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10:果実は実り
兎と小麦1
しおりを挟む「ここ……?」
薦めの通りに昼餉を終えてイヴは広場に赴いた。
広場には木で組まれた簡素なテーブルが複数設置されていた。テーブルは中央に置かれた物だけが長く、その傍らには二人娘がいた。そのうちの片方がイヴを視界に認めて笑みを浮かべた。
「こんにちは、イヴ」
「こんにちは……ミランダさん」
ふわりと花開くように挨拶をしてくれたのはミランダだ。挨拶を返してイヴは傍まで近寄る。近付いて、隣にいる娘を一瞥した。小麦色の髪を三つ編みにして両サイドから垂らした少女は太陽を遮る藁の帽子を被っている。何かの農作業をした後なのか服にはところどころ屑が付着していた。年の頃はイヴとさして変わらなさそうな少女である。
視線に気付いたのか、ミランダが隣の少女に視線を流す。
「紹介するわね。この子はアメリア。一緒に収穫祭の準備をしているの」
「はっはじめまして」
「あなたがイヴ? よろしくね~」
初めての相手に緊張した面持ちでイヴは挨拶する。アメリアと紹介された少女は気にした様子もなく朗らかに笑って片手を振った。
知り合いが一人増え、イヴがテーブルの上を見る。二人が立っている近くにあるテーブルの上には、針と糸、紐、多色の布があった。布は三角に切られている。三角の布は上部に針が通されている最中のようだった。
「なんだか物珍しそうに見ているけど……イヴは収穫祭は初めて?」
「あ……はい。そうなんです。だからどんな感じになるのか全然わからなくて」
「イヴちゃんってあのパン屋さんで働いてるんだっけ?」
アメリアがミランダを見上げて首を傾げる。イヴのことは話に出た事があるらしい。本人がきょとりとする中、ミランダは問いに首肯した。肯定してからイヴを見てふふっと笑う
「あそこのパン屋さんで働いているうさぎみたいな子がいるって話したの。年も近そうだし話が合うんじゃないかなぁって、そのくらいだけれど」
「そう、なんですね」
「パン屋さんって事はパンの販売と配布だよね。楽しみ~」
シェリーから聞いた通りのパン屋の当日の予定だ。当日の事を想像してアメリアはゆるりと笑う。楽しみにしてくれている様子に、イヴは僅かに頬を緩めた。ややあってから再度テーブルの上の三角の布と紐を見る。どちらも量があり大量に何かを作っているようだった
「これは何を作ってるんですか……?」
「フラッグガーランド~これで町中を飾るんだよー」
「町中……結構大きなお祭りなんですか?」
「町としては、花舞祭よりは下だけど、他の街から人が来たりはするくらいかしら?」
「そんな大勢来たりはしないけど、旅商人とかも来るよ。普通の商人だけじゃなくて、魔法玉とか、魔法石とか、魔道具とか魔法関連を売りに来ることもあるの」
「魔法……」
魔法と聞いて以前魔法関連が話題に上がった時のことを思い出す。この町では魔道具や魔法を使う者は見当たらない。シャワーと呼んでいる水浴びする簡易的な仕掛けや風呂場内が温かいのだってパン竃の熱のお陰だ。
しかし、アメリアの話しぶりからすれば魔法商材を持ってくる旅商人が実際に来た事が窺えた。一度だけではなく何度もだ。だが見かけた事がないためイヴは首を傾げる。
「買ったことは?」
「ないかな~」
「私もないわ」
「どうして?」
「だって……高いし使い方がわからないし、セットで必要だったりするから。ほしいはほしいんだけどね」
「私は魔法導入が入ってからの方が良さそうだと思って」
「高いんだ……」
商店でもない限り、基本的には物々交換で済ませているこの町では魔道具には手を出しづらい品らしい。実際の価格はわからないが、これまでに幾度も給与を消費しているイヴは少しだけ落胆した。
「でも毎年色々な人がそれなりに来るから、今からもう宿屋と酒場は忙しいみたい」
「あの姉弟もお手伝い頑張ってるもんね~」
「あ……そうなんですね」
――なかなか遊べないなあ。
宿屋兼酒場のあの姉弟の姿が頭に思い浮かぶ。遊んであげたい気持ちがイヴにはあるが、時期も重なって今は難しそうだ。遊べるとしたら収穫祭が終わってからになるだろう。よその街からも人が来るならば必然的にあそこは忙しくなるため姉弟も平時通りお手伝いをする。イヴもイヴでパン屋の手伝いがあるのだから。
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