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9:恋敵登場?
晴れ間
しおりを挟む自分の中で目標を定めたところで、グレンが「ああ」と言葉を零して顔を上げた。
「そういえばもうすぐ収穫祭だね。収穫祭に向けての準備も始めようか」
「……収穫祭?」
かけられた言葉に大きな目を丸くして横に少し首を傾けてグレンを見上げる。不意に晴れ間が覗いたイヴの脳中にその単語は馴染まない。仕草を見たグレンが続ける。
「イヴ君はあまり収穫祭に参加した事はないのかな?」
「はい。初めて聞きました」
「年に二回やっていてね、豊穣を祈ったり祝ったりする日なんだ」
「お祈りですか?」
それまで訝しげだったイヴの声調が祈ると聞いた途端に明るくなる。頭の中に思い描いたであろう物を想像したのかグレンが小さく笑みを溢した。
「祈ると言っても教会で行うようなものではないよ。他ではどのようにしているかはわからないが……この町では採れた作物をいくつか捧げ、残りは使って作った料理をみんなで食べる日なんだ」
「じゃあ準備というのはパンを何か出すんですか?」
「ああ。数日前には食材が配られて、前日と当日は忙しくなる。だからほとんどの店は閉めているんだ」
何度も首を振って相槌を打っていく。耳馴染みのなかった収穫祭という言葉が自分の中に染みていくのをイヴは感じた。
イヴがこの町に来てから仕事をこなし黒竜に会うという日課を繰り返してきていたが町のイベント事を体験していない。この町で何の行事があるかすら知らなかった。それを一つ知る事が出来た。イヴが暫しの間黙考してから片手で横の束になった髪を弄り、もう片手は服を握った。
「わ、わたしも何か準備しますか?」
「パンの考案、下準備、焼成は私の仕事だから大半は私だね」
「前日もですか……?」
「前準備はシェリーがしているかな。収穫祭が初めてなら、せっかくだから前日と当日はイヴ君は楽しみなさい。変わりゆく町を見るのも楽しいものだよ」
「あっ、あの。わたしも……何かお手伝いさせてほしい、です。出来ればですけど……」
視線を右往左往させながら呟くように言うとグレンは目を瞬かせた。伏し目がちになっているイヴを見て、口元を緩める。
「そうだね。それならイヴ君にもそうしてもらおうかな。シェリーと一緒に前準備をしてもらえるかい?」
「はいっ!」
降った声が優しく耳に届き、弾けるようにしてイヴは面を上げた。祭に関わる事を承諾されて相好を崩す。服を握っていた手を離し、胸の前で合わせた。彼女の表情を見たグレンは満足そうに頷く。彼女にとって初めての収穫祭。 祭りの出し物の手伝い程度ではあるが、町の一員として出す側に関われるというのは彼女の顔を綻ばせた。
祭りはどのような賑わいを見せるのか、イヴにはわからない。町全体で行われる行事なため規模は大きいものであることや、グレンから説明されたことくらいだ。しかし、わからない部分もまた彼女には楽しみだった。彼女がいた教会や元々住んでいた場所にはなかったというのも大きいだろう。
何はともあれ近々収穫祭がある。
出品側として手伝えることになった。その事実を呑み込んで嬉々としていたが、ふと頭に過ったのは黒竜の姿だった。
――フェリーク様は収穫祭知っているのかな。収穫祭の食べ物とか食べたことあるのかな。その事も聞いてみたい
この町の森は深いため収穫祭については知っているのかもわからない。人々の催しであるため知らなくとも自然なことではある。
だが知ることも何かしらの形で味わった事もないのであれば、楽しさを分けたいとイヴは考えていた。ただそれはどのような形でかといった、具体的な方法は思い付いていないが。
「――そうだ。イヴ君、パンを一つ考えてみないかい?」
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