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11:豊穣に祈りと感謝を
彼女と黒竜
しおりを挟む「じゃあね、おねーちゃん!」
「おねーさん……またね」
ちょっとした一件はあったが、姉弟と収穫祭を回っていくつかの食べ物を食べる事が出来た。見て回ったり食べたりと満喫して別れたのは日暮れ前だった。宿屋の前で二人と別れたイヴはパン屋まで戻ると包みを手にする。開いて中を見れば、今日売ったりんごと蜂蜜のパンが二つ入っている。グレンに予め分けてもらっていた分だ。確認するとイヴは口角を上げて、元の状態へと戻す。
グレンもシェリーも疲れたのか、今日の収穫祭で獲た葡萄酒を味わいながら寛いでいた。パンを手に、二人にいつも通り出掛ける旨を告げるとシェリーに呼び止められる。
「収穫祭でまだ人がいるから、気を付けなよ」
「あ、はい」
「念のため早く帰っておいで」
人が多い分危険は伴う。イヴは帰ってきたが収穫祭はまだ一応は終わっていない。夜になるまでには完全に終わるだろうが、道中の飾りつけはあった。二人にはイヴは話していないがスリの一件もある。心配する二人に肯んずるとパンを持って店を出る。
最初に見た時よりも出店数は減っていた。ちらほらと販売している者がいる半面、片付けをしている者もいる。それを横目で見ると、イヴは袋を抱えて森の方に走った。普段と違う収穫祭の賑やかさ。売られている物。噂に聞く魔法道具は高いが人が集まっていた事。自分が考案したパン。フェリークに話すことはたくさんある。言葉巧みではないため、どう話そうかと考えながら小走りで森の中を駆けていたイヴだったが、足を止めた。
いつも通ってる道。なのに違和感があった。心臓がバクバクと脈打っている。
――なんだろう……。嫌な、感じ……?
嫌な予感がした。森が変だとイヴは気付く。普段たまに動物や虫を見掛ける道は、出会わずとも生き物の気配がする。だが今日は妙に静かだった。慎重にフェリークのいる奥を目指して歩みを進める。
視界が開けてきて、黒い巨体が見えてくるとイヴは咄嗟に木の後ろに隠れた。誰かがフェリークの前にいたからだ。マントが揺れ、半身を軽く倒す動作をしている。マントについたフードが外されて、燃えるような朱が風に揺れた。
――あ……! リリスさん。あの人見つけてしまったんだ……
「高名な黒き竜様にお目通り叶いうれしく思いますわ」
「御託はいい。用件を述べよ」
「まあ怖い。あの娘にもそんな目を向けるのかしら」
「元々だ。いいから話せ。貴様にそう割く時間はない」
自力で探し出した黒竜の居場所にいたリリス。イヴは木の陰から様子を見るしかなかった。リリスは彼の黒竜に対して敬う態度を見せつつも、彼女の気質も露にしている。怖いと言いながらクスクスと楽しげに笑っていた。そんな彼女をアイスブルーの瞳は見下ろしていたが、不意にリリスは表情を消した。
「お耳に入れたい事がございます」
真剣な声音に切り替わり、イヴは震える自分の手をもう片手で押さえつけた。体は出ていこうとして、何度も踏み止まる。自身を押さえ付けている間にリリスが口を開いた。
「国が討伐令を出しました。軍があなたを討ちにこちらに向かってきます」
――続いた言葉にイヴの頭は真っ白になった。
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