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私達、お試しデート婚です!
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「結衣ー、そろそろ行くよ」
「はーい、今行く」
パタパタと玄関に向かうと、工藤くんが目を見開いた。
「結衣、走るなってば。転んだらどうする?」
「大丈夫だって。これくらいで転んだりしないわよ。お医者様なのに大げさだなー」
「大げさじゃない!結衣とお腹の子に何かあったらと思うと、俺はもう気が気じゃなくて…」
「はいはい。ほら、早く行こう」
月日は流れ、私達は28才になっていた。
工藤くんは総合病院で小児科医を、私はフリーランスで翻訳の仕事をしている。
以前は外資系企業で働いていた私は、去年工藤くんと結婚したのを機に、忙しい工藤くんをサポートしたくて働き方を変えた。
そして今、私のお腹の中には大切な赤ちゃんがいる。
ちょうど妊娠7ヶ月に入ったところで、工藤くんの勤め先で出産する予定だ。
今日は健診に行く為、工藤くんの運転する車で一緒に連れて行ってもらうことになっていた。
「忘れ物ないかな、母子手帳も持ったし。あ、待ってて。リビングのテレビ消してなかった」
「いいよ、俺が消してくる」
そう言ってリビングに向かった工藤くんは、なかなか戻ってこない。
様子を見に私もリビングに向かった。
「どうかした?」
「うん、ほら。あの10年前の、政府のハチャメチャ政策についてやってる」
朝の情報番組で、アナウンサーがフリップを指しながら解説していた。
「10年前に一部の高校で始まった課外活動、いわゆる『お試しデート』ですが、10年の試用期間を経て、新年度からいよいよ全国の公立高校で必須科目となることが決まりました」
へえー、と私は驚きの声を上げる。
「あの政策、まだ続いてたんだ。全国の公立高校でって、ちゃんと受け入れられるのかしら。大丈夫かな?」
「そうだよなぁ。そもそもあの政策の成果って、あったのかな?」
「どうだろね?話題にもならないから、てっきり失敗に終わったのかと思ってた」
「だよな、俺の周りでも聞かない」
散々言ってから、私達はハタと気づく。
自分達こそ、その政策のおかげで結婚できたことに。
「ま、まあ、ごく稀に良い結果に繋がることも、あるかもね?」
「そ、そうだよな。色んなカップルがいる訳だしな」
私達は、あはは…と乾いた声で笑ってから、テレビを消してリビングを出た。
「さてと!今日もエコーで、可愛い赤ちゃんに会えるぞー」
「ええ?!また診察室に一緒に入る気なの?」
「もちろん。だって俺と結衣の赤ちゃんだぞ?二人で一緒に見守らなきゃ」
「そうだけど…。恥ずかしいんだもん。工藤先生、メロメロですねーって看護師さんに笑われるし」
「なんとでも言ってくれ。さあ、赤ちゃん。出かけますよー」
「ちょっと!お腹にチューしないで」
「いいだろ?赤ちゃんは結衣みたいに、キスしたらダメ!って言わないもん」
「言わなくても、きっとお腹の中で呆れてるわよ」
「じゃあ、結衣にキスしていい?」
「どうしてそうなるの!ダメ!」
何年経っても変わらないやり取りをしながら、私達は仲良く手を繋いで玄関を出た。
◇◇
その頃、テレビでは『お試しデート』についてのコーナーが続いていた。
「えー、ここからはスタジオにゲストの方をお招きしてお話をうかがってまいります。10年前、政府のこの政策を取り入れた学校で教師をしていらっしゃった鷲尾 道彦先生です。鷲尾先生、どうぞよろしくお願いいたします」
「はい、よろしくお願いいたします」
「えー、鷲尾先生はこの政策が始まった年に、政府の指定によりご自分の学校の生徒さん達に取り組んでもらった訳ですが、当時を振り返ってみていかがですか?」
「それはもう、我々教員は大いに戸惑いましたよ。ですが、うちの生徒達は真面目でいい子ばかりでしてね。このトンチンカンに思えた政策にも、真剣に取り組んでくれたんです。きちんと活動内容もレポート用紙にまとめて提出してくれましてね。これがもう、読んでみると胸キュンでして」
「は?胸キュン、ですか?」
「そう!純情な生徒達が初めてデートするドキドキ感が、手に取るように伝わってきましてね。初めはぎこちなく、当たり障りない会話しかしなかったのに、段々お互いに心を通わせていくんですよ。いわゆる進学校の生徒達ですから、勉強一筋で恋愛なんて興味がない。ましてや告白なんて、するつもりもない。そんな彼らがこの『お試しデート』で恋人達の気持ちを知っていく。いやー、この政策、なかなか良かったですよ。なんたってうちの生徒、これがきっかけで実際につき合い始めて、遂にはゴールインしましたからね」
「え?それは、結婚されたということですか?」
「そうなんですよ。お見合い結婚ならぬ、お試しデート婚!いいでしょ?しかももうすぐ赤ちゃんも生まれるんです。お試しデート婚ベビー!いやー、めでたい!あはは!」
鷲尾先生が全国ネットでこんなにも浮かれ、こっ恥ずかしい発言をしているとは露知らず…
私は産婦人科の診察室で、
「工藤先生、今日もメロメロパパですねー」
