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新婚生活編

9.指輪-2-

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「瞬ちゃんおはよ…」
背後から突然声を掛けられて振り向くと、寝癖だらけの彗が眠たげに眉間に皺を寄せて立っていた。
「おう、おはよ」
「……んー…まだ眠い……」
そう言いながら彗は目を擦りながら俺の隣に腰掛ける。
「コーヒー飲むか?インスタントだけど」
「……」
返事はなかったが、彗の頭が小さく縦に揺れたのを確認した俺はキッチンへ向かい昨日買った恐竜のペアマグカップを用意した。

ティラノサウルスのイラストがプリントされた自分のマグカップには砂糖を多めに入れ、もう片方のトリケラトプスのカップはブラックのまま差し出す。
「ありがと………あ、へへ」
「なんだよ」
「やっぱり買ってよかったなーって」
彗は嬉しそうな顔をしながら手に持ったマグカップを眺めた後、ようやくコーヒーを飲み始めた。
朝に弱い彗がたかがマグカップ1つでこんな幸せそうな顔をするなんてな。
もしもっとすごい物をプレゼントしたら一体どんな反応を見せてくれるのだろうか。
ぼんやりとそんな事を考えていたらふとある事を思いついた。

「…なぁ、彗」
「うん?」
「結婚指輪買うか」
俺の言葉を聞いた途端、彗は時が止まったかのように固まってしまった。
「彗?おーい」
「………瞬ちゃん」
「ん?」
「もしかしてまだ酔ってる?」
「はぁ!?」
「…だってついこの間までは『結婚式や指輪なんかに金を使うくらいなら老後の貯金に回した方がいい』って言ってたじゃん」
彗は俺の真似をしているつもりなのか、眉間に皺を寄せて低い声を出している。
確かに、ついひと月前まではそんな事を言っていた記憶があるし正直今でもそのあたりの価値観はあまり変わっていない…が。

「考えが変わったんだよ。何か形に残る物があれば彗も安心できるんじゃ無いかと思ってさ」
俺はマグカップをテーブルに置いてソファへもたれかかる。
時差で恥ずかしさが込み上げてきた俺はそれを誤魔化すように天井を見上げた。
「あー…あとはあれだな!お前みたいなモテる奴は指輪で既婚者アピールしておいた方がトラブル防止にもなるだろ。何も知らずに好意を寄せて傷付く女の子が減るのはいいことだと思うぞ」

そう早口でまくし立てると彗は俺の肩に頭を乗せて寄りかかってきた。
「…なんだかんだ言って瞬ちゃんも俺の事好きすぎじゃない?」
「うるせー」
俺は寄りかかった彗の頭を小突いてやる。
「いたっ」と言いながらも彗はどこか満足げで、それを見て俺も少しだけ頬が緩むのを感じた。
「俺、指輪はシンプルなデザインがいいな」
「ダイヤとかついてないやつか?」
「そうそう。あと、内側には結婚記念日と2人のイニシャル入れたいよね」
「うん」
「あー、でもなにかメッセージ掘ってもらうのも捨てがたいかも」
「……お前、さてはこっそり調べてたな?」
「さぁ、どうでしょー」
彗はわざとらしく惚けるとぐいぐい体重をかけて俺をクッション代わりにし始めた。
「ふふ。一緒に見に行こうね、指輪」
「ああ」
本当に調子の良い奴だと呆れつつも、新しい2人の日常の始まりに胸が高鳴っている自分がいるのも事実だった。
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