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ハチャメチャな政策
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20☓☓年。
日本はますます少子高齢化が進み、「恋人いない歴=実年齢」という若者が過半数を超えていた。
とにかく子どもを増やさなければ。
その為に、まずは異性とつき合ってみて欲しいと、政府はいよいよ、なりふり構わずの政策を打ち出した。
その1つが『高校3年生の課外デート』
いわゆる『お試しデート』だ。
偏差値の高いトップ校と、スポーツや部活の強い強豪校をいくつかピックアップし、高校3年次に異性とデートをしてレポートを提出する。
それが必須科目となったのだ。
なぜ政府がトップ校と強豪校を指名するのか?
表向きは「真面目な生徒が多く異性交遊の機会が少ない為」となっているが、実際は「優秀な子ども達が結婚しないのはもったいない」というのが本音らしい。
とにかく、この一見ハチャメチャに思える政策は、多くの国会議員の反対を押し切って可決、採用されることとなった。
◇◇
「はーい、プリント行き渡ったか?」
新学年がスタートした4月の初め。
担任の鷲尾先生が教室を見渡して声をかける。
私、樋口結衣は、前の席の子に渡されたプリントから1枚取って残りを後ろに回すと、じっくりと目を落とす。
無機質な文字ばかりが並ぶプリントを読み進めるうちに、思わず、は?と声を上げそうになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
課外活動必須科目について
政府より指定を受け、本校では今年度より、以下の科目を3年生の必須科目とする。
科目名「異性交遊」
活動日時 : 双方の都合に任せるが、授業以外の時間を使い、月に2回以上とする
内容 : 男女のおつき合いとして2人で一緒に時間を過ごし、後日活動内容をレポート用紙にまとめて提出する
費用 : 活動にかかる交通費や飲食代などは、1回につき上限5千円まで国が負担
注意事項 : 高校生らしく、さわやかなおつき合いとする。いかがわしい場所への立ち入りや、高校生らしからぬ行為は禁止。門限は21時。
以上
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここで一斉に、はあー?何これー!と騒がないところが、さすが進学率トップレベルの高校だ。
「先生、質問よろしいですか?」
丸い眼鏡の、いかにも秀才です、といった感じの学級委員が手を挙げる。
「なんだ?丸井」
名前が丸井だから、丸井くんは丸い眼鏡を選んだのだろうか?と、私はこんな時でも冷静に別のことを考えていた。
「プリントの内容は把握しましたが、肝心の交際相手については何も記載がないかと思われます」
うんうんと、他の生徒達も頷く。
「あー、そうなんだよ。その点は政府からは何も指定されなかった。各学校に任せるとのことでな。そこで我が校独自のルールを決めた」
50代のベテラン先生は、さも真面目な話だと言わんばかりに言葉を続ける。
「まず、現在特定の異性とつき合っている場合は、その相手で構わない。他校の生徒でも学年が違っても大丈夫だ。現在誰ともつき合っていない生徒は、これからアンケート用紙を配るから、回答して提出してくれ。学校側でマッチングして相手を決める。希望なども可能な限り考慮するし、途中で何かあれば相手を変更しても構わないからな」
そう言って、必要ない人は取らなくていいぞーとつけ加えながら、先生はまた別のプリントを配り始めた。
回ってきたプリントを、私は当然のように1枚もらう。
なになに?と早速目を通してみた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アンケート
現在、特定の異性とおつき合いしていない場合、希望する項目に○印をつけてください。
1、自分で交際相手を決めたい
(1ヶ月経っても決まらなければ、学校に一任する)
2、希望する相手に学校側から打診して欲しい
【希望する相手】
___年___組 氏名_________
3、学校側にマッチングを一任する
(だいたいの希望があれば明記すること)
※双方の意見を聞き、合意に至れば成立とします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(うーん、これはやっぱり3番でしょう)
私は、迷うことなく3の数字に丸をつけた。
あとは希望をどうするか、だ。
(相手の希望か…。特にないなあ。素性が怪しい人は無理だけど、同じ学校の生徒だからそんな心配もないし。私でいいと言ってくれる人なら誰でもいいか)
小さく頷くと、「希望は特にありません」と書き添えてから先生に提出した。
他の生徒達が、ガヤガヤとおしゃべりしながらアンケートに記入するのを、私は参考書を解きながら待つ。
やがて落ち着いた頃合いをみて、先生が口を開いた。
「よーし。じゃあこれから先生達で話し合って、随時マッチングの声かけをするからな。みんな受験で大変な時期だけど、何せ政府の方針だからよろしく頼むよ。あ、ちなみに活動レポートは成績に考慮されるから。単位取れなきゃ卒業できないぞー」
ええ?!と、私は思わず参考書から顔を上げた。
(う、嘘でしょ?異性交遊のレポートが成績に?!そんなの、絶対に無理!)
