世界は万華鏡でできている

兎杜唯人

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誓いの首輪と嫉妬の指輪

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「りゅーちゃ、おはよーできる?」
「……はよ…できる」

クラルスの声に目を覚ます。
昨日の疲れがわずかに残っている気がする。
あくびをこぼしたリューイは体を起こす。
隣でシルバが身じろぎ目を開けた。

「おはよう」
「はよー……ふぁ…」

あくびをもらしながらシルバも起き上がる。クラルスが一番乗りだったらしい。
全員が起きればパジャマを脱いで服を着替える。クラルスとレックスの寝ぐせをクシで丁寧に梳かして整えればフィーディスがリューイの寝ぐせを直す。

「リューちゃん、何の夢見た?」
「俺?俺はねぇ、鳥になる夢」
「鳥さん?」
「あぁ。天気がいいからずっと遠くまで見渡せて気持ちよかったぞ」

いいなぁ、とシルバがつぶやく。
きっとそのうち見られると告げてクシを荷物にいれた。

「朝食まであと少し時間があるな。明日帰るわけだし、荷物をまとめるぞ。忘れ物がないか確認しないとな」
「わかった」

手分けして荷物を整理した。もふもふのパジャマは持ち帰っていいのだろうか。
アクティナに会ったら聞けばいいかと思い直せばベッドの上に五人分をたたんでおく。
クラルスはニウエを抱えたまま自分が着ていたシャツをたたんでいる。
レックスとシルバは手分けしてタオルやこまごまとしたものを集めていた。

「忘れ物はないみたいだね」
「よかった。じゃぁ朝ごはんを食べに行くか」

クラルスが走り寄ってきてリューイの手をつかんだ。
手を繋げばクラルスは嬉しそうに笑う。
食事のための部屋へはまたメイドが案内してくれた。
部屋に入ればアクティナとアカテスが窓のそばで話をしている。
だがリューイたちに気づけばアクティナが笑顔で近付いてくる。

「おはよう、ティナちゃん」
「てぃーちゃ、おはよ」
「おはよう、みんな。よく眠れたかしら。メイドたちから昨日はお風呂からあがったらすぐに寝たらしいって話を聞いたのだけど」
「寝たよ。ふわふわのパジャマでぐっすりだった」

アクティナは目を細めてからリューイとフィーディスを見る。
おはようございます、と口にすれば彼女はレックス、シルバ、クラルスの順に優しく頬に口づけてリューイのそばによってきた。
じーっと見つめたかと思えばアクティナは自分の頬を指さして満面の笑顔になる。
戸惑うリューイの服をレックスが引く。

「昨日ご飯のときにリュー兄とどんな挨拶してるかって聞かれて、朝とか夜にほっぺにチューしてくれるよって話したから」
「さすがにアクティナさんへのチューはアカテスさんに悪いというか…」
「なら私にもしてくれるかい?息子くんたちにはしたこともないし、されたこともなくてね。とても新鮮なんだ」

えぇ…と戸惑うリューイはフィーディスを見た。
フィーディスは自分には関係ないとでも言うように視線をそらす。
フィーディスの助けを望めなくなったリューイは意を決してアクティナの頬にキスしようとした。

「あまりリューイをからかわないでほしいものだな。悪乗りしたらリューイが困るだろう」

リューイの口が手で塞がれると同時に頭の上から声がした。
おはよう、先生、とシルバが口にする。おはよう、と返す声がある。
リューイが顔を動かせばわずかに機嫌のよくなさそうなウィリディスの顔があった。
アクティナはウィリディスをみて笑う。

「だめかしら?」
「だめだ」
「どうしても?」
「当たり前だ」
「意地悪。まだ息子くんのリューイくんじゃないでしょ?」
「確かに番ではないが、ちゃんと気持ちを交わしている」

レックスとシルバがいきおいよくリューイを向いた。
茹で上がったのではないかと思うほどにリューイの顔は赤くなる。
クラルスだけは切なそうな音を立てた腹部に触れてリューイをみていた。
アカテスが気づけばクラルスの手を引いて先に二人で食事を始める。

「リューちゃん、先生に好きって言ったの?やっと?」
「や、やっとってなんだ、やっとって…」
「よし、シルバ、俺たちは先生とリュー兄の邪魔をしないようにご飯食べよう」
「うん!」
「ま、待って、俺も食べるから」

レックスを追いかけようとして腹部に腕が回ったことに気づく。
引き寄せられリューイは足を止めた。

「せんせー、子供みたい」
「子供だ…母親にまで嫉妬してる」

ウィリディスの言葉にアクティナは顔を輝かせた。
まぁまぁ!と声を出している。
リューイはいたたまれない。

「ふふ、なら二人は今日牧場はなしかしら?」
「行きます」
「だそうよ、息子くん。いい加減リューイくんを放してあげなさい」

腕から解放されればリューイはほっと息をついて食卓へと近づく。
ウィリディスは先ほどまでリューイを抱いていた腕を見た。

「それほどに好きなのに無理やり番にしないのは彼のため?」
「…心はもらった。本当なら体もほしい。だが無理強いはしたくない。それに俺は欲張りなんだ。リューイも研究結果もどちらも欲しい」
「あらぁ…ふふ、いいことだわ。さ、私たちもごはんを食べて出かけましょう?レックスくんたちが今日は牧場に行くからって昨日楽しみにしていたのよ」

