共に、あの時の記憶を上書きする。
今も鮮明で、夢に見る。
車の下で、冷たくなっていった。あの姿。
「あー、普人。知り合いか?」
「ええ。知り合いです」
村長が聞いてくる。
だが、俺と委員長の関係を理解したのだろう。
「じゃが、大丈夫か?」
「さあ?」
笑うしかない。
今の俺の家族。今更、離れる事なんてできやしない。
「あっ、あった。これ貰ったの。あなたが居なくなってから、お母さんが見つけてくれて」
「ああ。受け取ってくれたんだ。君に渡すつもりだったから」
「そう良かった。あれから、いろんなことがあって、毎日あの場所でお話ししていたけれど、こんな所に居たのなら、聞こえていなかったよね」
「そうだね。残念だけど。ごめん」
おれは、はははと。力なく笑う。
話を聞くと、ひょっとすると、自惚れかもしれないが。
委員長は、俺の事を忘れずに、この1年過ごして来たのだろう。
「家に行こう。紹介したい人たちもいるし」
「家があるの? 紹介したい……。 人? たち?」
あー察したか。委員長の表情が、こわばった。
「まあ行こう」
手を繋いで、引っ張っていく。
委員長は、周りを見回し、「田舎のお家だ」と珍しそうに見ている。
家に着き、「ただいま」と声をかける。
ちょうど、久美が出てきて、委員長とつないでいる手をめざとく見つける。
目が、きらーんと光る。
「なに、普人。昔の知り合いが、こっちに来ちゃったの?」
鋭いな。
「ああ。そうだ。みんなに、紹介するから。みんな居る?」
「うん。呼んでくるね」
「居間に、居るから」
「はーい」
とてとてと、家の奥へ入って行く。
水とお茶っ葉。
急須と湯飲みを持って、家に上がる。
「どうぞ」
「お邪魔します」
委員長は、おずおずとついて来る。
居間で囲炉裏の脇に座り、自在鉤に水の入った鉄瓶をかける。
囲炉裏の真ん中に小枝を山形に組み、魔法で火をつける。
その瞬間。目を見開く委員長。
「魔法。あの変な女の人が言ったの。本当だったんだ」
「ああ。でも、普通じゃ使えなくて。俺が精霊に使い方を聞いて、使えるようになったんだ」
「精霊? そう。なんだ」
うーん。委員長が、思いっきり困惑している。
火が起きてきたら、少し大きめの木を、火の上に持たせかける。
「おまたせ。ああ。湯飲みは、用意してくれたんだ」
「ああ」
皆が、囲炉裏の周りに座る。
「誰から、いく」
「まあ。久美からでいいだろう」
「久美?」
委員長の、目が光ったがまあ良い。
「えーと、私が川瀬久美。今年で4年目。次が長瀬さんかな」
「それじゃあ。私が長瀬みゆきで、この子が長瀬隆。今、本当は4歳だね。来たのは普人と一緒の事故」
「次。私が、広瀬佳奈美。私も普人と一緒」
「私も、普人と一緒で、瀬尾佳代。よろしくね」
「私は、普人君とクラスメートで、高橋香織です。よろしくお願いします」
「香織ちゃんは、どうして、こっちに来ちゃったの?」
それを聞かれ、ちょっと、考えた後。
「ちょっと、言いづらいのですが。あの事故現場に毎日行っていて。手を合わせた後。赤信号なのに、ふらっと出そうになった子供が居て。つい手を出して。逆に自分がバランスを崩して。車道側へコロンと。気が付けば、変な女の人が。死んだから自由にする。私の世界を、発展させろって」
「わー健気。普人と付き合っていたの? どのくらい?」
いきなり。何を聞くんだ、久美め。
「ちょうど、1週間ね」
「ああ。そうだな」
「あらー。丁度一番うれしい時か。それは、辛いわ」
なんだか、みんな頷いている。そうなのか?
「あのー、長瀬さん。その男性って、お子さんなんですか?」
「そうよ。一緒にこっちへ来て。あの女神が、体を15歳くらいにしたから。いきなりこんなに大きくなっちゃって」
「と言うことは。皆さん。私達より年上なんですよね?」
皆の目が光る。
「香織ちゃん。私は18歳。他のみんなは、16歳いいわね」
謎のプレッシャーが、場を支配する。
こくこくと頷く、委員長。
「それで皆さん。この家で、共同生活をしているんですよね」
「そうね。一緒に来た。普人と暮らし始めて、その後、久美さんが転がり込んできたのよ」
長瀬さんが、説明する。
「転がり込んだは、ないでしょう」
「いえ。あれは、乗り込んだが正解かも」
そう言って、ふふっと笑う瀬尾さん。
「久美さんは、どうして? ご自分の家は、あったのでしょう?」
「ああそうか。そこから説明が必要か。この家は、すべて村の物でね。借りているだけなんだよ」
「そうなんだ」
「それで久美は。一年この村に居て。その後、調査団に参加していてね。帰ってきて。家が無いから、ここへ転がり込んだんだ」
「また。転がり込んだって言う」
ふくれっ面になる。
「どうして、この家に?」
「そんなもの、決まっているじゃない」
その瞬間。二人の間に、火花が飛ぶ。
鍛えられた久美は、躊躇などしない。
「普人が、気に入ったからよ」
言っちゃった。
まあいい。どうせすぐばれる。
「ほかの方。良いんですか? その。同じ家で。その……」
「ああ。大丈夫。全員彼のだから」
ガーンという顔。ほんとうに、そんな表情出るんだ。
「えっえっ? それこそ、良いんですか?」
「ああ。ここ日本じゃないし。男少ないし。良い男は特に」
「えっでも」
「まあ。香織ちゃん。高校生だから。夢見る乙女か」
言われて、赤くなる委員長。
「ここのお風呂とか、水道とか。村へ続く道とか。ぜーんぶ。普人が作ったのよ」
「そうそう。それまで、夜真っ暗だったものね」
「水も。必要なら、井戸から汲んでこないと、いけなかったし」
思った以上に、普人君は優秀だったようだ。
でも、死んで。いくら私のいない世界でも、1年で4人。
うう……。モテるのは、でも、軽過ぎだよ。
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