勉強ならなんとかなるが、男性とのおつき合いの内容をまとめたレポートなんて、何をどう書けばいいのか全く分からない。
(何が正解なの?どんな参考書を見ればいいのよ)
指定校推薦で大学を受験しようと思っていた私は、まさかの展開に頭を抱えた。
◇◇
「おーい、樋口。マッチングの件で話があるんだ」
3日後。
授業を終えて帰る支度をしていると、鷲尾先生に声をかけられ、私は相談室へと連れて行かれた。
「早速だが樋口。2組の工藤は知ってるか?同じクラスになったことはないと思うけど」
「はい、もちろん知っています。常に学年成績トップの彼を知らない人は、我が校にはいません」
「確かに。じゃあ、工藤が相手でもいいか?」
「…は?相手とは?」
「だから、課外活動の相手だよ」
え、それって…と、私はしばし宙に目をやる。
「私が彼と異性交遊する、ということでしょうか?」
「ああ、そうだ。樋口はアンケートに、相手の希望は特にないって書いてあったよな?工藤も同じだった。で、2組の先生と相談して、お前達なら話も合うかなと思ってさ。ほら、工藤は学年トップ、樋口は学年2位だからな」
「はあ…。ですが、先方のご意向はいかがでしたでしょうか?私でも異存はないと?」
「今、2組の先生が聞いてる。どうだ?工藤がOKなら、樋口もそれでいいか?」
「はい、まあ。そうですね。これも何かのご縁ですし、謹んでお受けしたいと存じます」
「そうか、分かった。それにしても、相変わらずお堅いな、樋口は。なんか俺、仲人みたいな気分になってきた。ははは!」
明るく笑い飛ばす先生に、私は前のめりで質問する。
「あの、先生。活動内容をまとめたレポートが成績に考慮されるとのことでしたが、具体的にどの観点でどのようなポイントを評価されるのでしょうか?」
すると先生は、困ったように頬をぽりぽりと掻く。
「それなんだよなぁ。評価に関しても学校に任せるってことなんだけど、先生達も初めてのことで戸惑ってるんだ。まあ、よほど手抜きのレポートとか、高校生らしからぬ行為が書かれていたら減点だろうけど、基本的に周りとそんなに差はつかないと思うぞ」
そうですか…と、私はうつむく。
「なんだ?樋口のことだから、成績を気にしてるのか?確かに学問ではないから、勉強の仕方も分からなくて困るよな」
「そうなんです!」
私はパッと顔を上げて、早口でまくし立てた。
「受験科目なら、勉強方法が分かりますし過去問もあります。ですが私、異性とのおつき合いなんてしたこともなければ想像もつきません。それなのに、レポートを評価されるなんて…。もう私、自信がなくてどうしていいのか」
先生は両腕を組んで、真顔になる。
「うーん。成績優秀な生徒ほど、今回の件は戸惑いが大きいだろう。けどな、樋口。政府のやり方は無茶苦茶だと思うだろうけど、先生はこれも大事な経験になると思うんだ」
「大事な経験、ですか?」
「ああ。樋口はきっとこのまま、偏差値の高い大学に入学して、世間でも名の知れた有名企業に就職できるだろう。だけど社会に出れば、頭の良さだけでは通用しない場面も多くなる。処世術や経験値、それから人とのコミュニケーション能力だって、仕事をする上では大切なんだ」
確かにそうだと、私は真剣に耳を傾ける。
「だからな、樋口。最初は手探りでいいから、少しずつ工藤と一緒に時間を過ごしてみろ。レポートの評価なんて、気にしなくていい。樋口が、人生において大切な時間を過ごせていると感じられたら、それはこの先お前の大きな武器になる」
じっと先生の言葉を噛みしめてから、はい、と私は頷いた。
日本はますます少子高齢化が進み、「恋人いない歴=実年齢」という若者が過半数を超えていた。
とにかく子どもを増やさなければ。
その為に、まずは異性とつき合ってみて欲しいと、政府はいよいよ、なりふり構わずの政策を打ち出した。
その1つが『高校3年生の課外デート』
いわゆる『お試しデート』だ。
偏差値の高いトップ校と、スポーツや部活の強い強豪校をいくつかピックアップし、高校3年次に異性とデートをしてレポートを提出する。
それが必須科目となったのだ。
なぜ政府がトップ校と強豪校を指名するのか?
