237 / 275
待ちぼうけする夢
10.
しおりを挟む
日曜の夕方の電車は少し混んでいた。一本待てば、始発の電車があり、座れそうなので待つ事にした。少し疲れていて、言葉数も減っている気がした。そう思うと、何だか今日は良く喋った気がする。大部分はつまらない映画の事だった気もするけど、それだけ文句が言えるほど、つまらなかった映画と言うのは、今回に限って言えば、ありがたかったのかもしれない。電車がホームに入り、ドアが開く。予定通り、座る事が出来た。ふーっと、赤岡さんが息を吐いていた。
「お疲れですか?」
そう冗談めかして聞いてみた。
「はい。ちょっとはしゃぎすぎました」
おどけるように赤岡さんが答えて、笑みがこぼれる。
一瞬の間があって、少し赤岡さんの顔が真剣になったような気がする。
「何だか懐かしいね」
そう赤岡さんが言う。何を言っているのか、良く分からなかった。
「…」
たぶん、僕はきょとんとした表情をしていたんだと思う。
「そうか、そうだよね。覚えてないか」
その口調は明らかに残念そうだった。
「そうか、そうか」
何度も言う。
「ごめん」
理由も分からず、謝ってしまう。
「ううん。いいよ、覚えてない事で謝られても困るから」
少し寂しそうな顔をしているのは気のせいだろうか。何だろう、中学の時の事だろうか。心当りが全くない。誰かと勘違いしているのかと思ったけど、そう指摘する勇気はなかった。
赤岡さんは疲れているのか、目を閉じて黙ってしまった。僕も目を閉じて、ウトウトとしてしまう。赤岡さんが寄りかかって来て、僕も赤岡さんに寄りかかっていた。お互いの重みを感じているんだろうなとぼんやりと思った。
夏の終わりの夕方、とは言ってもまだ明るい。電車に揺れている僕たち。何だか、ノスタルジックな雰囲気も感じてしまった。
どこかで見たような光景のような気もするけど、それは多分、ドラマとかのありきたりのワンシーンのように感じたからだろう。そういうのが現実としてある事にちょっと驚く。いやいや、そこまで大層な場面でもないだろうと思った。
最寄り駅に近づいて、赤岡さんを起こす。まだ、眠たいようで、少しボーっとしている気もした。
「じゃあね、また。今度は面白い映画を見に行こう」
最後はそう約束してあっさりと別れる。具体的な事は言っていないけど、次があるのを期待しても良いんだよなと思う。バイバイと手を振った。
その時、赤岡さんの
「何だか懐かしいね」
と言う言葉がよみがえってきた。自分が忘れている何かがあるんだろうか。
「お疲れですか?」
そう冗談めかして聞いてみた。
「はい。ちょっとはしゃぎすぎました」
おどけるように赤岡さんが答えて、笑みがこぼれる。
一瞬の間があって、少し赤岡さんの顔が真剣になったような気がする。
「何だか懐かしいね」
そう赤岡さんが言う。何を言っているのか、良く分からなかった。
「…」
たぶん、僕はきょとんとした表情をしていたんだと思う。
「そうか、そうだよね。覚えてないか」
その口調は明らかに残念そうだった。
「そうか、そうか」
何度も言う。
「ごめん」
理由も分からず、謝ってしまう。
「ううん。いいよ、覚えてない事で謝られても困るから」
少し寂しそうな顔をしているのは気のせいだろうか。何だろう、中学の時の事だろうか。心当りが全くない。誰かと勘違いしているのかと思ったけど、そう指摘する勇気はなかった。
赤岡さんは疲れているのか、目を閉じて黙ってしまった。僕も目を閉じて、ウトウトとしてしまう。赤岡さんが寄りかかって来て、僕も赤岡さんに寄りかかっていた。お互いの重みを感じているんだろうなとぼんやりと思った。
夏の終わりの夕方、とは言ってもまだ明るい。電車に揺れている僕たち。何だか、ノスタルジックな雰囲気も感じてしまった。
どこかで見たような光景のような気もするけど、それは多分、ドラマとかのありきたりのワンシーンのように感じたからだろう。そういうのが現実としてある事にちょっと驚く。いやいや、そこまで大層な場面でもないだろうと思った。
最寄り駅に近づいて、赤岡さんを起こす。まだ、眠たいようで、少しボーっとしている気もした。
「じゃあね、また。今度は面白い映画を見に行こう」
最後はそう約束してあっさりと別れる。具体的な事は言っていないけど、次があるのを期待しても良いんだよなと思う。バイバイと手を振った。
その時、赤岡さんの
「何だか懐かしいね」
と言う言葉がよみがえってきた。自分が忘れている何かがあるんだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる