59 / 71
11:豊穣に祈りと感謝を
収穫祭3
しおりを挟む店主に人数分頼むとすぐに作られる。素朴な生地をとって、木製のスプーンで具材を掬って中央に置く。程よい量を入れれば片側を反対側に向けて折り畳む。それを三つ作り、それぞれに手渡した。先に支払いを済ませているため受け取るだけだ。順に受け取っていき、カミルは両手で持って食べている。幼子の手では片手では大きい。エルマも両手で持とうとしたが、革袋をまだ片手に持っている。片手で内ポケットに押し込もうとしたが片手では狙った場所に入らない。無理矢理入れようとすれば、違う場所に入ってしまい、やがて地面に落ちて出てくる。すぐに拾うやイヴを見上げた。
「おねーちゃん、これ持って!」
「え? うん」
まじまじとペッティを観察していたイヴに、エルマの分のペッティが差し出される。きょとりとしつつも差し出されるままにイヴは受け取って二人分を片手ずつ持った。片手が空いたエルマはポケットの通り道を作る。入り口を広げて、革袋を入れるために片手を上げた時だった。後ろから手が伸びて革袋を浚っていく。手にあった重量がなくなり、エルマは辺りを見回す。男が足早に去ろうとしていた。イヴも男を見て慌てふためいていた。
「あっ……」
「ど、ドロボー!」
エルマが声を上げると男は舌を打って駆け出した。エルマがいの一番に走り出す。イヴは塞がっている両手を見てからカミルを見下ろした。カミルはペッティに夢中になっており、スリに遭ったことなど別世界の話かのようだ。さりとてカミルを置いていくわけにもいかない。イヴは食べている彼に促して、エルマを追う形で走った。
男は特徴が薄かったが、エルマが追い掛けているためエルマを目印にして後続のイヴはひた走る。早くも息が上がってきて、見失いかけた時だ。盗まれた事を口にしながら前を走っていたエルマが足を止めた。
「――これがドロボーさん?」
マントが揺れる足元に男が転がっていた。若い女の声が、疑問を投げてきている。イヴは「あ!」と声を上げた。フードを被っているが聞き覚えがある声だった。スリを倒した女性もイヴに気付いたようだ。イヴを見て声を発する。
「探しものをしていた白い子ちゃん」
「……イヴです」
「イヴちゃんね。私はリリスよ。仲良くしてね」
「し……」
します、ともしません、とも言えずイヴは口をつぐむ。恋敵と思われる相手と仲良くできるかわからなかった。とはいえ白い子呼ばわりもマントだのフードだの呼ばわりも呼びづらいため、名前だけは話したのだろう。
名前を名乗り合うと、俯せになっている男をリリスは蹴って仰向きにさせる。手には革袋を握ったままだが、反応が薄く、目も閉じていた。気絶しているのだろう。胸の部分に妙な膨らみがあった。イヴが近寄って確かめてみれば、他にも革袋が入っている。もしかすると他の場所にもあるかもしれない。一旦手からエルマの財布をとって、取り返した財布を本人に渡した。戻ってきた財布にエルマは心底胸を撫で下ろす。
「怒られちゃうところだった……」
「あの、この人は……」
「ちょーちょーさんに渡せばいいんだよ!」
「渡すって言っても……」
今は意識がないが、気を失っているだけなためすぐに目を覚ますだろう。しかし、幼子二人に少女一人と女性一人と運べそうな人物がいない。イヴの知り合いも若い女性が多く頼れそうになかった。
「チョーチョーっていうのに渡せばいいの? そこのあなた、ちょっといい?」
「え」
話を聞いていたリリスは目についた男性に声をかけた。町長の元まで運ぶことだけ伝えるリリスに、イヴが慌てて入り、説明を加えることとなった。説明をしている間に話を聞いた住民が協力に入り、スリの男は数人で運ばれていった。
事情の説明を終え、見送ったイヴ振り返る。リリスに礼をまだしていなかった事を思い出したのだが、傍らにいたはずのリリスは既にいなかった。辺りを何渡りも見渡しても見付からない。
「あれ……?」
「おねーちゃん、エルマの分」
「あ、うん」
忽然と姿を消してしまったリリスに、不思議に思いながらもエルマに言われてペッティを渡した。
0
あなたにおすすめの小説
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる