お試しデートは必須科目〜しなけりゃ卒業できません!〜

桜井 恵里菜

文字の大きさ
1 / 16

ハチャメチャな政策

しおりを挟む
20☓☓年。

日本はますます少子高齢化が進み、「恋人いない歴=実年齢」という若者が過半数を超えていた。

とにかく子どもを増やさなければ。

その為に、まずは異性とつき合ってみて欲しいと、政府はいよいよ、なりふり構わずの政策を打ち出した。

その1つが『高校3年生の課外デート』
いわゆる『お試しデート』だ。

偏差値の高いトップ校と、スポーツや部活の強い強豪校をいくつかピックアップし、高校3年次に異性とデートをしてレポートを提出する。

それが必須科目となったのだ。

なぜ政府がトップ校と強豪校を指名するのか?

表向きは「真面目な生徒が多く異性交遊の機会が少ない為」となっているが、実際は「優秀な子ども達が結婚しないのはもったいない」というのが本音らしい。

とにかく、この一見ハチャメチャに思える政策は、多くの国会議員の反対を押し切って可決、採用されることとなった。

◇◇

「はーい、プリント行き渡ったか?」

新学年がスタートした4月の初め。

担任の鷲尾わしお先生が教室を見渡して声をかける。

私、樋口ひぐち結衣ゆいは、前の席の子に渡されたプリントから1枚取って残りを後ろに回すと、じっくりと目を落とす。

無機質な文字ばかりが並ぶプリントを読み進めるうちに、思わず、は?と声を上げそうになった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

課外活動必須科目について

政府より指定を受け、本校では今年度より、以下の科目を3年生の必須科目とする。

科目名「異性交遊」

活動日時 : 双方の都合に任せるが、授業以外の時間を使い、月に2回以上とする

内容 : 男女のおつき合いとして2人で一緒に時間を過ごし、後日活動内容をレポート用紙にまとめて提出する

費用 : 活動にかかる交通費や飲食代などは、1回につき上限5千円まで国が負担

注意事項 : 高校生らしく、さわやかなおつき合いとする。いかがわしい場所への立ち入りや、高校生らしからぬ行為は禁止。門限は21時。

                                             以上
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ここで一斉に、はあー?何これー!と騒がないところが、さすが進学率トップレベルの高校だ。

「先生、質問よろしいですか?」

丸い眼鏡の、いかにも秀才です、といった感じの学級委員が手を挙げる。

「なんだ?丸井」

名前が丸井だから、丸井くんは丸い眼鏡を選んだのだろうか?と、私はこんな時でも冷静に別のことを考えていた。

「プリントの内容は把握しましたが、肝心の交際相手については何も記載がないかと思われます」

うんうんと、他の生徒達も頷く。

「あー、そうなんだよ。その点は政府からは何も指定されなかった。各学校に任せるとのことでな。そこで我が校独自のルールを決めた」

50代のベテラン先生は、さも真面目な話だと言わんばかりに言葉を続ける。

「まず、現在特定の異性とつき合っている場合は、その相手で構わない。他校の生徒でも学年が違っても大丈夫だ。現在誰ともつき合っていない生徒は、これからアンケート用紙を配るから、回答して提出してくれ。学校側でマッチングして相手を決める。希望なども可能な限り考慮するし、途中で何かあれば相手を変更しても構わないからな」

そう言って、必要ない人は取らなくていいぞーとつけ加えながら、先生はまた別のプリントを配り始めた。

回ってきたプリントを、私は当然のように1枚もらう。

なになに?と早速目を通してみた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
                   アンケート

現在、特定の異性とおつき合いしていない場合、希望する項目に○印をつけてください。

1、自分で交際相手を決めたい
(1ヶ月経っても決まらなければ、学校に一任する)

2、希望する相手に学校側から打診して欲しい
      
【希望する相手】
 ___年___組  氏名_________

3、学校側にマッチングを一任する
(だいたいの希望があれば明記すること)


※双方の意見を聞き、合意に至れば成立とします。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(うーん、これはやっぱり3番でしょう)

私は、迷うことなく3の数字に丸をつけた。
あとは希望をどうするか、だ。

(相手の希望か…。特にないなあ。素性が怪しい人は無理だけど、同じ学校の生徒だからそんな心配もないし。私でいいと言ってくれる人なら誰でもいいか)

小さく頷くと、「希望は特にありません」と書き添えてから先生に提出した。

他の生徒達が、ガヤガヤとおしゃべりしながらアンケートに記入するのを、私は参考書を解きながら待つ。

やがて落ち着いた頃合いをみて、先生が口を開いた。

「よーし。じゃあこれから先生達で話し合って、随時マッチングの声かけをするからな。みんな受験で大変な時期だけど、何せ政府の方針だからよろしく頼むよ。あ、ちなみに活動レポートは成績に考慮されるから。単位取れなきゃ卒業できないぞー」

ええ?!と、私は思わず参考書から顔を上げた。

(う、嘘でしょ?異性交遊のレポートが成績に?!そんなの、絶対に無理!)

