一目惚れなんです、黒竜様

雪吹つかさ

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11:豊穣に祈りと感謝を

収穫祭2

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 ふう、とイヴは息を吐く。町を照らす太陽が中天を過ぎた頃。テーブルの上はパンが一つもなくなっていた。催しの賑わいに惹かれてやってきた違う町の住民だけではなく、常連の客も来たため収穫祭中に全て売り切れたのだ。今し方撤退のため使用した物を店の方まで撤収し終えたところだった。
 テーブルは簡素なものであるが簡単に解体する事も出来るため木の板の状態にし、一定の場所へと立て掛ける。他の店は未だ営業しているようで声も聞こえてくれば商品も並んでいた。不意にシェリーがイヴを呼ぶ。応えて駆け寄れば、なにかを手に握らされた。開いてみればコインが数枚あり、戸惑いがちにイヴは見上げる。


「あの……」
「それで回ってきな。初めての収穫祭なんだろう?」
「あ……ありがとうございます!」


 給料とは別にシェリーの計らいでお金を握らせてくれたのだ。その厚意にイヴは感謝してお店の方へと駆け出した。

 ――収穫祭は食べ物はその時期にとれた物を使用した物が出される。
 葡萄酒や葡萄ジュースが振る舞われているコーナーがあり、葡萄ジュースを一杯もらって味わってから販売している店に近付く。取れ立ての野菜を使ったキッシュや、ジャム、パイなどが売られていた。食べ物以外が売られている店に差し掛かったところで、何かがぶつかった。普段よりも人が多いとは言っても、人だかりが出来る程でも、通りづらい程道が狭いわけでもない。勢い良くぶつかってきたのはなんだろうかとイヴが見下ろすと子供がいた。


「あ……っ!」
「あ!」
「待って……!」


 そこにいたのは酒場の幼い姉弟だった。姉の方がぶつかり、弟が泣きそうな顔で追いかけてきている。姉のエルマはイヴを見上げて「あっ!」と声を上げた。


「パン屋さん! おねーちゃんもきゅーけー?」
「ううん。わたしはもう終わったの。二人は休憩なんだね。良かったら一緒に回る?」
「いーよ! カミルもいいよね?」


 なかなか遊ぶ機会に恵まれて来なかったが、絶好の議会としてイヴが提案するとエルマは快諾した。振り返って弟にも尋ねる。カミルは姉の普段通りの有無を言わせぬような圧に一瞬臆したが、イヴを見上げて、知っている相手に頷いた。


「パン屋のおねーさんなら……」
「じゃあ行こう? 二人はお腹すいてる?」


 三人で見て回る事が決まったところで、イヴは問い掛ける。朝に食事をしてから今まで働いていたためイヴには空腹感が訪れていた。二人は酒場という事もあるため何か食べているかもしれない。姉弟は首を横に振った。


「じゃあ食べ物買おう」


 自分よりも幼い子供二人のため、イヴはシェリーからもらったお金を確認する。数枚のコインがあるが、色々な物を買えそうなくらいの価値のコインはあった。食事が朝の分だけだった事があるため、食事をする想定で多めに渡してくれたようだ。三人分買っても余るくらいだ
 イヴの様子を見ていたエルマが海老のように体を大きく逸らす。胸を張った少女は革袋を見せた。大人が持つ物と同じサイズと見た目の革袋だ。


「ごシンパイなくー。エルマちゃーんと持ってるから払えるよ」
「そ、そうなんだ」
「おしごとしてるからね! カミルの分もおねーちゃんが買ってあげるから、欲しいものがあったら言うのよ!」
「う、うん!」


 姉として振る舞うエルマに、微笑ましくなってイヴは笑みを溢す。母の口調を真似ている部分もまた大人のなろうとする少女らしい。追い付いた弟の手を姉が握ったのを見てから、三人で腹を満たす物を探して歩き始める。
 プラムのジャムを使ったケーキ、ベーコンと野菜を使ったキッシュ、焼きウインナーなど目移りするものが多い。人気の店は人だかりが出来ていた。不意にカミルが一つを指差す。


「何? あれが食べたいの?」
「いつも使う……」
「もーっ」


 指差した先にある店に並ぶ食材を見て、馴染みのあるそれに親しみから指差してしまったようだ。姉として買おうと構えたエルマだったが、食べたい訳ではなさそうなカミルの反応にエルマは頬を膨らませた。イヴが隣の店を示す。


「あれはどう、かな?」
「ペッティ? おねーちゃん、知ってる? エルマはもちろん知ってるよ!」
「ええっと……どんな食べ物なの?」


 示した先にあった食べ物に、エルマは自慢げに言う。イヴは売られているそれを見た。少し厚みのある平べったい生地の真ん中に具材を入れている。それを半分に折っていた。サイズは手のひら程度のものだ。手軽に食べられそうなものだが、イヴにはあまり馴染みがない。首を横に振るとエルマは目を輝かせて話し始めた。
 ペッティという料理で、粉を使って出来た生地を焼いて作るものだがパンほど難しくないためパンの代用として主に食べられるらしい。酒場でも作ってるとエルマは語った。


「じゃあ――これにする?」
「いいよ! エルマこれ嫌いじゃないし」


 問いにカミルも頷く。小腹を満たす程度の大きさだが、一つ目としては十分なそれを食べる事が総意で決まった。

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