夢ノコリ

hachijam

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中学時代の夢

5.

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僕は作業を続けていた。自分の彫刻刀で模様を掘る音だけが響いていた。その静けさも作業に集中していると気にならなくなる。一人でいる事も不自然な事ではないように思えてきた。ふと、人の気配を感じた気がする。みんな戻ってきたのだろうか。区切りが良いところでちょっと手を止めて、前を向いたら、そこには長い髪の毛の女の子がいた。中学時代の夢だからだろうか、僕と同じ中学校の制服を着ていた。どこかいつもよりも幼い雰囲気がしたのは制服のせいかもしれない。

「金色のカギは見つかった?」

いきなりそんな事を尋ねてくる。

「まだ」

そのカギを探す事を僕はちゃんと約束したのか、分からなかったけど、とりあえず、そう答えた。僕は作業を続けようとする。

「そうか。そう簡単には見つからないのかもね」

女の子は僕の作業を興味深そうに見つめながらそう言った。僕は返事をせずに、黙々と作業を続ける事にした。

「ずっと、カギを探してくれる人を探していたの」

女の子が独り言のようにぼそっと呟いた。一瞬、手が止まりかけたが、聞こえない風を装って作業に没頭するふりをする。

「本当に本当に、大事なカギなの。私の世界を変えてくれるカギなの」

集中するふりをしていても、女の子の声はしっかりと耳に届いていた。僕の様子に気が付いているのか、ゆっくりとそう語りかけてくる。

「…」

少しの沈黙。耐えられなくなって顔を上げると女の子の姿は消えていた。次の瞬間、騒がしさが戻ってきたと思ったら、みんながそこに戻って来ていた。僕はあっけに取られてしまう。その僕の様子を見て、赤岡さんが声を掛けてくる。

「…どうしたの?大丈夫」

「あっ、うん。ちょっと考えていただけ…」

どうにかそう言って誤魔化した。

「私はもう終わったよ」

そう言って赤岡さんは完成したオルゴールを見せてくれた。下書きを見た時にも思ったけど、リアルな感じがより伝わってきた。あれっと少し思う。

「1、2、3」

思わず指さして数えてしまった。鍵の数が3本しかない。スペードの鍵が無くなっていた。

「鍵の数、変えたんだ」

僕がそういうと、赤岡さんが変な顔をする。そして、オルゴールを見直して、スペードの鍵が無くなっている事に気が付いた。

「あれ、どこいったんだろ」

赤岡さんも驚いていて、そこら辺を探していた。そんなところにあるのかなと思っていたら、案の定、見つからなかった。

「どこいったんだろ」

再び、そうつぶやいた赤岡さんの視線が、ある一点で止まる。

「あっ、そこにあったんだ」

そう指さした先には僕のオルゴールがあった。えっと思いながら見てみたら、僕がどうしようかと思っていた余りの部分に、そのスペードの鍵が刻まれていた。
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