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ホワイトクリスマス
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「工藤くん、起きて起きて。ホワイトクリスマスだよ!」
翌朝。
目が覚めた私は窓の外の景色を見てから、工藤くんを揺さぶって起こす。
「雪!雪が降ってるの!ねえ、起きて」
工藤くんは、んー…と身じろぎしてゆっくりと目を開ける。
「おはよ、結衣」
寝ぼけまなこで、ふにゃっと笑う工藤くんは、まるで子どものように無防備だ。
「今日も可愛いね。結衣の声で目が覚めるなんて、最高に幸せで、俺…」
「それはいいから!ね、見て」
私は工藤くんの腕を引っ張って窓際へ行く。
「ほら!」
「おおー!一面銀世界だな」
「でしょ?きれいね」
「ああ。最高のクリスマスになりそうだ」
うん!と私も笑顔になる。
着替えると、まずは朝食を食べにレストランへ向かった。
ビュッフェカウンターに並ぶのは、採れたての新鮮な野菜や果物、焼きたてのパンにふわふわのオムレツ。
私はついついあれもこれもと食べすぎてしまった。
「はー、お腹いっぱい。美味しかった」
「ああ。今日はどうする?結衣」
「んーと、スキーはどう?ウェアも板も無料レンタルだし、スキー場までバスで送って行ってくれるんだって」
「おお、いいね!スキーなんて久しぶり」
「工藤くん、スキーできるの?」
「少しね。子どもの頃、家族で毎年行ってた」
「そうなんだ!」
「でも受験には縁起悪いからって、ここ何年かやってなかったな」
「あはは!滑るからだね。じゃあ今日は散々滑っちゃおう!」
「それ、去年の今頃なら禁句だぞ?」
二人で早速スキーウェアを選びに行く。
カラフルなウェアがずらりと並び、ゴーグルや手袋、帽子なども自由に借りられた。
「結衣、この白とピンクのウェアにしなよ」
「ええー、このピンク色、可愛いすぎないかな?」
「結衣ほどじゃない」
「は?なに言ってんの」
私は呆れながらも渡されたウェアに決めた。
お返しに工藤くんには、紺色にシルバーのラインが入ったかっこいいウェアを選ぶ。
部屋に戻って着替えると、送迎バスの発着場に向かい、待ち合い室の棚に並んでいたスキー板とブーツを選んでスタッフのお兄さんに調整してもらった。
「板はバスに運びますから、そのまま手ぶらで乗ってくださいね。あ、これは宿泊のお客様にお渡ししているリフト券です」
至れり尽くせりの待遇で、私達はスキー場にやって来た。
「わっ、工藤くん。めちゃくちゃ上手いじゃない」
まずは初心者コースで軽く流そうか、と言って滑り始めた工藤くんは、パラレルで華麗にゲレンデを下りていく。
「おーい、結衣。早くおいでよ」
真ん中まで来ると、工藤くんは私を振り返った。
「うん、今行く」
初心者レベルの私は、ボーゲンで恐る恐る滑り始めた。
するときれいなお姉さんが二人、スーッと横を通り過ぎ、工藤くんの前で止まる。
「お兄さん上手ねー。私達に教えてくれませんかー?」
(は?ナンパ?)
