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第二章 人? との交流

第23話 証拠集めと救出

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 家宰ドブルー・バスチアンは、アバルス子爵に命じられた手はずを実行するため、今回の遠征作戦に関わった者達の家へと向かう。
 今回の出兵に関わる各家人に、王家へ向けて、陳情書を書かせる予定だった。
 むろん、王家への陳情など、王の機嫌が悪ければ罰せられる。
 その場合は、スパッと切り捨てる腹づもりと成っている。

 『ハウンド領が、不法に実効支配し、銀を勝手に採掘をしている。それを調査に行った、兵士達。だが、無残に家族を虐殺された。家族としては、事実を調査して、罰してほしい』

 そんな、陳情書のお手本を持って、各家を回るが誰も居ない。
 各家には、見張りを付けていたが、それもいない。
「どこも空き家だ、どうなっている?」
 家宰ドブルー・バスチアンは焦る。

「兵達。このリストにある家。すべてをチェックをしてこい」
 そう言って、兵を走らせる。


 その頃、ハウンド領でも、騎士の一人が笑っていた。
「ついに、アバルス子爵家から来た兵に攻撃をして、殲滅をしたようだな」
「はい。彼らを殲滅し、敵側の狐の獣人を銀山へと送ったのも目撃をしたと、報告が入っております」
「良し。その辺りの情報も、アバルス子爵へ伝えろ」
「はい」
 そう言って、部屋を出て行く兵。
 

「これで俺も、規模は小さくなるが、軍長官か大臣として登用される約束だ。これであのくそ親父の爵位を越えられる」
 そう言って、トラの獣人クレール・ドランは不敵な笑みを浮かべる。

 彼には、両思いの幼馴染みがいた。
 身分違いだが、彼は彼女をかわいがり。彼女が成人を迎える十五歳の頃には、何とか親父を説得して一緒になろうと彼女に告げた。
 彼女のためにも、騎士として務めるために人一倍努力をした。
 そして努力の末、試験を受けて、合格をした。
 彼は結果を受けて、喜び勇んで家へ帰る。
 これで親父に許可を貰おう。そんな希望を胸に。

 だが、その時には、彼女は断り切れず。
 いやそもそも、彼女の身分と処遇では、断ることなどできない。彼女は、家族のことを考え、クレールとのことに口をつぐみ、正式に親父の物となっていた。
 彼女の家族は、彼女と俺が仲が良いことを利用し、クレールの家に借金を申し込んだ。
 返せるなら問題ないが、返す宛ての無い金。つまり、彼女は借金の形として親父の物となった。

 話を聞き、彼は怒ったが、その非道は彼と彼女にとっての非道であり、この王国に置いて何ら問題のないものであった。つまり、彼の怒りは収まることはなく、力の無い自身に向かうこととなった。

 自分に力が、そして金があれば、彼女を親父の慰みものにしなくて済んだ。
 そして、彼女が自身の弟を産んだ頃、ハウンド侯爵領から離れる決意を決めた。

 役職をくれれば、アバルス子爵領へ行く。
 意外と困難かと思われた密約は、あっさりと決まった。
 当然すぐには無理だが、その間は、ハウンド侯爵領で研鑽をして待っていてくれ。
 そんな気楽な感じで、約束は成った。

 そしてすぐ、アバルス子爵から謎の派兵が始まるが、理由はしっかり教えて貰った。
 あの銀山は、本来こちらのもの。ハウンド侯爵が武力を持って、強引に奪い。実効支配しているものだ。本来の持ち主であるアバルス子爵領へ返してもらう。
 そう言われて、ドランは自身の無知を恥じ、頭を下げた。

 無知も何も、勘違いから始まり、思いついただけのでっち上げなのだから、本人以外は誰も知らないこと。深く考えず、調べもせず。ここでも彼はミスを犯す。安易に頭を下げて納得する。
 そして彼は、子爵の手伝いを始める。


 そして、アバルス子爵の予想していた行動を、ハウンド侯爵側がやっと取ってくれた。
 だが、その連絡は、意図的に流されたもの。
 その間に、アバルス子爵の悪行は調べられ、潰されていく。


 兵達は、素直に洗いざらい道照とセバスティヌに事情を説明。
 それを受けて、子爵領内から反対勢力を救出。

 事情を聴取し、罪を列挙(れっきょ)し書き連ねていく。

 街道往来の税を取り、その上で兵達に強盗をさせる。街道往来の税は、通行時の安全を守備するための税金。
 麦収穫量の誤魔化し。都市等の所有財産誤魔化し。強盗時に捕らえた者を奴隷として男は秘密の荘園で働かせ女は売春宿で働かせる。
 この辺りはすべて、王国への報告には当然ながら載っていない。

 そして、この手の仕事は浅はかにも、自身に反対する者へ割り振っていた。
 むろんばれたときに、尻尾切りをして、子爵家は知らなかったと言い逃れるため。
 各家には、子爵子飼いの監視が付いていたが、道照とセバスティヌが無力化した。
 銀山での労働力となって貰う。

「神乃様。お強いですな」
「そう言う、セバスティヌさんこそ、お強い。暗殺術ですか?」
「ええまあ。我が家は、代々この手の仕事をしておりまして。我が祖父の代に謀略により殺されそうだったところを、侯爵家に助けられましてね」
 のんきな話をしているが、絶賛戦闘中。

 秘密の売春宿を今潰している最中。
 子爵の手の者だというのに、どう見ても堅気じゃない。
「そりゃあ大変でしたね。私にそんなことを言って、大丈夫ですか?」
「なんでしょう。あなたには、言っておきたい。そんな不思議な感情。いえ安心感でしょうか? 当然ですが、ご内密にお願いいたします」
 一室に詰め込まれていた女の子達を発見。かなりひどい症状の子達も、俺の謎な治療魔法で何とかなり、駄目な子達は樹の実を使った。それを見たセバスティヌが、表情をこわばらせていたが内緒にしてもらう。

「分かった。さて、次に行こう。女の子達も、助けられるだけ助けよう」
「はい」
 次の店に向かう。
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