泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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月光の美しさの中で

第1話 月に導かれて

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「『秋風に たなびく雲の 絶え間より もれ出づる月の 影のさやけさ』。いま俺は、雲間で光る美しき月をじっと見ている。ああ、なんて美しい月なんだ」
 横には、月の明かりで陰影が付いて、般若のような形相で睨む女が一人。

「馬鹿なことを言っていないで、どうすんのよ」
 ここは、県境にある暗く淋しい峠。

 新しくトンネルが開通をして、すっかり過疎化している道。
 だからといって、道の真ん中にタイヤがはまるような、大きな穴が開いていて、良いわけじゃないと思うんだ俺は。
 そのおかげで、今絶好調に追い込まれている。

 この時間、車も人もいないし、俺はついアクセルを踏み込んだ。で、コーナリングの途中に、突然現れた穴にはまった。
 穴にはめるのは得意なんだよ。ふふふっ。

 だけどまあ、車ってさあ、避けなきゃと思って見てしまうと、見事にそこへ行くよね。穴にはまり、見事にパンクした。
 ハマった。こまった。動けない。どうしよう。今ここである。

「まあ、何とかなるだろ」
 助手席には、俺の幼馴染みと言うほどでもないが、腐れ縁の女が一人。
 姫田 恋ひめた れん中学校の時にクラスが同じになり、なんか懐かれた。
 俺以外には普通だが、俺に対しては常に上から目線。
 何かとマウントを取ろうとしてくる、私だって星人だ。
 
 当然、今の状況では、ご立腹である。
 大体、突然人の部屋にやって来て、太平洋が見たいとか言い出したのが切っ掛け。おかげで、夜中に車を運転することになったのだよ。
 まあ、最近してなかったし、欲求不満に負けて誘われるまま、下心全開で出てきたのも悪いが。
 そう、こいつとは、定期的に寝る関係。
 だが、恋人同士ではない。

 今のタイヤと同じような、ガバガバな関係。
 サイドが大きく裂けたタイヤは、車載のパンク修理剤では、補修できない。
 昔の車に乗せられていた、緊急タイヤがあれば、交換して麓まで降りられたのに……

「仕方が無い。レスキューを呼ぶか」
 会員以外だと高い。馬鹿みたいに高い。
 でも会費も高い。
 ここから町まで、距離もあるし……
 一体、おいくら万円になるのか……
 おっと、近所のおばさんのような事を……

 当然、出費がデカければ、遊びに行く予算が、大きく減ることになる。
 さらに、アルミホイールのリムまで曲がっているから、一式交換になるだろう。

 そんな所に、運良く? 軽トラがやって来た。
「どうした? ああ、ハマったのか」
 どうやら地元民。すぐに状態を理解してくれたようだ。

「四穴の、PCDは100だな。オフセットもまあいけるか。ちょっと待ってろ」
 そう言って、軽トラは走って行ってしまった。
 いや普通に。

 どこかのオッサンみたいに、峠だからと言って、皆がみんな、入り口から出口まで流しっぱなしで走る奴は居ない。そんな事をすれば、タイヤがすぐ駄目になるからな。

 期待だけさせて見捨てられた? 丁度、そんな不安になるくらいの時間。
 二十分くらいして帰って来た。
「ジャッキアップしろ。使えるならこれをやる」
 そう言って、荷台からタイヤが出てきた。

「昔乗っていた軽のホイールだ。使えるならやるよ」
 そう言って、一本合わせてみて、いけそうだと判断をしたのだろう。
 あっという間に四本とも交換した。
 無論手伝ったよ。

「ありがとうございました」
「じゃあな。今度はハマるなよ」
 そう言って、さっさと行こうとするので、引き留める。

「俺、出合 基樹であい もときです。後日御礼に来ますので、連絡先を教えてください」
 そう言ってメモを渡す。
「いや、使っていなかった奴だし、ねんが経っているからタイヤも固いぞ」
「それでもです」
「仕方が無い」
 そう言って、名刺をくれた。
 実家で農家と土建屋をしているらしい。

「超零細だが社長だ」
 そう言って笑う。
 それが、影谷 誠二かげたに せいじさんとの出逢いだった。

 でまあ、帰ろうとしたが、ナビは許してくれない。
「直ったのなら、良かったわ。行くわよ」
 そう言って、延々と百六十キロ位を走って、夜明けの海に到着。

 秋の海は流石に寒い。
 観光地だというのに、まだ店も開いていない。
「もう六時なのに、気合いが足りないわね」
「海はもういいのか?」
 浜にいたのは何秒だろう?

「うん。見たし寒い。どこかに入ろう」
「どこかって、どこだよ?」
「二十四時間の店くらいあるでしょ」
 そう言って、ファミレスを探して入る事に。


 ―― ツンケンして、ろくでもないと思われている彼女。
 姫田 恋ひめた れんは、中学の時に親の転勤により余所からやって来た。
 友達を作ろうとしたが、余所から来た身では、小学校や近所の話題とか、共通性が見いだせず、苦労をしていた。
 そんな時に、隣の席にいた基樹が橋渡しのようなことをして、友達ができた。

 それから気になり、目で追い始めた。
 彼は人当たりが良く、面倒見がいい。

 徐々に好きになっていったのだが、彼女は引っ込み思案。
 好きになったが為に、徐々に普通に話せなくなってしまった。
 そう、好きな子にちょっかいを掛ける逆パターン。

 なぜか、照れ隠しに高圧的な態度を取ってしまう。

 だけど、嫌われることもなく、付き合いは続く。
 完全リサーチをして、同じ高校へ進学。
 そして同じ大学へ。
 ツンケン癖は彼女に定着をして、どうやって普通に接すればいいのか分からなくなる。

 でも、気合いを入れて、告白をしたこともある。

 だが、日頃の行いが悪いせいか、すべて冗談かからかいだと理解されてしまった……
 そう、彼女は不幸な女。
 無論、彼に近寄る女は「あたしの彼に何の用」などと言って排除した。

 ずっと好きな彼の横に居て、でも気持ちが通じない。
 下宿のアパートに遊びに行って、理屈をこねて、体の関係にまでなったというのに、完全に恋愛の対象には見られていない。

 それでまあ、理由を作っては、デート? に誘う彼女だった。
 そんな不器用な女の子が一人……
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