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3:不穏な風
名と声を求めて
しおりを挟む空が白み始める早朝。パン屋は既に開店に向けて準備を進めていた
昨日教えてもらった事を思い返しながらイヴは店内で準備をしている。何度も往復しながらも店頭に焼きたてのパンを並べていく。中での用意を終えてからシェリーがしていたようにプレートを持って店から出る。店の前の扉にプレートを吊って開店中である事を示した。少し横を見れば開店を待ちわびていた客達の姿がある。イヴはペコリと頭を下げてから扉を開いて固定させ、中へと促した
今日も繁盛しているパン屋も昼下がりになるとやはり落ち着く。イヴは休憩時間を与えられた。前言通り初日と違って短かった。約束通りに図書館の場所を教えてもらい、イヴはエプロンを外した
店を出たイヴは教えてもらった通りに道を進んでいく。店から歩いて十五分程でそれらしき建物に着いた。大きいとは言えない大きさだ。ちょっとした街の図書館といったところだろう
中に入れば本棚があり、ジャンルで分けられて本が並んでいる。館内は管理者がいるくらいで他に人はいなかった。入り口から見て正面にある数段ほどの階段を昇れば本棚までもう目の前だ
イヴは目的の本を探して歩いていく。頻りに目を動かしてジャンルの書かれた本棚の部分を流し見ていく。あまり時間はないため少し早足で見て回り、一つの本棚の前で足を止めた。覗き込んだりして表題を見てから爪先立ちになる。腕を上げ、本を掴んで引き棚から出した
盗難防止の鎖付図書の鎖が動いて音を立てる。台の上に置いて、イヴはページを開いた
並んでいる文字を一文字ずつ丁寧に目を通していく
その中で一つ気になるものを見つけて凝視する。頭の中で何度もその部分を繰り返して記憶してから元の位置へと戻した
図書館から出たイヴは空を見上げて太陽の位置を確認する。店を出て来た時よりも傾いており休憩の終わりに近そうだ。少し早足気味に店に向かっていく
その道中でとある店を見つけて止まった。剣の絵と武器の単語が書かれた看板が掲げられた店だ
そこでイヴの頭にシェリーの言葉が浮かんだ。今噂になっている武器を集める若者達。話にのぼった以上は気になってイヴは店を覗く事にした
「いらっしゃい」
厳つい顔立ちの店主がちらりとイヴを見る。一瞥だけした後はカウンターの向こう側で作業をし始めた
イヴは店内を見回す。店内には該当しそうな若者が何人かいて壁を見ていた。壁の高い位置には武器が飾られていた。落ちないようにしっかりと固定されている。剣、盾、斧、槍、杖などの定番ものが占めていた
そんな武器達を見ていたイヴは視線を横に向ける。店内の若者は全て男性だ。そのうちの一人がカウンターに体を預けて奥の店主に声をかけた
「俺も今度の戦いに参加するんだ。いいのくれないか」
「……アンタもか。ちょっと待ってな」
店主は溜め息を一つ吐き出して棚を探り始めた。一本の鞘付きの剣を取り出してカウンターへと置いた。値段を言うと男がコインをカウンターへと置いて剣を受け取った。売買を終えると店主は眉根を寄せて苦い顔をした
「構わんが被害は最小限にしてくれよ」
「ああ、わかっているって。森の中だしあんたらには迷惑はかかんねえよ。むしろ倒したらこの店も名が売れるし、俺たちも一躍有名人だ。城に呼ばれるかもしれないな」
夢に溢れた声。森と倒すという単語で頭が真っ白になった。胸は潰されてしまいそうだった
嫌な予感が止まらない。
単なる狩りかもしれない
突然モンスターが出てきたのかもしれない
そんなもしもをいくつか考えるがチカチカと目眩がして、冷や汗が噴き出した
「ま、夜の間に終わらせるから」
それだけを最後に残して男は剣を片手に出て行った
イヴは自身の財布を出す。最後に宿屋で支払ってからは一枚も減っていないが一枚も増えていない。給料はその日払いではなく、まだもらっていないからだ
もしかしたら、黒竜が危ないかもしれない。あの竜はとても強い。イヴは全力を見た訳ではないが何人も追い返されている事実がある。しかし数を揃えて黒竜の元まで行くとなるとさすがの黒竜も危ないかもしれない
自分に出来る事は何かを考えて真っ先に浮かんだのは武器を買うことだった。それで何をどうしようかまでは浮かばなかったが、あっても困りはしないだろうことはわかった
そのため買おうとコインを出したのだが、あれから変化のない手持ちでは買えるかすら怪しかった。それでも諦める事は出来ずにカウンターへと近付いた
たった数枚のコインをカウンターへと置く
「これだけしかないんですけど……わたしでも買える物はありますか?」
「あ? あー……」
コインの枚数を見てから店主はイヴを見つめる。所謂強面な顔面で見られていると睨まれているように感じるも、イヴは真っ直ぐに見返した。店主はイヴとコインを交互に見てから黙って棚を探り取り出してカウンターへと置いた
出てきたのはナイフだった。携帯に便利な革のケースがついている
「それ全部でこれだ」
「……わかりました。買います」
「ありがとよ」
金が全てなくなってしまうが背に腹はかえられない
男の手がコインを集めて置かれていた全てのコインを持っていく。イヴはカウンターの上のナイフを手に取って店を出た。あの若い男の姿は既にない。詳細はわかりそうになかった
夜、森、倒す。その三つの情報だけでもイヴの行動は決まっていた
――夜……夜には向かわなくちゃ
夜まではまだもう少しある。イヴはしっかりとナイフを握って店に帰った
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