私はキッと目つきを変えると、直滑降で工藤くんのもとへ行き、ザッとお姉さん達の前で止まった。
「お待たせ!工藤くん」
「はやっ!結衣、ワープしたのか?」
お姉さん達は諦めて離れていく。
私はそれからも工藤くんのそばをピタッと離れずに滑り、おかげであっという間に上達した。
◇◇
夕方にホテルに戻ると、着替えてからショッピングを楽しんだり、オシャレなブックストアで本を選ぶ。
ふと壁に貼ってあるチラシを見ると、クリスマスコンサートの文字が目についた。
「ね、今夜チャペルでクリスマスコンサートがあるみたい」
「へえ、行ってみる?」
「うん、行きたい!」
「21時からか。それなら早めに夕食食べようか」
「そうだね。お腹ペコペコだし」
「あはは!結衣、めちゃくちゃ張り切ってスキー滑ってたもんな」
「もう、誰のせいよ?」
ん?と首をひねる工藤くんから、プイッと顔をそむける私。
工藤くんは私の肩を抱き寄せると、顔を覗き込んで聞いてくる。
「もしかして、ヤキモチ焼いてくれたの?」
「…知らない!」
「かーわいい、結衣。キ…」
「ダメ!」
私は工藤くんの手を解いてスタスタと歩き始めた。
クリスマスディナーをレストランで楽しんでから、私達はチャペルへと向かった。
「わあ、きれいね」
「ああ。自然と調和してる内装がいいね」
木の温もりが感じられるチャペルは、天井がドームになっていて、月明かりがほのかに射し込んでくる。
ここで結婚式を挙げられたら、どんなに素敵だろうと思いながら、私は空いている前の方の席に工藤くんと並んで座った。
大きなクリスマスツリーが輝く静かなチャペルの雰囲気はとてもロマンチックで、私は早くも夢見心地になる。
コンサートは、ピアノとヴァイオリン、声楽や弦楽四重奏など、思っていた以上に本格的で、生で聴くクリスマスの名曲に、私はうっとりと酔いしれた。
「はぁ、とっても素敵だったね。聖夜のコンサートって感じで、なんだか心が浄化されたみたい。私の中の毒素が抜けていったかも」
「あはは!結衣に毒なんてある訳ないよ」
「そんなことないよ?工藤くんが他の女の子としゃべっただけで、ムキーッてなっちゃうもん」
「そんな結衣、可愛くて仕方ない」
「またそれー?もう…」
いつものやり取りをしながら手を繋いで部屋に戻ると、冷蔵庫から小さなホールケーキを取り出した。
夕食を食べたレストランで、帰り際に「お部屋でお召し上がりください」と渡してもらったケーキだ。
紅茶を淹れてソファに座り、二人でビターチョコのクリスマスケーキを食べる。
「もうなんて素敵なクリスマスなの。私、一生分の幸せを今日一日で味わってる気がする」
「なに言ってんの。結衣はまだまだ幸せになるよ。俺が一生かけて、結衣を幸せにしてみせるから」
「工藤くん…」
思わぬ言葉に、私は顔を赤らめてうつむく。
「あ、そうだ!大事なことを忘れてた」
私は思い出して立ち上がり、バッグの中からラッピングされた四角い箱を取り出した。
「はい、工藤くんにプレゼント。メリークリスマス!」
「え…、ありがとう。すごく嬉しい」
「ふふっ、開けてみて」
なんだろう?と言いながら、工藤くんはラッピングペーパーを開いて、箱の中のケースを手に取る。
「うわ、すごい…」
ケースを開けて、工藤くんは驚いたように動きを止めた。
「こんなにかっこいい腕時計を、俺に?」
「うん。工藤くん、忙しいから時間を大切にして欲しくて」
「ありがとう!毎日着けるよ。これで結衣をいつも近くに感じられる」
早速腕にはめた工藤くんは、そっと手で触れてから、嬉しそうに笑いかけてくれた。