勉強ならなんとかなるが、男性とのおつき合いの内容をまとめたレポートなんて、何をどう書けばいいのか全く分からない。

(何が正解なの?どんな参考書を見ればいいのよ)

指定校推薦で大学を受験しようと思っていた私は、まさかの展開に頭を抱えた。

◇◇

「おーい、樋口。マッチングの件で話があるんだ」

3日後。

授業を終えて帰る支度をしていると、鷲尾先生に声をかけられ、私は相談室へと連れて行かれた。

「早速だが樋口。2組の工藤は知ってるか?同じクラスになったことはないと思うけど」

「はい、もちろん知っています。常に学年成績トップの彼を知らない人は、我が校にはいません」

「確かに。じゃあ、工藤が相手でもいいか?」

「…は?相手とは?」

「だから、課外活動の相手だよ」

え、それって…と、私はしばし宙に目をやる。

「私が彼と異性交遊する、ということでしょうか?」

「ああ、そうだ。樋口はアンケートに、相手の希望は特にないって書いてあったよな?工藤も同じだった。で、2組の先生と相談して、お前達なら話も合うかなと思ってさ。ほら、工藤は学年トップ、樋口は学年2位だからな」

「はあ…。ですが、先方のご意向はいかがでしたでしょうか?私でも異存はないと?」

「今、2組の先生が聞いてる。どうだ?工藤がOKなら、樋口もそれでいいか?」

「はい、まあ。そうですね。これも何かのご縁ですし、謹んでお受けしたいと存じます」

「そうか、分かった。それにしても、相変わらずお堅いな、樋口は。なんか俺、仲人みたいな気分になってきた。ははは!」

明るく笑い飛ばす先生に、私は前のめりで質問する。

「あの、先生。活動内容をまとめたレポートが成績に考慮されるとのことでしたが、具体的にどの観点でどのようなポイントを評価されるのでしょうか?」

すると先生は、困ったように頬をぽりぽりと掻く。

「それなんだよなぁ。評価に関しても学校に任せるってことなんだけど、先生達も初めてのことで戸惑ってるんだ。まあ、よほど手抜きのレポートとか、高校生らしからぬ行為が書かれていたら減点だろうけど、基本的に周りとそんなに差はつかないと思うぞ」

そうですか…と、私はうつむく。

「なんだ?樋口のことだから、成績を気にしてるのか?確かに学問ではないから、勉強の仕方も分からなくて困るよな」

「そうなんです!」

私はパッと顔を上げて、早口でまくし立てた。

「受験科目なら、勉強方法が分かりますし過去問もあります。ですが私、異性とのおつき合いなんてしたこともなければ想像もつきません。それなのに、レポートを評価されるなんて…。もう私、自信がなくてどうしていいのか」

先生は両腕を組んで、真顔になる。

「うーん。成績優秀な生徒ほど、今回の件は戸惑いが大きいだろう。けどな、樋口。政府のやり方は無茶苦茶だと思うだろうけど、先生はこれも大事な経験になると思うんだ」

「大事な経験、ですか?」

「ああ。樋口はきっとこのまま、偏差値の高い大学に入学して、世間でも名の知れた有名企業に就職できるだろう。だけど社会に出れば、頭の良さだけでは通用しない場面も多くなる。処世術や経験値、それから人とのコミュニケーション能力だって、仕事をする上では大切なんだ」

確かにそうだと、私は真剣に耳を傾ける。

「だからな、樋口。最初は手探りでいいから、少しずつ工藤と一緒に時間を過ごしてみろ。レポートの評価なんて、気にしなくていい。樋口が、人生において大切な時間を過ごせていると感じられたら、それはこの先お前の大きな武器になる」

じっと先生の言葉を噛みしめてから、はい、と私は頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...