と看護師さんに冷やかされ、苦笑いを浮かべていたのでした。
♡おしまい♡
「はーい、今行く」
パタパタと玄関に向かうと、工藤くんが目を見開いた。
「結衣、走るなってば。転んだらどうする?」
「大丈夫だって。これくらいで転んだりしないわよ。お医者様なのに大げさだなー」
「大げさじゃない!結衣とお腹の子に何かあったらと思うと、俺はもう気が気じゃなくて…」
「はいはい。ほら、早く行こう」
月日は流れ、私達は28才になっていた。
工藤くんは総合病院で小児科医を、私はフリーランスで翻訳の仕事をしている。
以前は外資系企業で働いていた私は、去年工藤くんと結婚したのを機に、忙しい工藤くんをサポートしたくて働き方を変えた。
そして今、私のお腹の中には大切な赤ちゃんがいる。
ちょうど妊娠7ヶ月に入ったところで、工藤くんの勤め先で出産する予定だ。
今日は健診に行く為、工藤くんの運転する車で一緒に連れて行ってもらうことになっていた。
「忘れ物ないかな、母子手帳も持ったし。あ、待ってて。リビングのテレビ消してなかった」
「いいよ、俺が消してくる」
そう言ってリビングに向かった工藤くんは、なかなか戻ってこない。
様子を見に私もリビングに向かった。
「どうかした?」
「うん、ほら。あの10年前の、政府のハチャメチャ政策についてやってる」
朝の情報番組で、アナウンサーがフリップを指しながら解説していた。
「10年前に一部の高校で始まった課外活動、いわゆる『お試しデート』ですが、10年の試用期間を経て、新年度からいよいよ全国の公立高校で必須科目となることが決まりました」
へえー、と私は驚きの声を上げる。
「あの政策、まだ続いてたんだ。全国の公立高校でって、ちゃんと受け入れられるのかしら。大丈夫かな?」
「そうだよなぁ。そもそもあの政策の成果って、あったのかな?」
「どうだろね?話題にもならないから、てっきり失敗に終わったのかと思ってた」
「だよな、俺の周りでも聞かない」
散々言ってから、私達はハタと気づく。
自分達こそ、その政策のおかげで結婚できたことに。
「ま、まあ、ごく稀に良い結果に繋がることも、あるかもね?」
「そ、そうだよな。色んなカップルがいる訳だしな」
私達は、あはは…と乾いた声で笑ってから、テレビを消してリビングを出た。
「さてと!今日もエコーで、可愛い赤ちゃんに会えるぞー」
「ええ?!また診察室に一緒に入る気なの?」
「もちろん。だって俺と結衣の赤ちゃんだぞ?二人で一緒に見守らなきゃ」
「そうだけど…。恥ずかしいんだもん。工藤先生、メロメロですねーって看護師さんに笑われるし」
「なんとでも言ってくれ。さあ、赤ちゃん。出かけますよー」
「ちょっと!お腹にチューしないで」
「いいだろ?赤ちゃんは結衣みたいに、キスしたらダメ!って言わないもん」
「言わなくても、きっとお腹の中で呆れてるわよ」
「じゃあ、結衣にキスしていい?」
「どうしてそうなるの!ダメ!」
何年経っても変わらないやり取りをしながら、私達は仲良く手を繋いで玄関を出た。
◇◇
その頃、テレビでは『お試しデート』についてのコーナーが続いていた。
「えー、ここからはスタジオにゲストの方をお招きしてお話をうかがってまいります。10年前、政府のこの政策を取り入れた学校で教師をしていらっしゃった鷲尾 道彦先生です。鷲尾先生、どうぞよろしくお願いいたします」
「はい、よろしくお願いいたします」
「えー、鷲尾先生はこの政策が始まった年に、政府の指定によりご自分の学校の生徒さん達に取り組んでもらった訳ですが、当時を振り返ってみていかがですか?」
「それはもう、我々教員は大いに戸惑いましたよ。ですが、うちの生徒達は真面目でいい子ばかりでしてね。このトンチンカンに思えた政策にも、真剣に取り組んでくれたんです。きちんと活動内容もレポート用紙にまとめて提出してくれましてね。これがもう、読んでみると胸キュンでして」
「は?胸キュン、ですか?」
「そう!純情な生徒達が初めてデートするドキドキ感が、手に取るように伝わってきましてね。初めはぎこちなく、当たり障りない会話しかしなかったのに、段々お互いに心を通わせていくんですよ。いわゆる進学校の生徒達ですから、勉強一筋で恋愛なんて興味がない。ましてや告白なんて、するつもりもない。そんな彼らがこの『お試しデート』で恋人達の気持ちを知っていく。いやー、この政策、なかなか良かったですよ。なんたってうちの生徒、これがきっかけで実際につき合い始めて、遂にはゴールインしましたからね」
「え?それは、結婚されたということですか?」
「そうなんですよ。お見合い結婚ならぬ、お試しデート婚!いいでしょ?しかももうすぐ赤ちゃんも生まれるんです。お試しデート婚ベビー!いやー、めでたい!あはは!」
鷲尾先生が全国ネットでこんなにも浮かれ、こっ恥ずかしい発言をしているとは露知らず…
私は産婦人科の診察室で、
「工藤先生、今日もメロメロパパですねー」
と看護師さんに冷やかされ、苦笑いを浮かべていたのでした。
♡おしまい♡
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