笑顔の花は孤高の断崖にこそ咲き誇る

はんぺん千代丸

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18 国王陛下、御入場

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 場の空気が一変しました。
 それまでは、何だかんだと賑々しい雰囲気に満ちていた会場ではありました。

 けれど、国王陛下の御到着という声が響いた瞬間、一気に静まり返ったのです。
 その反応は、私が知るものとは大きく異なっていました。

 私は、以前にも何回か陛下御列席の催しに参加したことがありました。
 思い返してみると、陛下御到着の際には、皆様、一層盛り上がっておりました。

 ですが、今回は違っていました。
 文官の報告に、私はてっきりもっと賑やかになると思ったのですが……。

「驚いていらっしゃるようですわね、リリエッタ様」
「オリヴィエ様、はい、少し……」

 陛下が出てこられるであろう会場の大扉に目をやって、私はうなずきました。

「そうか、リリエッタは知らなかったのだな」
「ラングリフ様……」

 いつの間にか、ラングリフ様が私のすぐ隣に立っておられました。
 彼も、同じく大扉を見つめています。でもその顔は、いつもより厳しいのです。

「俺も話に聞いただけなんだが、面白くないものが見れそうだな」
「そうですね。殿下とリリエッタ様には、あまり快いものではないでしょうね」

 あごに手を当てて語るラングリフ様に、オリヴィエ様も同調を示します。
 ラングリフ様が、ジロリと彼女の方を流し見ました。

「ふむ、リリエッタ、こちらは?」
「あ、この方は――」
「初めまして、ラングリフ殿下。お会いできて光栄ですわ。私は、今日からリリエッタ様の親友となりました、アドレーゼ伯爵家のオリヴィエと申します」

 え、し、親友……!?
 私がびっくりしてオリヴィエ様を見ると、ウィンクを贈られてしまいました。

「そうなのか、リリエッタ?」
「その、オリヴィエ様がよくしてくださっているのは本当です、ラングリフ様。ただ、親友かと問われれば、首をかしげざるを得ません。ですから……」
「ですから?」

 オリヴィエ様がオウム返しに尋ねてきます。
 照れくささからむずがゆいものを感じながら、私は精一杯に返します。

「こ、今度、お茶会を催しますので、オリヴィエ様をご招待したいです。あの、ご都合がよろしければ、一緒にお茶を飲んでいただければ、嬉しい、です……」

 意を決した申し出でしたが、勢いが足りず尻すぼみになってしまいました。
 何とも情けない話ですが、仕方がありません。
 家族以外の方をお茶会にお誘いするなんて、生まれて初めてのことなので……。

「あ~、リリエッタ様、本当に可愛らしいですわ~。お茶会に誘うだけなのに、そんなにいっぱいいっぱいになられて、何ていじらしい! 当然、OKですわ~!」
「我が妻の魅力をよく理解しているじゃないか、オリヴィエとやら」
「殿下ほどではございませんけれど、人のことはよく見ているつもりですのよ」

 ああ、何てことでしょう。
 お誘いしたのは私なのに、なぜかラングリフ様が意気投合しています。
 これは、私は拗ねてもいいのでしょうか。いいですよね?

「おっと、戯れはここまでだな。父上が来るぞ」

 声のトーンを一段二段低くして、ラングリフ様がそう告げられます。
 会場内で緊張感が高まりつつある中、ギギギと、大扉の軋む音がします。

 記憶の中にある景色では、扉がゆっくりと開いたのち、陛下が入場されました。
 数々の革新的な政策で国を富ませ、民草より賢王と謳われる国王陛下です。

 鮮やかな白のおぐしの上に栄えある王冠を戴く、威厳ある御方。
 私達の結婚式のときと変わることなく、元気なお姿を見せてくれるのでしょう。

 私は、そう思っていました。
 しかし、扉が開いてそこに現れた陛下の容貌は私の想像を覆すものでした。

「……え?」

 思わず、声を出していました。
 扉の向こうより歩み出てきたのは、確かに国王陛下です。

 けれど、これはどういうことでしょう。
 最後にお見かけしたのは、一年前の結婚式でのことでした。

 そのときには、苦悩の色こそあれど、陛下のお姿に変わりはありませんでした。
 なのに今は、それが嘘であったかのように、おやつれになられていたのです。

 その立ち姿は頼りなく、お顔もたった一年で随分と老け込んで見えます。
 さすがに、信じられませんでした。この変わりようは、一体何事なのでしょう。

「王妃様の件もあるのだろうか……」

 どこかから、そんな呟きが聞こえてきます。
 王妃様は、そういえばここ数年、病床に臥せっておられるのでしたね。

 では、陛下は王妃様を案じるあまり、心労であのようなことに……?
 そう考えかけた私へ、オリヴィエ様はそれを見透かしているかのように、

「それもあるけど、主な原因は別なのよ、リリエッタ様」
「オリヴィエ様……?」

 何故でしょう、何故、オリヴィエ様は侮蔑の表情を浮かべているのでしょう。
 その双眸は、陛下の方へ向けられていますが、陛下を見ていません。

「来ますわ、陛下をあのような姿にした元凶が」
「……元凶?」

 私がそう問い返した、次の瞬間でした。

「みんなァ~! 私が来たわよォ~!」

 会場にけたたましく響き渡る、いつか聞いた覚えのある、その声。

「フン、退屈そうな催しだな。だが来てやっただけ感謝してほしいものだな」

 続いて、これもまた私の記憶に残っている、かつて私を深く傷つけた方の声。

「アハハハ、サミュエルったらエラそうね~! いいじゃない、美味しいものが食べられるんでしょう? だったら参加しておけばいいのよ! そうでしょ?」
「おまえは簡単だな、シルティア。もう少し知的な発言をしてくれ」
「知らないわよ、そんなの! 本当は今日は本を読んでいたかったのよ、私!」

 シルティアと、サミュエル殿下でした。
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