夢ノコリ

hachijam

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待ちぼうけする夢

10.

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日曜の夕方の電車は少し混んでいた。一本待てば、始発の電車があり、座れそうなので待つ事にした。少し疲れていて、言葉数も減っている気がした。そう思うと、何だか今日は良く喋った気がする。大部分はつまらない映画の事だった気もするけど、それだけ文句が言えるほど、つまらなかった映画と言うのは、今回に限って言えば、ありがたかったのかもしれない。電車がホームに入り、ドアが開く。予定通り、座る事が出来た。ふーっと、赤岡さんが息を吐いていた。

「お疲れですか?」

そう冗談めかして聞いてみた。

「はい。ちょっとはしゃぎすぎました」

おどけるように赤岡さんが答えて、笑みがこぼれる。

一瞬の間があって、少し赤岡さんの顔が真剣になったような気がする。

「何だか懐かしいね」

そう赤岡さんが言う。何を言っているのか、良く分からなかった。

「…」

たぶん、僕はきょとんとした表情をしていたんだと思う。

「そうか、そうだよね。覚えてないか」

その口調は明らかに残念そうだった。

「そうか、そうか」

何度も言う。

「ごめん」

理由も分からず、謝ってしまう。

「ううん。いいよ、覚えてない事で謝られても困るから」

少し寂しそうな顔をしているのは気のせいだろうか。何だろう、中学の時の事だろうか。心当りが全くない。誰かと勘違いしているのかと思ったけど、そう指摘する勇気はなかった。

赤岡さんは疲れているのか、目を閉じて黙ってしまった。僕も目を閉じて、ウトウトとしてしまう。赤岡さんが寄りかかって来て、僕も赤岡さんに寄りかかっていた。お互いの重みを感じているんだろうなとぼんやりと思った。

夏の終わりの夕方、とは言ってもまだ明るい。電車に揺れている僕たち。何だか、ノスタルジックな雰囲気も感じてしまった。

どこかで見たような光景のような気もするけど、それは多分、ドラマとかのありきたりのワンシーンのように感じたからだろう。そういうのが現実としてある事にちょっと驚く。いやいや、そこまで大層な場面でもないだろうと思った。

最寄り駅に近づいて、赤岡さんを起こす。まだ、眠たいようで、少しボーっとしている気もした。

「じゃあね、また。今度は面白い映画を見に行こう」

最後はそう約束してあっさりと別れる。具体的な事は言っていないけど、次があるのを期待しても良いんだよなと思う。バイバイと手を振った。

その時、赤岡さんの

「何だか懐かしいね」

と言う言葉がよみがえってきた。自分が忘れている何かがあるんだろうか。
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