一目惚れなんです、黒竜様

雪吹つかさ

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9:恋敵登場?

収穫祭にパンを

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 どのようにしてフェリークに収穫祭を楽しんでもらおうかと思案していると、不意にグレンが閃いたように言った。提案を聞いたイヴは目を丸くする。


「パンを……わたしが……?」
「ああ。収穫祭用にね。材料はまだ配られていないが、今の時期の収穫物だから検討はついている。それを使ったパンを一つ考えるという手伝いだよ」
「でもわたしパンを作った経験がなくて……」
「なに、調整はこちらでするよ。相性が悪すぎるものなんかも省く。形なんかも……普段見ているもので良さそうだと思ったものでいい」
「……それなら……」


 人生で初めての収穫祭に参加するイヴに対するグレンの心遣いだ。収穫祭で出すパンのアイデアを一つ出すことでより深く体験する事が出来る事だろう。
 パン作りの経験のないイヴは戸惑いを見せたが、補助をしてくれると聞いて首を縦に振った。しかしいきなりパンのアイデアと聞いてもすぐに浮かぶものではない。普段目にする店内に並べられたパンを思い出す。焼き上げられて次から次に陳列されるパンの形も味もその日だけでもいくつかある。とても多いわけではないが、来店した客が悩むくらいには種類がある事をイヴはよく知っていた。それから形を選ぶと言っても吟味が必要だ。


「ええっと……。グレンさんのパンって珍しいものばかりで。わたしがいたところでは同じようなもので、あっても二、三種類くらいでした」
「そのようだね。遠方からわざわざ物珍しげに来るお客さんもいるくらいだ。でもむずかしく考える必要はないよ。……イヴ君が食べてみたいパンはないかな?」
「食べてみたいパン……」


 食事に出てくるパンはどれもイヴの口に合った。日が経ったものはスープにつけてみたりとするが、スープに合う物も多い。
 イヴは記憶を遡ってみて、食事の時に出ていたパンを思い浮かべて、ふと思い至る。


「甘いパン……って少ないですよね」
「そうだね。食事の時の合わせやすさを考えると、どうしても少なくなる。しかし人気がないわけでもないみたいでね、いつも売り切れるんだ」
「そうなんですね……むずかしくはない、ですか?」
「材料や作る物によるが、今までに作った物や似た物はそう難しくはないよ」


 返答を聞いてイヴは思案する。どの程度の甘さかは食べていないためわからないし、中身はどんなものが多いかもわからない。だが、食べてみたい物で言うのならばイヴの頭に浮かんだのは甘いパンだった。
 長考するイヴの様相を見たグレンが柔和に微笑む。


「甘いパンにしてみるかい?」
「はい」


 作る側から出た提案に、思考を切り上げてイヴは首を縦に振る。迷った様子はなかった。他に案がないというのはあったが、自分の中で良案だと思えたからだろう。イヴが肯んずったのを確かに見てから、今度はグレンが考える。甘いパンでかつ収穫祭で使用される材料を使った物でどんなパンが作れるか、候補をいくつか思い浮かべていた。頭の中で思い描いて、ふと外を見る。
 陽の光を浴びた町は明るくなっていた。農業や商業のために動き出す者たちがチラホラと散見できる。


「昼食の時か店を閉めたあとにでも来てもらえるかい? 入れる物やパンの形をその時に決めよう」
「はい……!」


 詳細については後にして、グレンは仕事部屋へと入っていった。
 甘いパンと一口に言ってもどんなパンにするか。イメージを脳内で形成しようとするがまだ具体的な絵は浮かばなかった。そうこうしている内にシェリーも起きてきて、朝食の準備やら開店準備やらとして考える暇なく開店時間となった。

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