「ずっと大切にするよ、ありがとう結衣」
「ふふっ、どういたしまして。そんなに喜んでもらえると、私も嬉しい」
アルバイト代が1ヶ月分飛んでいったけれど、工藤くんに永く使えるものをプレゼントできて、私も嬉しかった。
「じゃあ、俺からはこれを結衣に。メリークリスマス」
「ありがとう!開けてもいい?」
「どうぞ」
私はワクワクと、受け取った小さなケースを開ける。
次の瞬間、目を見開いて言葉を失った。
「こ、これ…」
ケースの中にはダイヤモンドが輝く指輪。
(え、まさかこれって…)
信じられない思いでじっと指輪を見つめていると、「結衣」と優しい声で呼ばれた。
「俺達はまだ大学生になったばかりだ。特に俺は、これからますます勉強漬けになる。今すぐの話ではないけど、俺の気持ちは決して変わらない。結衣、俺が卒業して医師としてきちんと働き始めたら、その時は…」
工藤くんは真っ直ぐに私を見つめて告げた。
「結婚しよう、結衣」
私は一気に涙を溢れさせる。
「婚約指輪にしては、ダイヤも小さくてごめん。なかなかバイトの時間が取れなくて…。でも結婚する前に、改めてちゃんとした指輪を贈るよ。キラッキラでピッカピカの、でっかいダイヤの指輪を」
思わず私は吹き出して笑う。
「やだ!そんなのいらない。私はこの可愛くてきれいな指輪がいいの。ずっとずーっと大切にする」
目に涙を浮かべたまま笑いかけると、工藤くんは優しく微笑んでくれた。
「ありがとう、結衣」
そしてケースの中から指輪を手に取ると、私の左手をそっと下からすくい、薬指にゆっくりとはめてくれる。
「わあ…、きれい」
目の高さに指輪を掲げて、私はうっとりとする。
大切な人に愛を込めて贈られた指輪に、私は幸せで胸がいっぱいになった。
「結衣のきれいな指によく似合ってる」
「ほんと?ふふっ、嬉しくていつまでも見とれちゃう。サイズもぴったり!どうして分かったの?」
「いや、分かんなかったから、店員さんに言ったんだ。可愛い彼女だから、指のサイズも可愛いと思うって」
は?!と私は一気に真顔になる。
「嘘でしょ?ほんとにそんなこと言ったの?」
「ああ、苦笑いされたけどね。もし合わなかったらサイズ直ししてくれるって。どう?大丈夫そう?」
「うん!もう絶対これは外さない。世界でたった1つの私の大切な指輪だもん」
「ははっ!そっか」
工藤くんは目を細めて私を見つめたあと、急に何かを思い出したようにハッとした。
「ん?どうかしたの?」
「結衣、肝心の返事聞いてない」
「返事って、何の?」
「俺のプロポーズ」
あ…、と私も真顔に戻る。
「私、返事しなかったっけ?」
「うん、もらってない」
「そうだった?あー、工藤くんが変なこと言い出すからだよ。ギラッギラのゴッテゴテのダイヤとか、指輪のサイズも可愛いとか」
「ゴッテゴテは言ってない」
「いや、とにかく!話の腰折ったのは工藤くんだからね」
「なんだよー。でも結衣、嬉しそうに指輪はめてくれたもんな。じゃ、OKってことで」
「ちょっと!軽く流さないでよ。こんな大事なこと」
私は少しうつむいてから、顔を上げて真っ直ぐに工藤くんを見つめた。
「工藤くん。私、こんなに誰かを好きになったことなかったの。こんなに幸せな気持ちにさせてもらったことも、こんなに優しく包み込んでもらったこともない。工藤くんと出逢ってから、私の毎日はキラキラ輝き出したの。工藤くんが私の幸せの始まり。この先もずっとずっと、工藤くんと一緒にいたい。だから工藤くん、私と結婚してください」
「結衣…」
切なそうに愛しそうに目を潤ませて、工藤くんは私をギュッと胸に抱きしめる。
