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17 オリヴィエの称賛
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周りから聞こえてくる声に、私は軽く戸惑いを覚えました。
「――何だ、何の騒ぎだ?」
「――見ろ、ラングリフ殿下じゃないか、あれ」
「――『断崖の君』ですわね。それに、隣の女性はリリエッタ様では?」
「――リリエッタ? あの『花の令嬢』の? いや、違うんじゃないか?」
「――そうだな、リリエッタ様はこんなところで人と話す方じゃなかっただろう」
「――あんなに生き生きとした表情をする方でもなかったぞ。別人だろう?」
ここに参加なされている方々の多くは、以前の私を知っているはずです。
なのに、私だと気づかれていない?
前の私と今の私、そんなにも違っているのでしょうか。自分ではわかりません。
「あの、リリエッタ様、ですわよね?」
注がれる視線に縮こまりかけていたら、今度は女性から声をかけられました。
恐る恐るそちらを向くと、そこに立っていらしたのは見知った顔でした。
「まぁ、オリヴィエ様!」
鮮やかな栗色の髪を真っすぐ伸ばした、黒いドレスの御令嬢でした。
貴族内でも強い発言力を持つ伯爵家の令嬢、オリヴィエ様です。
以前、数えるほどですが壁の花だった私に話しかけてくださった方でした。
「やっぱり、リリエッタ様だわ!」
「ご無沙汰しております。お会いできるとは思っていませんでした」
はしゃぐように声をあげる彼女に、私はお辞儀をしました。
すると、何故かオリヴィエ様はこちらを見つめて、しばし無言になるのです。
「あの、オリヴィエ様……?」
「リリエッタ様ったら、随分とお変わりになられましたのね」
にっこりと明るく笑って、彼女はそのように言いました。
自覚のない私は、やっぱり困惑してしまいます。そんなに、変わったかしら?
「以前のリリエッタ様もお綺麗でしたけど、今の方が全然素敵。表情の一つ一つが眩しくて、何より笑顔が別人のように可憐でお綺麗でしてよ」
「べ、別人なんて……」
そこまで言われると、さすがに面映ゆくなってしまいます。
気恥ずかしさに目を逸らす私に、オリヴィエ様はグッと顔を近づけてきます。
「ご結婚なされたからかしら、とても素晴らしい恋をしたのでしょうね」
「もぉ、やめてください、オリヴィエ様……!」
「いいえ、やめないわ。周りの声に耳を傾けてごらんなさいな、リリエッタ様」
周りの声?
言われた私は、深く考えずに言われた通りにしてみました。そうすると――、
「――やっぱり、リリエッタ様だ、あの御婦人!」
「――そんな、嘘みたい。あんなにも美しい方だったのね」
「――前も美しくはあったが、絵画のような作られた美しさであったな」
「――ああ、それが今はどうだ。どのお顔もまさに輝かんばかりじゃないか」
「――ラングリフ殿下があの方の心を射止められたのか。何と羨ましい」
「――惜しいな。ああも変わるならば、こちらから声をおかけするべきだったか」
納得の声。
感嘆の声。
惜しむ声。
聞こえてくる声は様々ですが、どれもこれも、私を称賛するものばかりでした。
オリヴィエ様が「ね?」と、悪戯っぽくウインクをしてきます。
「信じられません……」
「あら、あなたが信じなくてもこれが現実よ、リリエッタ様。素晴らしいものを素晴らしいと評価するのは自然なこと。だから自信を持っていいと思いますの」
「だとしたら、それは全てラングリフ様のおかげです」
頬が熱くなるのを感じながら、私はチラリとラングリフ様の方を見ます。
そこには、レイオットさん達とすっかり打ち解けておられる彼の姿があります。
「うむ、おまえ達は俺ほどではないが我が妻リリエッタの素晴らしさを理解したようだな。ならば、俺はおまえ達を同志と呼ぶこともやぶさかではない」
「おお、殿下! 何と懐の深い……!」
打ち解けて、打ち解けて……、あれ、何か、妙な絆が結ばれているような……?
