お試しデートは必須科目〜しなけりゃ卒業できません!〜

桜井 恵里菜

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心配よりも信頼

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「結衣ー、そろそろ行かないと入学式に遅れるわよ」

「はーい!」

お母さんに返事をしてから階段を下り、玄関に向かう。

4月になり、私はいよいよ大学の入学式の日を迎えていた。

「あら、いいじゃない。似合ってるわよ、そのスーツ」

「えへへー、そう?」

私は思わずニンマリしながら、スカートをつまむ。

春休みに工藤くんと一緒に選びに行った時、可愛いと褒めてくれたスーツなのだ。

今日も、入学式のあとに会う約束をしている。

「やだわー、ヘラヘラしちゃって。結衣、のぼせ過ぎじゃない?まあ、あの工藤くんがお相手なら浮かれるのも分かるけどね」

お母さんは卒業式の工藤くんの答辞にいたく感激し、あの子が結衣の彼氏よ!と、思わずお父さんに爆弾を投げてしまったらしい。

その日の夕食の席で、お父さんはなんとも複雑な表情で、寂しそうに肩を落としながら食べていた。

「あんな完璧な彼氏なら、反対しようがない。けどなあ、相手が誰でもやっぱり嫌だ…」と、ブツブツ呟いていたっけ。

「じゃあ気をつけて行ってらっしゃい。浮かれて階段踏み外さないようにね」

苦笑いしながら見送ってくれるお母さんに、はーい!行ってきますと返事をして、私は玄関を出た。

電車に揺られてキャンパスに向かうと、同じようにスーツ姿の学生が増えてきた。

(去年、工藤くんにつき添ってもらって、一緒にオープンキャンパスに来たなぁ。なんだか遠い昔のことのような気がする)

私の大学に、工藤くんも来たことがある。
それが妙に嬉しかった。

大きな講堂に集まって入学式を終えると、校門前の芝生広場では、早速部活やサークルの勧誘が始まっていた。

「かーのじょ!軽音に興味ない?楽しいよー」

「ラクロス部でーす!一緒に青春しませんかー?」

「可愛いお姉さん!チアリーディングはどう?」

私はもみくちゃにされながら、たくさんのチラシを手に握らされる。

なんとか校門から出ると、チラシをカバンにしまい、乱れた髪を手ぐしで整えた。

(やだー、これから工藤くんに会うのに。スーツもしわしわ)

しょんぼりするけれど、工藤くんに会える嬉しさの方が勝る。

スマートフォンを取り出して、
『入学式終わったよ。これから向かうね』
とメッセージを送ると、
『待ってるから。気をつけておいで』
と、すぐに返信が来た。

私はふふっと笑みをこぼしてから、駅への道を急いだ。

◇◇

「工藤くん!」

「結衣」

待ち合わせた駅で、私は工藤くんに駆け寄る。

「お待たせ」

「いや、そんなに待ってないよ。結衣、入学おめでとう!そのスーツ、やっぱりよく似合ってる。可愛いな」

「ふふ、ありがとう。工藤くんもおめでとう!スーツも似合ってて、とってもかっこいいよ」

「はは!まだ着慣れないけどね。ありがとう」

そう、工藤くんも今日が入学式。
時間は工藤くんの方が早く、私が終わるのを待ってくれていた。

今夜は二人でお祝いのディナーを食べる予定だった。

「まだ早いし、取り敢えずカフェで休憩する?」

「うん!」

駅前のコーヒーショップで、私は興味津々で入学式の様子を聞かせてもらう。

「どんな感じなの?医学部の入学式って」

「ええ?別に、結衣の入学式と変わらないと思うよ?」

「そうなの?みんなスーツ?白衣とか着てないの?」

「当たり前だろ?そんなやついたらびっくりするわ。ハロウィンじゃあるまいし」

「そっか。あはは!なんだか未知の世界なんだもん。工藤くん、私の知らない世界に行っちゃうのかなーって、寂しくて」

「なに言ってんの。俺の方こそ心配だぞ?結衣、可愛いからナンパされまくるだろ」

「またー。そんなこと思ってるのは工藤くんだけだってば。私なんかより遥かにきれいなお姉さん、いーっぱいいるよ」

「結衣、頼むからもっと自覚持ってくれ。危なかしくて仕方ない…って、なにそれ?」

ん?と、私は工藤くんの視線の先を追う。

「あ、これ?部活勧誘のチラシ」

カバンから覗いているたくさんのチラシの束を取り出して、工藤くんに渡す。

「へえー、こんなに色々あるんだ。あ、結衣はテニスやりたいんだっけ。はっ?!なにこのサークル!」

どれ?と私は工藤くんの手元を覗き込んだ。

『テニスサークル、という名の合コンサークル!彼氏彼女、すぐできます!色んな出会いが待ってます!さあ、あなたもバラ色のキャンパスライフを!』

その下には、大きなハートで囲まれたカップルのイラストまで描かれていた。

「ゆ、結衣!まさか、こんなサークルに?!」

工藤くんは、信じられないとばかりに絶句している。

「違うって。こんなサークル、入る訳ないでしょ?」

「大学のサークルって、目的はやっぱり合コンなんだな」

「違うったら!ね、工藤くん。私がそんなところ入ると思うの?」

「でも、結衣がそのつもりなくても、入ってみたら実態は違うってことも…」

「工藤くん!」

私は身を乗り出して工藤くんに顔を寄せる。

「ねえ、聞いて。工藤くんが私のことを心配してくれるのは嬉しいよ。可愛いってお世辞言ってくれるのも、ヤキモチ焼いてくれるのも嬉しい。だけどね、もっと私のこと信じて欲しいの。心配するより、信頼して欲しい」

「心配より、信頼…?」

「そう。私も工藤くんのこと、これから私の知らないところで素敵な女の人と知り合ったりするんだろうなって心配になる。だけど私、信じてるから。工藤くんは私のことを大切に想ってくれているって」

「もちろんだよ。その気持ちは何があっても変わらない」

「うん、その言葉を信じてる。私にとっても工藤くんは、誰よりも大切な人だよ。何があってもね」

「結衣…」

工藤くんは目を潤ませたあと、ふっと柔らかく微笑んだ。

「ごめん。結衣の言う通りだ。俺、何があっても結衣を信じる。結衣が俺を信じてくれる限り、俺も結衣を信頼する」

「うん!」

私は満面の笑みで頷く。

「可愛いな、結衣。俺やっぱり、結衣の笑顔が大好きだ」

「ふふっ、ありがとう。私も工藤くんの優しい笑顔が大好きよ」

私達は照れたように微笑み合う。

「ヤバイ、今すぐキスしたい」

「またそれー?!」

「仕方ないだろ?結衣が可愛いんだもん」

「はあ、やれやれ。工藤くん、いつも真面目な顔で変なこと言うんだから」

「どこが変なんだよ?」

「はいはい」

「ちょっと、結衣?」

いつものやり取りに調子を取り戻した私達は、ま、いいか!と顔を見合わせて笑った。
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