表向きは「真面目な生徒が多く異性交遊の機会が少ない為」となっているが、実際は「優秀な子ども達が結婚しないのはもったいない」というのが本音らしい。
とにかく、この一見ハチャメチャに思える政策は、多くの国会議員の反対を押し切って可決、採用されることとなった。
◇◇
「はーい、プリント行き渡ったか?」
新学年がスタートした4月の初め。
担任の鷲尾先生が教室を見渡して声をかける。
私、樋口結衣は、前の席の子に渡されたプリントから1枚取って残りを後ろに回すと、じっくりと目を落とす。
無機質な文字ばかりが並ぶプリントを読み進めるうちに、思わず、は?と声を上げそうになった。
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課外活動必須科目について
政府より指定を受け、本校では今年度より、以下の科目を3年生の必須科目とする。
科目名「異性交遊」
活動日時 : 双方の都合に任せるが、授業以外の時間を使い、月に2回以上とする
内容 : 男女のおつき合いとして2人で一緒に時間を過ごし、後日活動内容をレポート用紙にまとめて提出する
費用 : 活動にかかる交通費や飲食代などは、1回につき上限5千円まで国が負担
注意事項 : 高校生らしく、さわやかなおつき合いとする。いかがわしい場所への立ち入りや、高校生らしからぬ行為は禁止。門限は21時。
以上
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ここで一斉に、はあー?何これー!と騒がないところが、さすが進学率トップレベルの高校だ。
「先生、質問よろしいですか?」
丸い眼鏡の、いかにも秀才です、といった感じの学級委員が手を挙げる。
「なんだ?丸井」
名前が丸井だから、丸井くんは丸い眼鏡を選んだのだろうか?と、私はこんな時でも冷静に別のことを考えていた。
「プリントの内容は把握しましたが、肝心の交際相手については何も記載がないかと思われます」
うんうんと、他の生徒達も頷く。
「あー、そうなんだよ。その点は政府からは何も指定されなかった。各学校に任せるとのことでな。そこで我が校独自のルールを決めた」
50代のベテラン先生は、さも真面目な話だと言わんばかりに言葉を続ける。
「まず、現在特定の異性とつき合っている場合は、その相手で構わない。他校の生徒でも学年が違っても大丈夫だ。現在誰ともつき合っていない生徒は、これからアンケート用紙を配るから、回答して提出してくれ。学校側でマッチングして相手を決める。希望なども可能な限り考慮するし、途中で何かあれば相手を変更しても構わないからな」
そう言って、必要ない人は取らなくていいぞーとつけ加えながら、先生はまた別のプリントを配り始めた。
回ってきたプリントを、私は当然のように1枚もらう。
なになに?と早速目を通してみた。
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アンケート
現在、特定の異性とおつき合いしていない場合、希望する項目に○印をつけてください。
1、自分で交際相手を決めたい
(1ヶ月経っても決まらなければ、学校に一任する)
2、希望する相手に学校側から打診して欲しい
【希望する相手】
___年___組 氏名_________
3、学校側にマッチングを一任する
(だいたいの希望があれば明記すること)
※双方の意見を聞き、合意に至れば成立とします。
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(うーん、これはやっぱり3番でしょう)
私は、迷うことなく3の数字に丸をつけた。
あとは希望をどうするか、だ。
(相手の希望か…。特にないなあ。素性が怪しい人は無理だけど、同じ学校の生徒だからそんな心配もないし。私でいいと言ってくれる人なら誰でもいいか)
小さく頷くと、「希望は特にありません」と書き添えてから先生に提出した。
他の生徒達が、ガヤガヤとおしゃべりしながらアンケートに記入するのを、私は参考書を解きながら待つ。
やがて落ち着いた頃合いをみて、先生が口を開いた。
「よーし。じゃあこれから先生達で話し合って、随時マッチングの声かけをするからな。みんな受験で大変な時期だけど、何せ政府の方針だからよろしく頼むよ。あ、ちなみに活動レポートは成績に考慮されるから。単位取れなきゃ卒業できないぞー」
ええ?!と、私は思わず参考書から顔を上げた。
(う、嘘でしょ?異性交遊のレポートが成績に?!そんなの、絶対に無理!)