「放っておいてよろしいんですの?」
「止めても止まられる方ではないですので、諦めました」
笑うのを堪えているオリヴィエ様へ、私はそう返す以外ありませんでした。
お屋敷に帰ったら、お説教です。ラングリフ様……!
「ラングリフ殿下って『断崖の君』と呼ばれる割に、随分お茶目さんですのね」
「ええ、あの方は勇ましく、雄々しく、何より可愛らしい人です」
「フフフ、王都広しといえど『断崖の君』をそんな風に言えるのはあなただけよ」
おかしそうに笑ったオリヴィエ様が、指先で私の頬をつついてきます。
「やめてください、オリヴィエ様!」
「いいじゃない。少しだけ心配していたんですのよ? サミュエル殿下の御婚約以来、あなたはどこの夜会にも顔を出さなくなってしまっていたから」
「それは……」
言われた私は、恐縮してしまいます。
こうして、私を案じてくれる方にお会いできたことが、嬉しくも申し訳なくて。
「幸せそうでよかったわ、リリエッタ様」
「はい、オリヴィエ様。今の私は堂々と胸を張って『幸せです』と言えます」
「あらあら、羨ましいわね。妬いてしまいそうだわ」
私とオリヴィエ様は一緒になって笑いました。そして彼女は、何故か嘆息。
「こうなると、サミュエル殿下はもったいないことをしたのかもしれないわね」
「え?」
サミュエル殿下が、何ですって?
オリヴィエ様は私の視線に気づいて「ああ」と何かを納得した様子を見せます。
「そのお顔、社交界を離れていたあなたはやっぱり知らないのね、リリエッタ様」
「何です、オリヴィエ様? サミュエル殿下が、一体――」
私が言いかけた、そのときでした。
「御一同、静粛に! 王太子殿下、並びに国王陛下のおなりにございます!」
広い会場に響き渡る文官の声。
たった今、サミュエル殿下と国王陛下が、御到着されたのでした。
「――何だ、何の騒ぎだ?」
「――見ろ、ラングリフ殿下じゃないか、あれ」
「――『断崖の君』ですわね。それに、隣の女性はリリエッタ様では?」
「――リリエッタ? あの『花の令嬢』の? いや、違うんじゃないか?」
「――そうだな、リリエッタ様はこんなところで人と話す方じゃなかっただろう」
「――あんなに生き生きとした表情をする方でもなかったぞ。別人だろう?」
ここに参加なされている方々の多くは、以前の私を知っているはずです。
なのに、私だと気づかれていない?
前の私と今の私、そんなにも違っているのでしょうか。自分ではわかりません。
「あの、リリエッタ様、ですわよね?」
注がれる視線に縮こまりかけていたら、今度は女性から声をかけられました。
恐る恐るそちらを向くと、そこに立っていらしたのは見知った顔でした。
「まぁ、オリヴィエ様!」
鮮やかな栗色の髪を真っすぐ伸ばした、黒いドレスの御令嬢でした。
貴族内でも強い発言力を持つ伯爵家の令嬢、オリヴィエ様です。
以前、数えるほどですが壁の花だった私に話しかけてくださった方でした。
「やっぱり、リリエッタ様だわ!」
「ご無沙汰しております。お会いできるとは思っていませんでした」
はしゃぐように声をあげる彼女に、私はお辞儀をしました。
すると、何故かオリヴィエ様はこちらを見つめて、しばし無言になるのです。
「あの、オリヴィエ様……?」
「リリエッタ様ったら、随分とお変わりになられましたのね」
にっこりと明るく笑って、彼女はそのように言いました。
自覚のない私は、やっぱり困惑してしまいます。そんなに、変わったかしら?