アクティナがウィリディスよりも先に食卓に向かった。
ウィリディスは小さく息を吐きだすと同じように食卓についた。
机の上にはパンケーキが並ぶ。トッピングにヨーグルトや生クリーム、フルーツやベーコンが別の皿に盛られていた。
レックスはたっぷりの蜂蜜をかけ、シルバはベーコンと頬張る。
クラルスは大好きないちごを乗せてご満悦だった。

「ティナちゃん、パンケーキふわふわだね」
「本当ね。これからおやつにたまには作ってもらおうかしら」
「目玉焼きとも合うよ」
「本当?なら次は試すわね」
「てぃーちゃ、あーん」
「あら、ありがとう」

クラルスが差し出すクリームたっぷりのホットケーキをアクティナは頬張る。
唇の端にクリームがついてしまったが、アクティナがそれを拭う前にアカテスが指先で優しく拭った。
それをみたレックスとシルバの目がリューイとウィリディスに向く。
二人は言葉なくホットケーキを食べていたし、二人のそばに座るフィーディスもなにも言わなかった。

「ふぃーちゃもあー」
「ありがとう、クラルス。じゃぁ俺のも、あー」

クラルスはジャムを乗せた欠片をフィーディスに渡す。
フィーディスは笑顔になればクラルスにはヨーグルトを乗せたものを食べさせた。
やはりレックスとシルバはちらちらとリューイとウィリディスを見る。その視線に気づかない二人ではない。何が言いたいのかもだいたい分かる。

「やらないぞ」
「えー!」

声を上げた二人をたしなめてリューイはナイフをおいた。
頬を膨らませた二人を見てからごちそうさまと口にする。
あまり食べていないリューイを見上げフィーディスが少し不安げな顔をする。

「リュー、あと少し食べないと」
「大丈夫、結構おなか膨れたから」
「倒れたら…」
「大丈夫。ちょっと部屋に戻るな?昨日忘れ物しただろ。さすがに明日気づいたらすぐに取りに戻れないからさ。出かけるまでには戻るから」

フィーディスを見つめて大丈夫だと笑えばリューイは部屋を出ていく。
アクティナとアカテスが見送るがウィリディスも立ち上がればそちらへ顔を向けた。

「出発は?」
「そうねぇ…一応ごはん食べてすぐって思っていたのだけど、三十分後にしようかしら」
「わかった」

ウィリディスは眉を下げているレックスとシルバに視線を落とす。

「大丈夫だ。リューイの様子を見てくる」

ウィリディスは部屋を出てリューイの姿を探した。具合が良くないならば無理は良くない。
パメラに様子を見てもらうべきだろう。
リューイはゆっくりとした足取りで少し先を歩いていた。
ウィリディスは足を早めてリューイの手を掴む。
振り返ったリューイはやはり顔色が少し良くなかった。

「具合が悪いのか?」
「少し疲れが取れないだけ。昨日プールでウィルに抱かれただろ?調子乗ったなって…」
「お前に煽られた俺も悪い。パメラに一応診てもらおう」

リューイの手を握りゆっくりと引いて歩く。
リューイは抵抗せずについてきた。使用人たちが待機するフロアがある。
番同士で使う住居フロアとは別の場所で交代や休憩に利用している。パメラはその一区画にいた。
具合の悪くなった使用人が休みを取れるようにほかよりも奥にある。

「パメラ、入るぞ」
「…あれ、若様、戻られていたんですか。リューイくんも、こんにちは」
「こんにちは、パメラさん」
「そういえば奥様が子どもたちがたくさん来るとおっしゃっていたような?」

パメラは回転する椅子に座ったまま首を傾げて二人を見た。
しかしリューイを見れば笑顔になる。視線の先はウィリディスと繋がれた手がある。

「リューイが少し具合が良くないみたいで、診てもらえるか」
「わかりました。リューイくん、どうぞ」

ウィリディスの手を放してリューイはパメラの前の椅子に腰を下ろした。
パメラはリューイの額に手を当て、喉を診る。脈を測りながら口を開いた。

「こちらにきて、少し疲れが溜まりだしてるみたいですね。無理をしたら熱が出ます。本当は今日一日ゆっくりしてほしいんですが」
「今日はリューイの弟たちと牧場に行く」
「…それでしたら、栄養剤と熱を出さないための薬と体調を整える手助けの薬を出しましょうか。栄養剤は今、薬二種類は今、お昼、寝る前に飲んでください」
「わかりました」

リューイがうなずけばパメラは壁際の棚へと近づき手早く薬を選んでいく。
リューイはウィリディスを見るとわずかに笑みを浮かべる。

「余り無理はするな」
「うん」

うなずいてからパメラが薬をリューイに渡す。グラスに注いだ水で薬を飲めばほっと息をついた。
体を冷やさないように、無理をしないように、疲れたら必ず休むこと、とパメラに念を押されて二人はその場を離れた。
そろそろ出かける時間も近い。
荷物はフィーディスが持っていっただろうか。

「…今日はやめておくか」
「なにを?」
「夜のことだ」
「やだ。ウィルにたくさん抱かれたい」

首をふるリューイはウィリディスの服を引く。足を止めたウィリディスはリューイを見下ろした。

「いつの間にか、あそこに住むから抱かれるんじゃなくなってた…ウィルに抱かれたい、一緒に気持ちよくなりたいって思ったから…だから、ウィル…」
「具合が悪くなったら早めに言えるな?」
「うん、言える」
「なら、いい。ほら、クラルスたちが待っている。急ぐぞ」

優しく頭を撫でられ笑みをこぼしたリューイはうなずきウィリディスとともに外の車で二人を待ちわびているであろう弟たちの元へと急いでいった。
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