「ありがとう、結衣。結婚はまだ先でも、結衣は俺のたった一人のフィアンセだよ」
「ふふっ、ありがとう。工藤くんも、私の大切な未来の旦那様だよ」
温かい工藤くんの腕の中で、私は身体中に幸せが広がるのを感じた。
「結衣…。キスしていい?」
耳元でささやかれ、私はふっと笑みを漏らす。
「うん、いいよ」
工藤くんは嬉しそうに私を見つめてから、ゆっくりと顔を寄せて、優しくキスをしてくれる。
照れて真っ赤になる私に笑ってから、工藤くんはもう一度、愛を注ぐようにうっとりするほど甘い口づけをくれた。
窓の外に静かに降り積もる雪。
一年で一番ロマンチックなクリスマスに、世界で一番の幸せ者になれた気がして、私はいつまでも工藤くんの腕に抱きしめられていた。
翌朝。
目が覚めた私は窓の外の景色を見てから、工藤くんを揺さぶって起こす。
「雪!雪が降ってるの!ねえ、起きて」
工藤くんは、んー…と身じろぎしてゆっくりと目を開ける。
「おはよ、結衣」
寝ぼけまなこで、ふにゃっと笑う工藤くんは、まるで子どものように無防備だ。
「今日も可愛いね。結衣の声で目が覚めるなんて、最高に幸せで、俺…」
「それはいいから!ね、見て」
私は工藤くんの腕を引っ張って窓際へ行く。
「ほら!」
「おおー!一面銀世界だな」
「でしょ?きれいね」
「ああ。最高のクリスマスになりそうだ」
うん!と私も笑顔になる。
着替えると、まずは朝食を食べにレストランへ向かった。
ビュッフェカウンターに並ぶのは、採れたての新鮮な野菜や果物、焼きたてのパンにふわふわのオムレツ。
私はついついあれもこれもと食べすぎてしまった。
「はー、お腹いっぱい。美味しかった」
「ああ。今日はどうする?結衣」
「んーと、スキーはどう?ウェアも板も無料レンタルだし、スキー場までバスで送って行ってくれるんだって」
「おお、いいね!スキーなんて久しぶり」
「工藤くん、スキーできるの?」
「少しね。子どもの頃、家族で毎年行ってた」
「そうなんだ!」
「でも受験には縁起悪いからって、ここ何年かやってなかったな」
「あはは!滑るからだね。じゃあ今日は散々滑っちゃおう!」
「それ、去年の今頃なら禁句だぞ?」
二人で早速スキーウェアを選びに行く。
カラフルなウェアがずらりと並び、ゴーグルや手袋、帽子なども自由に借りられた。
「結衣、この白とピンクのウェアにしなよ」
「ええー、このピンク色、可愛いすぎないかな?」
「結衣ほどじゃない」
「は?なに言ってんの」
私は呆れながらも渡されたウェアに決めた。
お返しに工藤くんには、紺色にシルバーのラインが入ったかっこいいウェアを選ぶ。
部屋に戻って着替えると、送迎バスの発着場に向かい、待ち合い室の棚に並んでいたスキー板とブーツを選んでスタッフのお兄さんに調整してもらった。
「板はバスに運びますから、そのまま手ぶらで乗ってくださいね。あ、これは宿泊のお客様にお渡ししているリフト券です」
至れり尽くせりの待遇で、私達はスキー場にやって来た。
「わっ、工藤くん。めちゃくちゃ上手いじゃない」
まずは初心者コースで軽く流そうか、と言って滑り始めた工藤くんは、パラレルで華麗にゲレンデを下りていく。
「おーい、結衣。早くおいでよ」
真ん中まで来ると、工藤くんは私を振り返った。
「うん、今行く」
初心者レベルの私は、ボーゲンで恐る恐る滑り始めた。
するときれいなお姉さんが二人、スーッと横を通り過ぎ、工藤くんの前で止まる。
「お兄さん上手ねー。私達に教えてくれませんかー?」
(は?ナンパ?)