「以前のリリエッタ様もお綺麗でしたけど、今の方が全然素敵。表情の一つ一つが眩しくて、何より笑顔が別人のように可憐でお綺麗でしてよ」
「べ、別人なんて……」
そこまで言われると、さすがに面映ゆくなってしまいます。
気恥ずかしさに目を逸らす私に、オリヴィエ様はグッと顔を近づけてきます。
「ご結婚なされたからかしら、とても素晴らしい恋をしたのでしょうね」
「もぉ、やめてください、オリヴィエ様……!」
「いいえ、やめないわ。周りの声に耳を傾けてごらんなさいな、リリエッタ様」
周りの声?
言われた私は、深く考えずに言われた通りにしてみました。そうすると――、
「――やっぱり、リリエッタ様だ、あの御婦人!」
「――そんな、嘘みたい。あんなにも美しい方だったのね」
「――前も美しくはあったが、絵画のような作られた美しさであったな」
「――ああ、それが今はどうだ。どのお顔もまさに輝かんばかりじゃないか」
「――ラングリフ殿下があの方の心を射止められたのか。何と羨ましい」
「――惜しいな。ああも変わるならば、こちらから声をおかけするべきだったか」
納得の声。
感嘆の声。
惜しむ声。
聞こえてくる声は様々ですが、どれもこれも、私を称賛するものばかりでした。
オリヴィエ様が「ね?」と、悪戯っぽくウインクをしてきます。
「信じられません……」
「あら、あなたが信じなくてもこれが現実よ、リリエッタ様。素晴らしいものを素晴らしいと評価するのは自然なこと。だから自信を持っていいと思いますの」
「だとしたら、それは全てラングリフ様のおかげです」
頬が熱くなるのを感じながら、私はチラリとラングリフ様の方を見ます。
そこには、レイオットさん達とすっかり打ち解けておられる彼の姿があります。
「うむ、おまえ達は俺ほどではないが我が妻リリエッタの素晴らしさを理解したようだな。ならば、俺はおまえ達を同志と呼ぶこともやぶさかではない」
「おお、殿下! 何と懐の深い……!」
打ち解けて、打ち解けて……、あれ、何か、妙な絆が結ばれているような……?
「放っておいてよろしいんですの?」
「止めても止まられる方ではないですので、諦めました」
笑うのを堪えているオリヴィエ様へ、私はそう返す以外ありませんでした。
お屋敷に帰ったら、お説教です。ラングリフ様……!
「ラングリフ殿下って『断崖の君』と呼ばれる割に、随分お茶目さんですのね」
「ええ、あの方は勇ましく、雄々しく、何より可愛らしい人です」
「フフフ、王都広しといえど『断崖の君』をそんな風に言えるのはあなただけよ」
おかしそうに笑ったオリヴィエ様が、指先で私の頬をつついてきます。
「やめてください、オリヴィエ様!」
「いいじゃない。少しだけ心配していたんですのよ? サミュエル殿下の御婚約以来、あなたはどこの夜会にも顔を出さなくなってしまっていたから」
「それは……」
言われた私は、恐縮してしまいます。
こうして、私を案じてくれる方にお会いできたことが、嬉しくも申し訳なくて。
「幸せそうでよかったわ、リリエッタ様」
「はい、オリヴィエ様。今の私は堂々と胸を張って『幸せです』と言えます」
「あらあら、羨ましいわね。妬いてしまいそうだわ」
私とオリヴィエ様は一緒になって笑いました。そして彼女は、何故か嘆息。
「こうなると、サミュエル殿下はもったいないことをしたのかもしれないわね」
「え?」
サミュエル殿下が、何ですって?
オリヴィエ様は私の視線に気づいて「ああ」と何かを納得した様子を見せます。
「そのお顔、社交界を離れていたあなたはやっぱり知らないのね、リリエッタ様」
「何です、オリヴィエ様? サミュエル殿下が、一体――」
私が言いかけた、そのときでした。
「御一同、静粛に! 王太子殿下、並びに国王陛下のおなりにございます!」
広い会場に響き渡る文官の声。
たった今、サミュエル殿下と国王陛下が、御到着されたのでした。
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