泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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変わりゆくもの

第9話 揺蕩う心

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 それでも、周りとは適当に付き合い、体も心もすり減減らしていく。

 一般の大学ではなく薬学に来たのも、普通の仕事よりも人に関わらない仕事ができると思ったし、一般の学部よりも偏差値が高いだろうと期待もした。

 だけど、周囲の威圧のために、高校の時からしていた、ちょい悪女子に見える格好が足を引っ張る。
 そのせいなのか、一般人は寄ってこないのだけど、おバカな奴らは平気で寄ってくる。
 そんな彼女も人間。
 興味と願望もあり、男とも付き合うのだが、世の中には男尊女卑がまだ生きている。
「男の言う事を聞けば良いんだよ。生意気な女」
 最後にはそう言われて、別れを繰り返す。

 多分に、付き合う相手が悪いのだが、そういう人間としか出会えない輪に彼女はすっかりはまり込み、抜け出せなかった。

 だがそこに、変わり者が入ってきた。
 大井 幸夫おおい ゆきおくん。
 彼は違う。

 真面目で孤高な雰囲気を出している連中の一人。
 普通なら、真面目グループは一人でいることを好み、誘いになど乗らない。
 だけど、彼は急に変わり、美樹が目を付けた。

 裕樹とかとは違い、女をおもちゃ扱いする男とは違う。
 あの美樹が彼を気に入り、本気になっている。

「彼の事が気になる」
 彼女はあの日から彼を目で追い始めた。
 
 円と言う女が付き合っている相手のようで、どちらかと言えば彼を束縛している感じ?
 彼女を見ていると、初めての男なのか、必死なのが分かる。
 だけど、男の方は辛いでしょうね。

 彼等は、損得ではなく感情で動く生き物。
 訳の分からない物にお金を掛けて、それを愛するところまで行く。
 こっちからすれば、単なるおもちゃだったり、本だったり、車だったり……
 バカみたいだけど、そういう生き物。
 そして生物として彼等は本能に従い、子孫を残すために獲物となる女を捜す。
 女は子育てがあるため、安定を求めて、男に対して奉仕をして欲しいと願望を押しつける。

 確か、脳内で分泌される、恋愛ホルモンが有効なのは三年とか。
 それを過ぎれば、男の愛情は冷めるばかり。
 その間に、上手く付き合えれば、一生ものの相手となる。

 だけど基本的な違いとして、思考の差がそこには壁として存在をする。
 そう人間だけど、男と女は同じじゃない。
 それを理解しないと、本当の意味で番には成れない。

 彼は、あの程度の女を、許容して付き合っている。
 欲しいわね。試して、良ければ貰らっちゃおう。
 どんな手で行こうか?

 そんな事を思っていたのだが、円は勝手に自滅していく。
 それは、もう少しだけ先の話。


 ―― 円は、何とか取り繕い彼の横へ。
 とりあえずは何もなかった様に、彼の前で振る舞い。いつもの暮らしを続ける。
 だけど、日数が経てば、あれを思い出す。

 一人が相手では、けっして得られない快感。
 幾度も頭が真っ白になるほどの……


「岡崎さん。あの人達と会わないの?」
「特に今は。欲しいものはこの前買ったし」
 そう言った時の、彼女の顔ったら、まるでお預けを言われたワンコのよう……
「そうなんだ……」
 あからさまな落胆が、顔に出ているわよ。

 だから私は、笑顔で彼女に救いを出す。
「連絡するなら、番号をあげるわよ」
「いや、別にそう言うわけでは……」
 そう言いながら、そわそわしている。
 美樹はふと疑問に思う。よく分からないけれど、そんなに良かったのかしら? あいつらの相手なんか、疲れるだけじゃない。

「何か欲しいものでも、できたんじゃないの?」
「そうね。欲しいものはあるけれど」
 うつむき加減でぼしょぼしょと、口ごもりながら何かぼやいている。

「じゃあ、はい」
 美樹は、メモ帳の一ページを破ると、番号を二つ書いて円に渡す。
 
「じゃあ、ほどほどにね」
 彼女はそう言いながら、これから起こる事を想像できた。
 彼等に電話をして、証拠を送ってもらえるようにお願いをしよう。
 わざとらしくならないように、彼にどう伝えるかを画策をする。

「じゃあ。今晩は、実験があるから」
「遅くなるのか?」
「うん多分。他の人達も居るから、私だけ帰るというわけにも行かないし、先に寝ていて」
 円はそう言って、見慣れないぴらぴらした服を着て出ていった。
 大学で実験の手伝いをするのに? まあ実験なら白衣を着るし……
 違うよなぁ。どう見ても。

 円はハッキリ言ってタイプでは無い。
 あの晩、欲望に負けて始まった関係。

「まあ良いか。元々は強引に襲われて、付き合いだした…… だけだし」
 ところが時間が経ち、誰も居ない部屋で彼女のことを思い始めると、彼の心にささくれのような思いが生まれて来る。

 淋しい。そして、悲しく、悔しい。
 ふざけた出逢いから始まり、まだ長い付き合いではない。

 だけど、この寂しさ。
 すでに彼の生活に、がっつりと円は入り込んできていた。
 まあ、その事自体もかなり強引だが、あの日から毎日のようにやって来て、そのまま居座った。
 なのにだ……
「勝手なものだな」
 そう。すでに予想は付いている。
 誰か他に居る。きっと浮気をしているのだろう。

 かれは、少し酔った勢いで、スマホをタップ。
 電話の呼び出しが鳴り、幾度もコールがされる。
 出られないのか? そう思って、切ろうとするとやっと出た。
「もしもうーし。幸夫くん。切れた? 切れてないよね」
 すごく慌てた感じで、美樹は喋る。

「切れてないよ。夜分にすまないな」
 声を聞いた瞬間、彼女が喋る声のトーンが跳ね上がる。

「ううん。大丈夫。二十四時間空いているから。そんでそんで?」
「おまえ、今日は円と一緒じゃないのか?」
「きょうは家で居るわよ。居ろと言われればずっと正座して待ってる」
 なんかすごく豹変している彼女。こんな感じじゃなかったのに。

「なんかおかしいぞ」
「うん? おかしいのは、前からだから。あっでも幸夫君の前だけだけど」
「なんだそれ?」
「この前言ったじゃない。幸夫くんがす…… あれ、返事貰って…… 言ってない?」
「『す』って何だ?」
 その反応で理解する。

「いやぁ…… どこかにススキが生えてるかなって、お月見の季節だし。すき焼きとか好き?」
 まさかの、妄想が膨らんで、夢の中で告白をしてOKを貰ったのを、現実のことだと勘違いをした。
「すき焼きって、お月見なら団子じゃないのか?」
 彼女の頭の中では、なんとかごまかそうと、思えば思うだけ思考が混乱していく。
「あーははは。それで、臼杵ちゃん? 今日は会ってないわよ」
 単純に話しをぶった切ることに。そう彼に言いながら、そうか今夜ねと確信をする。夢を現実にする第一歩。思わずガッツポーズ。

「わかった。ありがとう」
「あっ。ねえねえ。今カメラONにしたらおもしろいかもよ」
「カメラ? ああテレビ電話か?」
「そうそう」
 言う通りにした、すなおな幸夫。

 まあ予想通り、美樹は裸で通話していた。
 シャワー中に電話に気がつき、そのまま出たのだ。
「あー。風邪引くなよ」
 そんな声がして、切断された。

「なっ。切るかな普通…… まあいいか。そうかそうか、円ちゃん。連絡しちゃったんだ」
 ふふ。美樹は怪しい笑顔を浮かべる。
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