私はキッと目つきを変えると、直滑降で工藤くんのもとへ行き、ザッとお姉さん達の前で止まった。
「お待たせ!工藤くん」
「はやっ!結衣、ワープしたのか?」
お姉さん達は諦めて離れていく。
私はそれからも工藤くんのそばをピタッと離れずに滑り、おかげであっという間に上達した。
◇◇
夕方にホテルに戻ると、着替えてからショッピングを楽しんだり、オシャレなブックストアで本を選ぶ。
ふと壁に貼ってあるチラシを見ると、クリスマスコンサートの文字が目についた。
「ね、今夜チャペルでクリスマスコンサートがあるみたい」
「へえ、行ってみる?」
「うん、行きたい!」
「21時からか。それなら早めに夕食食べようか」
「そうだね。お腹ペコペコだし」
「あはは!結衣、めちゃくちゃ張り切ってスキー滑ってたもんな」
「もう、誰のせいよ?」
ん?と首をひねる工藤くんから、プイッと顔をそむける私。
工藤くんは私の肩を抱き寄せると、顔を覗き込んで聞いてくる。
「もしかして、ヤキモチ焼いてくれたの?」
「…知らない!」
「かーわいい、結衣。キ…」
「ダメ!」
私は工藤くんの手を解いてスタスタと歩き始めた。
クリスマスディナーをレストランで楽しんでから、私達はチャペルへと向かった。
「わあ、きれいね」
「ああ。自然と調和してる内装がいいね」
木の温もりが感じられるチャペルは、天井がドームになっていて、月明かりがほのかに射し込んでくる。
ここで結婚式を挙げられたら、どんなに素敵だろうと思いながら、私は空いている前の方の席に工藤くんと並んで座った。
大きなクリスマスツリーが輝く静かなチャペルの雰囲気はとてもロマンチックで、私は早くも夢見心地になる。
コンサートは、ピアノとヴァイオリン、声楽や弦楽四重奏など、思っていた以上に本格的で、生で聴くクリスマスの名曲に、私はうっとりと酔いしれた。
「はぁ、とっても素敵だったね。聖夜のコンサートって感じで、なんだか心が浄化されたみたい。私の中の毒素が抜けていったかも」
「あはは!結衣に毒なんてある訳ないよ」
「そんなことないよ?工藤くんが他の女の子としゃべっただけで、ムキーッてなっちゃうもん」
「そんな結衣、可愛くて仕方ない」
「またそれー?もう…」
いつものやり取りをしながら手を繋いで部屋に戻ると、冷蔵庫から小さなホールケーキを取り出した。
夕食を食べたレストランで、帰り際に「お部屋でお召し上がりください」と渡してもらったケーキだ。
紅茶を淹れてソファに座り、二人でビターチョコのクリスマスケーキを食べる。
「もうなんて素敵なクリスマスなの。私、一生分の幸せを今日一日で味わってる気がする」
「なに言ってんの。結衣はまだまだ幸せになるよ。俺が一生かけて、結衣を幸せにしてみせるから」
「工藤くん…」
思わぬ言葉に、私は顔を赤らめてうつむく。
「あ、そうだ!大事なことを忘れてた」
私は思い出して立ち上がり、バッグの中からラッピングされた四角い箱を取り出した。
「はい、工藤くんにプレゼント。メリークリスマス!」
「え…、ありがとう。すごく嬉しい」
「ふふっ、開けてみて」
なんだろう?と言いながら、工藤くんはラッピングペーパーを開いて、箱の中のケースを手に取る。
「うわ、すごい…」
ケースを開けて、工藤くんは驚いたように動きを止めた。
「こんなにかっこいい腕時計を、俺に?」
「うん。工藤くん、忙しいから時間を大切にして欲しくて」
「ありがとう!毎日着けるよ。これで結衣をいつも近くに感じられる」
早速腕にはめた工藤くんは、そっと手で触れてから、嬉しそうに笑いかけてくれた。
「ずっと大切にするよ、ありがとう結衣」
「ふふっ、どういたしまして。そんなに喜んでもらえると、私も嬉しい」
アルバイト代が1ヶ月分飛んでいったけれど、工藤くんに永く使えるものをプレゼントできて、私も嬉しかった。
「じゃあ、俺からはこれを結衣に。メリークリスマス」
「ありがとう!開けてもいい?」
「どうぞ」