勉強ならなんとかなるが、男性とのおつき合いの内容をまとめたレポートなんて、何をどう書けばいいのか全く分からない。
(何が正解なの?どんな参考書を見ればいいのよ)
指定校推薦で大学を受験しようと思っていた私は、まさかの展開に頭を抱えた。
◇◇
「おーい、樋口。マッチングの件で話があるんだ」
3日後。
授業を終えて帰る支度をしていると、鷲尾先生に声をかけられ、私は相談室へと連れて行かれた。
「早速だが樋口。2組の工藤は知ってるか?同じクラスになったことはないと思うけど」
「はい、もちろん知っています。常に学年成績トップの彼を知らない人は、我が校にはいません」
「確かに。じゃあ、工藤が相手でもいいか?」
「…は?相手とは?」
「だから、課外活動の相手だよ」
え、それって…と、私はしばし宙に目をやる。
「私が彼と異性交遊する、ということでしょうか?」
「ああ、そうだ。樋口はアンケートに、相手の希望は特にないって書いてあったよな?工藤も同じだった。で、2組の先生と相談して、お前達なら話も合うかなと思ってさ。ほら、工藤は学年トップ、樋口は学年2位だからな」
「はあ…。ですが、先方のご意向はいかがでしたでしょうか?私でも異存はないと?」
「今、2組の先生が聞いてる。どうだ?工藤がOKなら、樋口もそれでいいか?」
「はい、まあ。そうですね。これも何かのご縁ですし、謹んでお受けしたいと存じます」
「そうか、分かった。それにしても、相変わらずお堅いな、樋口は。なんか俺、仲人みたいな気分になってきた。ははは!」
明るく笑い飛ばす先生に、私は前のめりで質問する。
「あの、先生。活動内容をまとめたレポートが成績に考慮されるとのことでしたが、具体的にどの観点でどのようなポイントを評価されるのでしょうか?」
すると先生は、困ったように頬をぽりぽりと掻く。
「それなんだよなぁ。評価に関しても学校に任せるってことなんだけど、先生達も初めてのことで戸惑ってるんだ。まあ、よほど手抜きのレポートとか、高校生らしからぬ行為が書かれていたら減点だろうけど、基本的に周りとそんなに差はつかないと思うぞ」
そうですか…と、私はうつむく。
「なんだ?樋口のことだから、成績を気にしてるのか?確かに学問ではないから、勉強の仕方も分からなくて困るよな」
「そうなんです!」
私はパッと顔を上げて、早口でまくし立てた。
「受験科目なら、勉強方法が分かりますし過去問もあります。ですが私、異性とのおつき合いなんてしたこともなければ想像もつきません。それなのに、レポートを評価されるなんて…。もう私、自信がなくてどうしていいのか」
先生は両腕を組んで、真顔になる。
「うーん。成績優秀な生徒ほど、今回の件は戸惑いが大きいだろう。けどな、樋口。政府のやり方は無茶苦茶だと思うだろうけど、先生はこれも大事な経験になると思うんだ」
「大事な経験、ですか?」
「ああ。樋口はきっとこのまま、偏差値の高い大学に入学して、世間でも名の知れた有名企業に就職できるだろう。だけど社会に出れば、頭の良さだけでは通用しない場面も多くなる。処世術や経験値、それから人とのコミュニケーション能力だって、仕事をする上では大切なんだ」
確かにそうだと、私は真剣に耳を傾ける。
「だからな、樋口。最初は手探りでいいから、少しずつ工藤と一緒に時間を過ごしてみろ。レポートの評価なんて、気にしなくていい。樋口が、人生において大切な時間を過ごせていると感じられたら、それはこの先お前の大きな武器になる」
じっと先生の言葉を噛みしめてから、はい、と私は頷いた。
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