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10:果実は実り
のち曇り
しおりを挟む「――注文、ですか?」
「そうなんだよ。今日の夜までにってんでね」
店を一時閉めて昼食が卓に並んだ昼下がり。グレンの姿だけがなかった。シェリーにイヴが尋ねれば、イヴが接客している間にシェリーの方に注文が来たようだった。夜までに焼き上げなければならないらしく、今作業に取り掛かっていて暫く出て来られないようだ。
午後からの分は用意してある分を焼いて出すが、追加は出せないだろう。今日はいつもよりも早く閉店する事が予測された。そして、お昼にパンについて話をする事が出来なさそうである事も。
「グレンから聞いたよ。収穫祭、手伝うんだって?」
「あ……はい。準備と、パンをひとつ……案を出すことになりました」
「みたいだね。準備は当日と前日するけど、難しいことはないしすぐ終わるよ。その時になったらまた詳しく話すけど、やる事としては……」
シェリーが注文の件を伝える時にでもグレンが伝えたのだろう。注文について話した後に切り出したのは収穫祭に関する話だった。
具体的な作業を軽く話されるが前言通り容易に行えるものだった。シェリーと共に行うだろう事前準備と当日の準備は簡単に出来る事であることにイヴは胸を撫で下ろす。だが「しかし」と続いた言葉にイヴは目を瞬かせてシェリーを見た。
「パンの案出しねぇ……もうあと数日だけど大丈夫なのかい?」
「えっと……何かまずい、ですか?」
「いやまずいってことはないよ。ただ、あの人が新しいパンの案出しに悩んでる姿をよく見ていたからさ。時には何日もあれこれ試行錯誤してたし……浮かびそうかい?」
「まだ細かいところは決まってない、です……」
一番近くでグレンを見てきたシェリーからすれば新作パンの案出しは難題であり、収穫祭までに間に合うか心配なようだ。昼間にグレンと話し合って決めるつもりだったが、延期になってしまった。甘いパンと方針を決めて、後は形と材料を決めるだけーーではあるが実際には悩みに悩んでなかなか決められないかもしれない。
その不安がイヴの頭に過り、今も焼成に入っているであろうグレンのいる竈のある部屋の方を見遣る。不安の種について話をしたものの、シェリーは食事を始めているのも視界の端に映りイヴも食事を始めた。パンの形を見てからちぎって、豆のスープに浸してから口へと運ぶ。十分に咀嚼した後、呑み込んでから口を開いた
「細かい部分はまだ決まってはない、んですけど、グレンさんはそんなに難しくないって言ってました。形とか材料とかは今までに作った物とか似たものにするみたい、で……」
「今までいろんなのを作って経験はあるからねぇ。ならいいけど。できそうになかったらムリだって断っていいんだからね」
少しだけ語尾強めにシェリーは言い放つ。逃げ道もあることを明るく明示してくれた彼女に、イヴは少しだけ笑って一言はい、と肯定した。
「そうだ。食べ終わったら広場の方見に行ってみな」
「広場……ですか?」
「いつもならそろそろ他の連中は準備を始めてる頃だからね。先に見てくるといいよ」
「わかりました」
開店準備で外に触れることはあれど様子を見れた訳ではない。ましてや広場の状況はわからないため知らないが広場の方では用意が始まっていてもおかしくはないらしい。
収穫祭の模様を知らないイヴにシェリーは下見を薦めた。例年なら既に収穫祭に向けて用意を始めていると聞き、イヴは少しだけ期待に心を弾ませて頷いた。
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