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新婚生活編

【番外編】幼少期のはなし(攻め視点)

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俺は瞬ちゃんが好きだ。

恋心をはっきりと自覚したのは高校の頃…だけど、物心ついた時から既に特別な存在になっていたと思う。
瞬ちゃんと俺は家が隣同士で幼稚園から高校までずっと一緒だった。
俺たち家族が瞬ちゃん家の側に引っ越して来た時、偶然お隣さんにも同い年の男の子が居るということで両親が意気投合したらしい。
それから家族ぐるみでの交流が始まり、お互い一人っ子だった俺と瞬ちゃんは兄弟のように育った。
俺の両親は仕事の都合で海外出張が多く、親戚も遠方に住んでいて頼れる身内もいなかったため自然と瞬ちゃんの家にお世話になる事が多かったのだ。

「けい、おれとけっこんしてくれ」
それは5歳くらいの時だっただろうか。
当時人気だった戦隊モノのワンシーンを真似するのが園児たちの間で流行っていた時期の事だ。
その時も俺と瞬ちゃんは一緒にごっこ遊びをしていた。
俺は女の子役で、瞬ちゃんが主人公の男の子役らしい。
「あのね、しゅんちゃん。いまのほーりつでは、おとこどうしではけっこんできないんだよ」
「もー!!けい!セリフがちがうだろ。やりなおし!」

当時の俺は同年代の子たちよりも大人びていて、なんとも可愛げのないクソガキだった。
その上マイペースでいつもぼんやりしていた為か、よく周りから浮いていた気がする。
でも別に1人遊びも嫌いじゃなかったし、他人とのコミュニケーションを億劫に感じていた俺はむしろ1人でいる方が気楽でいいとさえ思っていた。

「だってぼく、そのテレビみてないからわかんないんだもん」
「えー!?じゃあさ、きょううちにみにこいよ!ぜんぶろくがしてるから」
「うーん、べつにいいかなぁ……ぼくそういうのあんましすきじゃないし」
「なんでだよー!おもしろいのにー!!」
瞬ちゃんはそう言って大袈裟に項垂れた。
子供の頃の瞬ちゃんはちょっと強引なところもあったけれど、感情表現が豊かで素直なかわいい子だった。
今思えば、俺はそんな瞬ちゃんに構ってほしくてわざと天邪鬼な態度を取っていたのかもしれない。

「…ちがうはなしならいっしょにみてもいいよ」
「たとえばどういうやつ?」
「きょうりゅうとか」
「あ!それおもしろそうだな!!」
「うん。じゃあさ、ぼくんちにDVDあるから、きょうもっていくね」
こうやって俺が我を通すたびに、瞬ちゃんは嬉しそうに笑ってくれた。
側から見たら大人しい俺が活発な瞬ちゃんに振り回されているように見えただろう。
でも実際はその逆で。
瞬ちゃんは俺のくだらないわがままをいつも優しく受け入れてくれていたのだ。

「けいはどのきょうりゅうがすきなんだ」
「ぼくはね、トリケラトプスがすき」
「とりけ…?ふーん」
「しゅんちゃんは?」
「んー…おれはつよくてかっこいいやつがすきだな」

映画監督の父の影響で洋画に触れる機会が多かった俺は中でも恐竜映画を好んで観るようになっていた。
そしてそんな環境で育ったせいか、過激な描写への耐性もこの頃からすでに出来上がりつつあった気がする。
当然と言えば当然なのだが、当時の俺のお気に入り映画『ジュラシックパラダイス』は5歳児の瞬ちゃんには刺激が強すぎたようで…

彼は俺の手をぎゅっと握り、終始涙目になりながら画面を見つめていた。
「しゅんちゃん、こわい?」
「……ぜんぜん」
本当は怖かったくせに俺の前では平気そうなフリをする姿がいじらしくて子供心ながらに胸がきゅんとしたのを覚えている。
「あのねしゅんちゃん、あれはぜんぶつくりものだよ」
「え…そうなのか…?でもいっぱいちがでていたがってたじゃん」
「うん、それもえんぎっていうか…うそだから。こわがらなくてだいじょうぶだよ」
「…なーんだ!ま、まぁしってたけどな!」
「…うそつき」
「うっ、うるせー!くそ!あしたはおれのすきなやつみるからな!」

結局、次の日から瞬ちゃんの家に行くたびに戦隊モノをこれでもかと見せつけられる羽目になったのだが、そのお陰で2人の距離が縮まったのも事実だった。


「んー……」
明け方の淡い光がカーテンの隙間から差し込む部屋の中で目を覚ました俺はベッドに横たわったまま軽く伸びをした。
枕元に置かれた時計を見ると、時刻はまだ午前4時を回ったばかり。
7月になり日の出も早くなったとはいえ、まだ起きるには早すぎる時間だ。

(なんかすごく懐かしい夢を見たような気がする…)

ゆっくり寝返りを打つと隣ですやすやと眠る瞬ちゃんの顔が視界に入った。
普段はきりりとつり上がった眉も眠っている間は穏やかに下がっていて、どこか幼さを感じさせる。
「…しゅんちゃん」
瞬ちゃんの寝顔に向かって囁きかけてみる。
俺の声に反応するかのように微かに口元を緩ませた彼を見て思わず笑みが溢れた。

瞬ちゃんの無防備な姿を見る度に、何度愛しいと思ったことだろうか。
でも俺はただの幼馴染として側にいる事ができたらそれで良い。
だから瞬ちゃんはずっときらきらした瞬ちゃんのままで居て欲しい。

それが俺の一番の願いだった。
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