46 / 275
中学時代の夢
5.
しおりを挟む
僕は作業を続けていた。自分の彫刻刀で模様を掘る音だけが響いていた。その静けさも作業に集中していると気にならなくなる。一人でいる事も不自然な事ではないように思えてきた。ふと、人の気配を感じた気がする。みんな戻ってきたのだろうか。区切りが良いところでちょっと手を止めて、前を向いたら、そこには長い髪の毛の女の子がいた。中学時代の夢だからだろうか、僕と同じ中学校の制服を着ていた。どこかいつもよりも幼い雰囲気がしたのは制服のせいかもしれない。
「金色のカギは見つかった?」
いきなりそんな事を尋ねてくる。
「まだ」
そのカギを探す事を僕はちゃんと約束したのか、分からなかったけど、とりあえず、そう答えた。僕は作業を続けようとする。
「そうか。そう簡単には見つからないのかもね」
女の子は僕の作業を興味深そうに見つめながらそう言った。僕は返事をせずに、黙々と作業を続ける事にした。
「ずっと、カギを探してくれる人を探していたの」
女の子が独り言のようにぼそっと呟いた。一瞬、手が止まりかけたが、聞こえない風を装って作業に没頭するふりをする。
「本当に本当に、大事なカギなの。私の世界を変えてくれるカギなの」
集中するふりをしていても、女の子の声はしっかりと耳に届いていた。僕の様子に気が付いているのか、ゆっくりとそう語りかけてくる。
「…」
少しの沈黙。耐えられなくなって顔を上げると女の子の姿は消えていた。次の瞬間、騒がしさが戻ってきたと思ったら、みんながそこに戻って来ていた。僕はあっけに取られてしまう。その僕の様子を見て、赤岡さんが声を掛けてくる。
「…どうしたの?大丈夫」
「あっ、うん。ちょっと考えていただけ…」
どうにかそう言って誤魔化した。
「私はもう終わったよ」
そう言って赤岡さんは完成したオルゴールを見せてくれた。下書きを見た時にも思ったけど、リアルな感じがより伝わってきた。あれっと少し思う。
「1、2、3」
思わず指さして数えてしまった。鍵の数が3本しかない。スペードの鍵が無くなっていた。
「鍵の数、変えたんだ」
僕がそういうと、赤岡さんが変な顔をする。そして、オルゴールを見直して、スペードの鍵が無くなっている事に気が付いた。
「あれ、どこいったんだろ」
赤岡さんも驚いていて、そこら辺を探していた。そんなところにあるのかなと思っていたら、案の定、見つからなかった。
「どこいったんだろ」
再び、そうつぶやいた赤岡さんの視線が、ある一点で止まる。
「あっ、そこにあったんだ」
そう指さした先には僕のオルゴールがあった。えっと思いながら見てみたら、僕がどうしようかと思っていた余りの部分に、そのスペードの鍵が刻まれていた。
「金色のカギは見つかった?」
いきなりそんな事を尋ねてくる。
「まだ」
そのカギを探す事を僕はちゃんと約束したのか、分からなかったけど、とりあえず、そう答えた。僕は作業を続けようとする。
「そうか。そう簡単には見つからないのかもね」
女の子は僕の作業を興味深そうに見つめながらそう言った。僕は返事をせずに、黙々と作業を続ける事にした。
「ずっと、カギを探してくれる人を探していたの」
女の子が独り言のようにぼそっと呟いた。一瞬、手が止まりかけたが、聞こえない風を装って作業に没頭するふりをする。
「本当に本当に、大事なカギなの。私の世界を変えてくれるカギなの」
集中するふりをしていても、女の子の声はしっかりと耳に届いていた。僕の様子に気が付いているのか、ゆっくりとそう語りかけてくる。
「…」
少しの沈黙。耐えられなくなって顔を上げると女の子の姿は消えていた。次の瞬間、騒がしさが戻ってきたと思ったら、みんながそこに戻って来ていた。僕はあっけに取られてしまう。その僕の様子を見て、赤岡さんが声を掛けてくる。
「…どうしたの?大丈夫」
「あっ、うん。ちょっと考えていただけ…」
どうにかそう言って誤魔化した。
「私はもう終わったよ」
そう言って赤岡さんは完成したオルゴールを見せてくれた。下書きを見た時にも思ったけど、リアルな感じがより伝わってきた。あれっと少し思う。
「1、2、3」
思わず指さして数えてしまった。鍵の数が3本しかない。スペードの鍵が無くなっていた。
「鍵の数、変えたんだ」
僕がそういうと、赤岡さんが変な顔をする。そして、オルゴールを見直して、スペードの鍵が無くなっている事に気が付いた。
「あれ、どこいったんだろ」
赤岡さんも驚いていて、そこら辺を探していた。そんなところにあるのかなと思っていたら、案の定、見つからなかった。
「どこいったんだろ」
再び、そうつぶやいた赤岡さんの視線が、ある一点で止まる。
「あっ、そこにあったんだ」
そう指さした先には僕のオルゴールがあった。えっと思いながら見てみたら、僕がどうしようかと思っていた余りの部分に、そのスペードの鍵が刻まれていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる