生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑

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第2部-ファフニール王国・成長編-

030_やりたいこと

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「リリア様、聞いていらっしゃいますか?」
「えっ、あ、すみません」
「先日お出かけになってからというもの、ずっと上の空ですね。何か気にかかることでもございますか?」
 
 サンドラの授業中、そう咎められたリリアはそっと目を伏せた。
 レオファルドの言葉が頭から離れない。最後は茶化されてしまったものの、あの言葉は紛れもなく本物だとリリアも理解していた。これまで何度となく冗談めかして告げられてきた愛の告白は、本気の言葉だ。
 答えられないリリアに、サンドラは一枚の紙を差し出さした。
 
「わたくしに言いにくいことでしたら、こちらへお出かけになってはいかがですか?」
「これは?」
「知人が管理しております荘園がございます。最後にお会いしたのはもうずいぶんと前ですが、きっと覚えていることでしょう。気晴らしになるかと思います。ぜひご訪問ください」
「ありがとうございます。行ってみますね」
 
 そしてその数日のうちに、リリアはアンとルイを伴って荘園を訪れていた。馬車を降りてすぐ、目の前に広がっていたのは辺り一面の豊かな緑。思わずリリアは声をあげた。
 
「見て! こんなに沢山の植物がいっぱい!!」

 生えている植物の数々に、しゃがみこんだリリアの隣にルイも寄り添った。
 
「道端だというのにとても丁寧に手入れされておりますね」
「お嬢様、こちらはその辺りに生えているような種類ではなかったはずですが」
「きっとこの荘園から種が逃げ出してきたのね」
 
 リリアと一緒に図鑑を見ている二人も多少は植物について詳しい。一目でそれが良くある雑草ではないことを見抜く。目的地は目の前だというのに話し込んだ三人が立ち上がったのは、それから大分時間が経ってからだった。
 
「さ、そろそろいきましょうか」
 
 ルイが扉を叩き出てきた使用人と数言話して振り向く。

「入っていいそうです」 
 
 三人が案内されたのは荘園の奥、一人の老人が小さな桑で土を耕していた。近づいてきた三人を見て僅かに視線を向けたものの、すぐに元の地面へと視線を戻してしまう。どうしたものかと顔を見合わせていると、老人が無言で桑を差し出す。
 
「お手伝いしても良いのですか?」
「……」

 桑を受け取ったリリアは、裾が地面につくのも構わず、見よう見まねで指さされた場所に桑を入れた。初めての動作に、土に刺さったのはほんのわずか。それでも何度か繰り返すうちに少しずつ深く入れられるようになっていく。しばらく見守っていたアンとルイも同様に、近くにあった桑を手に取って手伝い始めた。
 
 老人の無言の指示に従い、土を耕した後は渡された種をそっと上に置いて、薄く土をかぶせていく。
 
「よし、もういいぞ。こっちにこい」

夕方近くになり、ようやく老人は口を開いた。小柄な体に似合わずしっかりとした声の老人は、手を止めた三人を手招きした。
老人に仕えているらしい使用人が持ってきたお茶を受け取り、乾いた喉を潤す。
 
「それで、何しに来たんだ?」
「サンドラ様にここのことを教えていただいたのです。覚えていらっしゃいますか?」
「ああ、あの人のことなら良く覚えている。気立ての良い嬢ちゃんだろ」
「お嬢ちゃん……。そんなに昔からこちらに?」
「よく遊びに来ていたもんだ。それで?」
 
 用件を催促する老人にリリアは続ける。慣れない肉体労働に疲れ切った表情の中に笑みを浮かべて。
 
「気晴らしに行ってみてはと言われてきてみたのですが、よくわかりました」
「わかった?」
「今日植えたのは何の種ですか?」
「まだ名はない。キキュとナナハを掛け合わせてできた新しい種だからな」
「新しい? それはどうやって作るのですか?」
 
 興味津々といった様子でリリアは身を乗り出す。あまりの勢いに老人はわずかにのけぞる。
 
「知りたいなら教えてやるが……」
「ぜひに!」
 
 老人は仏頂面をわずかに崩してゆっくりと話して聞かせた。その言葉一語一句を聞き逃さないようにと耳を傾ける。
 新しい種の生まれた過程を聞き、いくつかの質問を楽しそうに投げかけては、その答えに頬を綻ばせた。
 
「私、きっとこういうことをしたかったのです」
「そんなに楽しかったのか?」

 変わったものをみるような視線にもめげず、リリアは頷いて見せた。
 
「良いとこのお嬢さんにこんなこと似合わんぞ」
「やりたいことをしていいって」
「なら用意してもらえばいいじゃないか。自分だけの庭を造るのは良いぞ。手入れは大変だがな」
「それはいいですね! アン、オズウェルは許してくれるかな?」
 
 振り返ったリリアに、アンは優しく頷き返す。
 
「もちろん。リリア様がお望みになることでしたら、どんなことでも」
「帰ったら聞いてみる!」
「元気なことだ。ほら、どこから来たかは知らんがそろそろ帰れ。暗くなってきたぞ」
「またお邪魔してもいいですか?」
「話を聞くのは手伝いしてからだぞ」
「はい!」
 
 満足しきった表情のリリアは、踊る心を抑えきれずに老人に別れを告げて屋敷へと戻っていったのだった。
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