私はワクワクと、受け取った小さなケースを開ける。
次の瞬間、目を見開いて言葉を失った。
「こ、これ…」
ケースの中にはダイヤモンドが輝く指輪。
(え、まさかこれって…)
信じられない思いでじっと指輪を見つめていると、「結衣」と優しい声で呼ばれた。
「俺達はまだ大学生になったばかりだ。特に俺は、これからますます勉強漬けになる。今すぐの話ではないけど、俺の気持ちは決して変わらない。結衣、俺が卒業して医師としてきちんと働き始めたら、その時は…」
工藤くんは真っ直ぐに私を見つめて告げた。
「結婚しよう、結衣」
私は一気に涙を溢れさせる。
「婚約指輪にしては、ダイヤも小さくてごめん。なかなかバイトの時間が取れなくて…。でも結婚する前に、改めてちゃんとした指輪を贈るよ。キラッキラでピッカピカの、でっかいダイヤの指輪を」
思わず私は吹き出して笑う。
「やだ!そんなのいらない。私はこの可愛くてきれいな指輪がいいの。ずっとずーっと大切にする」
目に涙を浮かべたまま笑いかけると、工藤くんは優しく微笑んでくれた。
「ありがとう、結衣」
そしてケースの中から指輪を手に取ると、私の左手をそっと下からすくい、薬指にゆっくりとはめてくれる。
「わあ…、きれい」
目の高さに指輪を掲げて、私はうっとりとする。
大切な人に愛を込めて贈られた指輪に、私は幸せで胸がいっぱいになった。
「結衣のきれいな指によく似合ってる」
「ほんと?ふふっ、嬉しくていつまでも見とれちゃう。サイズもぴったり!どうして分かったの?」
「いや、分かんなかったから、店員さんに言ったんだ。可愛い彼女だから、指のサイズも可愛いと思うって」
は?!と私は一気に真顔になる。
「嘘でしょ?ほんとにそんなこと言ったの?」
「ああ、苦笑いされたけどね。もし合わなかったらサイズ直ししてくれるって。どう?大丈夫そう?」
「うん!もう絶対これは外さない。世界でたった1つの私の大切な指輪だもん」
「ははっ!そっか」
工藤くんは目を細めて私を見つめたあと、急に何かを思い出したようにハッとした。
「ん?どうかしたの?」
「結衣、肝心の返事聞いてない」
「返事って、何の?」
「俺のプロポーズ」
あ…、と私も真顔に戻る。
「私、返事しなかったっけ?」
「うん、もらってない」
「そうだった?あー、工藤くんが変なこと言い出すからだよ。ギラッギラのゴッテゴテのダイヤとか、指輪のサイズも可愛いとか」
「ゴッテゴテは言ってない」
「いや、とにかく!話の腰折ったのは工藤くんだからね」
「なんだよー。でも結衣、嬉しそうに指輪はめてくれたもんな。じゃ、OKってことで」
「ちょっと!軽く流さないでよ。こんな大事なこと」
私は少しうつむいてから、顔を上げて真っ直ぐに工藤くんを見つめた。
「工藤くん。私、こんなに誰かを好きになったことなかったの。こんなに幸せな気持ちにさせてもらったことも、こんなに優しく包み込んでもらったこともない。工藤くんと出逢ってから、私の毎日はキラキラ輝き出したの。工藤くんが私の幸せの始まり。この先もずっとずっと、工藤くんと一緒にいたい。だから工藤くん、私と結婚してください」
「結衣…」
切なそうに愛しそうに目を潤ませて、工藤くんは私をギュッと胸に抱きしめる。
「ありがとう、結衣。結婚はまだ先でも、結衣は俺のたった一人のフィアンセだよ」
「ふふっ、ありがとう。工藤くんも、私の大切な未来の旦那様だよ」
温かい工藤くんの腕の中で、私は身体中に幸せが広がるのを感じた。
「結衣…。キスしていい?」
耳元でささやかれ、私はふっと笑みを漏らす。
「うん、いいよ」
工藤くんは嬉しそうに私を見つめてから、ゆっくりと顔を寄せて、優しくキスをしてくれる。
照れて真っ赤になる私に笑ってから、工藤くんはもう一度、愛を注ぐようにうっとりするほど甘い口づけをくれた。
窓の外に静かに降り積もる雪。
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