一目惚れなんです、黒竜様

雪吹つかさ

文字の大きさ
30 / 71
6:呑み込む想い

それは、新しい出会い2

しおりを挟む






「行ってきます」
「気をつけて行っておいで」


 昼食を終えると持ち物を確認してから出た。二人の見送りの言葉をしっかりと耳にして宿へと向かう。宿は一度利用したことがあるため、大体の景色を頼りにしながらもたどり着く事ができた。
 初めて来た時以来の来訪だ。シェリーに教わった通りに階段を探して店の隣を見る。初来訪時には気付かなかった下に続く階段がそこにはあった。酒場を示すプレートは見当たらない。イヴのように見落とす者もいそうだ

 プレートも何もないため、足がなかなか動かない。注意深く周囲を見たり、階段を覗き込んだ。階段の脇の壁にはランプが点々とついていた。入口は太陽が照らしてくれるものの、陽の光が及ばぬ場所はランプがなければ暗くて下りられそうにない。
 一度大きく息を吸う。ゆっくりと息を吐いてから壁に手をつきながら階段を下りていった


 最後の段の踏板から降りてイヴは一度目を閉じた。
 徐ろに目を開ける。数にして三〇もない階段だったが、ランプがあるとはいえぼんやりとした明かりだった。しかし階下に着くや飛び込んできたのは地上と同じくらいの光だったのだ。地下は広く、室内を幾多ものランプが煌々と照らしていた。明かりが消えた時の為か一箇所につき二つ置いてある。
 酒場はというと、円形のテーブルと椅子が並んでいるが座っている客は多くはない。カードを楽しんでいるものもいるが静かに飲んでいるものがほとんどだった。視線を動かしていけば、肉や野菜を売っているカウンターや、服を売っているカウンターもある。


 ――酒場ってこんな風になってるんだ。話は聞いた事があったけど……


 酒場に訪れたのは今までで初めてらしく、ほうっと感嘆の息を漏らした。酒場と名はついているが、小商いもある。広さからして集まる事も十分出来そうだった。地方の酒場なため比較的狭いのだろうが、街の人々を収容するには十分だ
 隅々まで見回す勢いなイヴだったが、メモを取り出した。シェリーに頼まれた通りの物を購入する。支払いを終え巾着は萎んだが少し余った。落とさないように腰のリボンに強めに結び付け直す。
 買い出しを終えて、酒場の方へ向かった。小さな姿を探して視線を下げる


 ーー外で遊んでいるのかな……? それともお仕事?


 遊びたい盛りの子供二人に、明るい昼間。外遊びをしていてもおかしくはない。また、朝のように手伝いをしていてもおかしくはなかった。物陰も覗き込んで見てみるが視界には認められない。


 ーーまた、来よう。お肉もあるし帰らないと


「さっきから何してんの? あんた」
「えっ……」


 声のした方に顔を向ければ女性がイヴを見据えていた。髪を上部で一つに纏め、袖のない服を着ている。活力が溢れだしているようでありながら、つり目で厳しそうな面持ちをしていた。あからさまに警戒した目がイヴに容赦なく突き刺さる。視線の矢で客観的に見れば怪しい行動をしているのだと気付いて身を引いた。


「あ、あのごめんなさい! わたしパン屋で働いているんですけど……」
「へえ。あそこ、とうとう雇ったんだ」
「朝、小さい子達がパンを買いに来てくれて……前そういう子達の世話をしていたので、思い出して気になって」


 突然声をかけられた事と怪しまれているという事があって狼狽気味ながらも事情を簡易に話した。パン屋と聞いた女性から視線から鋭さが消えた。完全に警戒が解けたわけではない。和らいだだけだ。未だイヴの一挙手一投足に注意を払っている。
 弁明の言葉を並べ立てているイヴをまじまじと見て女性は「ふうん」と興味なさそうに呟いた。


「あんたより小さい子は他にもいると思うけどね」
「それは……そう、だろうと思いますけど……わたし、まだここに来てから日が浅くて。あまり、知らなくて」
「なんだ、よそ者かいあんた」
「えっと……街の外から来たのは、来たんですけど」
「ああもう、はっきり言いなよ!」
「はっはい! 外から来ました!」


 狼狽を抜いても煮え切らない言葉に苛立たしげに強く言い放った。眉間に皺を寄せて眦を決する女性に肩を震わせる。一般的に恐ろしいとされる竜よりも彼女の方がイヴのは恐ろしかった。体が竦んで咄嗟に答えるが女性は腕を組んで睨んできている。


「オイ、静かに酒が飲めねえじゃねえか」
「ああ、悪いね。……よそ者自体は別に珍しくないけどね、妙な事はしないでよ」
「追加頼むよ」


 大声を上げたからだろう。静かな場を引き裂き飲酒中の彼らを邪魔してしまった。近くの男が不機嫌そうに視線を寄越した。はっとして身を縮こませたイヴだが、女性は軽く流して注文を受けに呼んだ客の方へと足を向けた。歩を進める前に女性が振り返る。


「あの子達は十分働く年だから今は働いてるよ」


 それだけ言い残して接客に向かってしまった。怒鳴られた恐怖もあって茫然としてしまったが遅れて理解する。ここにはいないことを教えてくれたのだと。
 礼を言おうとしたイヴだったが、彼女はもう注文の品を覚えてカウンターの向こうへと行ってしまった。


 ――……帰ろう……。やっぱり、また来よう


 目的の人物はおらずお遣いも済ませた。会話だけだったが酷い疲れも感じていたため、イヴは帰る事とした


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

処理中です...