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6:呑み込む想い
運んできたもの
しおりを挟む――イヴは一人娘だった。
両親とイヴの三人で暮らし、近所の子供とこれといって姉貴分だったり妹分だったりしたことはない。子供は二人以上な事がほとんどであるため、兄弟姉妹がいない事を珍しがられたがその程度である
自分よりも年下の子供の面倒を見るようになったのはあの魔王と勇者との戦があってからだった。
魔族と人間の世界を賭けた大きな戦に因り両親を失ったイヴはシスターに出会い、連れられた教会に身を置く事になった。古くはあるが大きな教会だった。複数の色が織り成す巨大なステンドグラスが特徴的で、陽の光を浴びて透明度の高いそれが大聖堂に映し出された光景は神聖さを感じさせる。
そんな教会には多くの孤児がいた。イヴと同じように戦争孤児もいたが、神の子として連れてこられた子供もいた。大抵は年齢が下だったため、イヴは自ずと面倒を見る事となった。しかし、他のもの達と違い兄弟のいる家庭で育ってきた者達と違い扱いには不慣れであった。
幼い故の自由奔放さ。自分の現状をまだ理解していない子供は特に自由でパワフルだった。
また、下の子達を優先し、譲らなければならない場面もあり我慢しなければならない事もあった。それを妹や弟がいる者は承服していた。溜め息混じりの者もいたが。
かといってイヴは年長者でもない。イヴもまた年下の子として扱われた。親とは違う兄弟に対してのようなそれは妙にむず痒く時に厳しくも楽であり。面倒を見る側としても見られる側としても慣れなかった
しかし、それも幾分も過ごしていると次第に慣れた。お姉さんな振る舞いは出来ないものの年上としての話し方や役割はわかるようになった。手を焼く事が多かったが、教会での暮らしの一つとして習慣となっていっていた。
「シスター……」
接し方として参考にした人がいた。それがシスターだった。春風駘蕩なシスターは分け隔てなく人に優しく接している。イヴが聞いたところによると、彼女は元々はそれなりの位の令嬢だったらしい。それが一〇代を終えて結婚適齢期を過ぎてしまったがためにシスターとしてやってきたのだと。
その話を聞いた時イヴは納得した。彼女の所作が優美であったからだ。物腰のやわらかさもそう教わってきたからなのだろうと。そこに更に彼女の性格も加わっているのだ。
参考にしたところで彼女には遠く及ばないだろう。
――せめてあんな風に優しいお姉さんになりたいけど……
「イヴねーちゃん!」
「お姉ちゃん」
子供達に囲まれているシスターを見ていたイヴは呼ばれてハッとする。こちらに駆け寄る子供が二人いた。イヴが来た後に来た二人で、パワフルな子達だ。年長者達はキリのよいところで上手く切り上げるのに対して、イヴは切り上げるタイミングが掴めずに最後まで付き合ってしまっていた。だからだろう。この二人はイヴによくなついていた。
ここで過ごしてゆくと、連帯感が生まれる。
中には心の傷から一人になりたがる子もいたがそういう子も含めて、独特の絆があった。兄弟というものに縁のないイヴだったが、いたとすればこんな感じではないだろうかと思わずにはいられなかった。
「あのね、きれいなお花をみつけたの。お姉ちゃんも見て」
「鳥の方がいいよ! 珍しい鳥見つけたんだ! 早く行かなきゃ行っちゃうよ!」
「わたしが先にお花をみつけたのに……」
「花なんてどこにも行かないよ! ぼくが先!」
「け、ケンカしないで」
目の前で起こる争いに仲裁の言葉をかける。こういったケンカは日常茶飯事だ。仲裁に入る度いつまで経っても頼れる姉のようにはなれそうにないとイヴは思うのだった。
機嫌が急降下しつつあったが、男の子の方がイヴの片手を引いた。それを見た女の子、とられると思ったのだろう。すかさずもう片手を握り締めた。
「とにかく行こうよ!」
「わ、わたしが先だよ? お姉ちゃん」
ぐいぐいと引っ張られてイヴはついていくしかない。女の子の方は寄り添うようにしながらもしっかりと手を離すまいとしていた。こうなれば付き合うしかなくなってしまう。前を行く男の子についていきながら、手を握る手に視線を落とした。
――でも、きっとわたしは。
この手をいずれ離してしまうだろう。あの日目に焼き付いたあの姿を追い求めて。そんな予感がしていた。
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