異世界の管理が悪く、(影の)管理者として派遣されました

久遠 れんり

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第3章 世の平定 獣人領

第44話 獣人族王都

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「到着されたようです。それらしい馬車が王都に入ったと、門番から連絡が来ております」
「連絡からまだ5日だぞ。早すぎる」
「馬車が特殊なようですね。情報によると道が少々悪くても、キャビンはあまり揺れておらず。走る音も非常に静かだったと」

「素晴らしいな。見た目は普通の馬車だったと、連絡が来ているが」
「伝承にあるような、馬なしではなかったようです」
「ハイヒューマンか。知恵とお力が欲しいな」


 宿も決まり、ふらふらと4人で獣人族の王都を少し見て回る。

 全体的に魔人族領よりも、少し文明度が低い? 感じがする。
 だが、雑多と言うか、活気はある。
 
 ただし、気を抜くと危ない。
 まるで、昔見た記憶のある。某北海道のテレビ番組が放送をしていた、タレント2人? 一人は社長? とディレクター陣。総勢4人が、原付に乗ってベトナム縦断する旅で、出発直後に撮影された、ハノイの町中。あの雑踏と言うより、混沌と言えば通じるであろうか。

 人、馬車、荷車が混然一体。
「これは、慣れないと危ないな」
「そうね。インドとか、こんな感じなのかしら?」
「ああ。俺も。昔見た、ベトナムの映像を思い出したよ」
「やっぱり。私たちからすると、アジア圏の写真とか、映像が思い浮かぶわよね」
「主。そのアジアとかベトナムと言うのは、どこの話じゃ?」
「私(わたくし)も気になりますわ」

「俺と、みちよの元居た世界。そこの地名だ。ベトナムは、俺たちの住んでいた所より少し暑い国だな」

「主たちの住んでいた所も、国として分かれていたのか?」
「こっちほど、単純じゃなくて、 196か国くらいあったと思う」

「そんなに種族が、いるのですか?」
「種族は一つ。こっちで言う、ヒューマンだけだ」
「それなのに、そんなに多くに……」
「まあ、国の生い立ちや、宗教。その他もろもろ。いろいろあるのさ。いまだに争っている国もあるしな」

 ふと視線を感じる。この雑多な人ごみの中で、感じる。刺すような視線。これは、教会関係者ではないな。

 くだらないことをしゃべりながら、市場の方へ移動をする。
 話を聞くと、店を構えた商店よりも、市場の方が掘り出し物があるようだ。

 到着した市場は、もうね。
 はぐれるのも、必至という状況。

 人人人。
 簡単な日よけの下に、簡単なテーブルを置き、商品が並べてある簡単な市場。
 だが、お祭りの縁日状態で、店にも近づくことができない。

「これはだめだ。中に入りたいが、何人かスリもいる。ちょうど夕方の混雑時間のようで、この中に入るのは無謀だ。いったん帰って出直そう」
「そうね。この中に入るのは無謀ね。ラッシュ時のホームよりひどいわ。あちらこちらで騒動も起こっているみたいよ」

 そう思いながら周りを見る。
 結構若い女の子でも、猛然と突っ込んで行っている。
 それも目当てにしている店に向かい、一直線。
 力ずくで人をかき分けて。まさに無秩序な流れ。
 そりゃぶつかるし、喧嘩にもなるな。

「やはり、出直そう」
「そうね」
 

 宿に帰ると、すごく疲れていた。
 これは、ここまで来た旅の疲れよりも、市場での疲れの方が大きい。人波に酔った状態だろうか。

「宿に帰ってくると、やっと落ち着いたな」
「あれは、すごかったですね」
 サラスは、さすがに慣れておらず、疲れたようだ。お嬢さんだしな。

「ところで、市場に向かう途中で、じっとこちらを見つめていたやつがいた。気が付いたか?」
「いたのう。主も気が付いていたのか? あれは、トラ系の獣人で、かなりの高レベルじゃった。あれは、ひょっとすると獣人族の勇者かもしれんの」

「フェンは気が付いたのか。こちらも舐められないように、力を少し開放しているせいかな?」
「目を付けたなら。また、改めてこよう。来れば、格の違いを教えてやろうぞ」


  俺は、獣人族の勇者として、この世界に召喚された。
ただ。この世界は、元居た世界よりも圧倒的に住みやすい。
 それは、この世界では、獣人族として。いや、一人の獣人として、個を有することができるからだ。

 前の世界では、名前など無かった。
 セテンタ イ スィンコだが、周りに同系列セテンタ が多くいたため、イスィンコと呼ばれていた。
 思い出したくもないし、ほとんど何も知らない。
 前の世界はたしか、 アバンサードと呼ばれていたが、詳しい世界の情報は知らない。

 ただ、この世界よりも、技術は圧倒的に進んでいたように思う。俺は物心がついた時から、この世界で見られる農場ではなく、野菜を製造している感じの農業プラント。
 つまり建物の一室で、土に混合するための素材袋を開封して、目の前の穴に中身を入れることをずっと続けていた。
 こっちに召喚されるまでずっとだ。

 3交代が基本で、8時間働くと強制的に交代。
 休憩と食事、それと睡眠で8時間。
 睡眠か休憩とされた、待機時間が8時間。
 待機時間は、だれかが倒たりすれば、交代させられるため。
 なくなる。

 そして、獣人は労働種と呼ばれ、世界を管理していた人間たちに創られた種族だった。まあ。その情報もどこまでが正しいのかもわからない。

 確実に分かっているのは、自分が担当していた場所のこと。
 それと雄の場合は、15歳を超えたときから義務となる種付け作業が週に1回。雌も多分同じだろう。それだけだ。

 ああ、それと俺の呼び名は、5番を示すと言うことだ。

 だから、ここに連れてこられ、女神に力をもらった時には喚起した。

 力と共に与えられた情報に、強ければ王となれるとも教えられた。
 そして、別の大陸には、ヒューマンと呼ばれているようだが、人間もいる。

 決めた。
 とりあえず「俺は、王になる」
 俺は、叫んでいた。
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