シロツメクサと兄弟

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42.付き合い

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「バレンタインに温泉行こうよ温泉」

 海がニッコリ言ってくる。海の自宅で飲んでいたら不意に言ってきた言葉に、もちろん酒を飲んでいない利央は「は?」と微妙な顔で海を見ている。同じく酒を飲んでいない律はだが「温泉良いねえ」と年寄り臭いことを言いつつ微笑んでいる。
 去年は酒に挑戦する年だったらしいのだが、今年は自然体で行くのだとある日利央に宣言したらしい律は、今も美味しそうに茶を飲んでいる。
 そんな律をも少し微妙な目で見た後で利央はまた海を見た。

「何でアンタらと温泉行かなくちゃなんだよ」
「失礼だな利央。俺らと行くのに何の不満があんだよ。せっかくこの俺も海と二人きりでしっぽりしたいところを譲歩してやってるっつーのによ」
「いらねぇよそんな譲歩……! しっぽりしてきたらいいだろ亨兄……!」
「あれだろ、利央くんは俺らが律と一緒の風呂に入るんが嫌なんだろ。かわいいよね」
「やかましいんですよ! ったく。……つか翔は何でそんな顔してんだよ」

 思わず敬語で突っ込んだ後に利央は乗ってこないままひたすらビールを飲んでいる翔に首を傾げた。

「いや、俺だって関係ねーだろ。つまらねえなって思って」
「何で? 翔くんも一緒に楽しもうよ」
「……何を……!」

 海がニッコリ言ってきた事に対して翔が引いた顔で速攻言い返す。

「やだなあ、変な意味じゃなくて純粋に、に決まってるだろ」

 それに対して海が苦笑している。

「そりゃ普通に律とかと旅行、楽しいだろけどさ、あんたら皆カップルだろが。男だらけムサイどころか俺以外カップルだろがよ! んなの俺、むなしいだろ」
「今だって同じだろ」

 微妙な顔の翔に亨がサラリと一言で片づけてきた。

「いやそうだけど! でもこうして普通に何か食って喋るだけじゃなくて旅行ってほら、何つーか兄ちゃん言ってたみたいに、しっぽりって感じだろが。あんたらがしっぽりやってる間俺切ねぇだろが! 俺だけ夢ねぇだろが」

 翔が言い返したのを聞いた律が赤くなっている。

「いやだから別にしっぽり? しねぇし、つか何だよその表現」

 反面利央は相変わらず微妙な顔をしている。

「そんな意味すらわからねぇの? 利央案外頭悪ぃな」
「わかってるからさっきから話ついてきてんだろが……!」

 淡々とバカにしたように利央を見てきた亨に、そして言い返している。

「まぁまぁ。楽しくさあ、皆で温泉、いいじゃない。翔くんはほら、望奈さん誘えばいいだろ」

 宥めるように海がにこやかに提案してきた。途端、翔は顔をひきつらせる。

「待て。海さん何言ってんだよ何で松田さん名前呼び……っじゃねぇ、そうじゃなくて何言ってんだよ。誘えるわけねぇだろが」
「何で?」
「当たり前だろ……? 行くやつ松田さん以外全員男だろが……!」

 翔は呆れたように答えた。だが海はニッコリしている。

「でもほら、俺も亨も元々男しか興味ないし、利央くんは律のこと好きだって自覚する前から律しか見てなかったくらいだし。律は律だし。翔くんぐらいだろ、男意識するなら」
「待って、海さん、俺は俺って、何……」
「まあ、そこは、な……」
「うん、まあ」

 律が微妙な顔をして聞くも、横で亨だけじゃなく利央まで納得しているようだ。

「何で……?」

 ますます怪訝な顔になっている律を尻目に、翔がため息つく。

「いやもう何つーか、何かアレだ。ちょっと色々おかしいけどとりあえずアレだ。何で松田さんが出てくんだよ、だいたい」

 あらぬ方を見ながら言っている翔の顔色は大して変わっていないが耳が赤い。利央と亨は微妙な顔をしているし、律と海は苦笑していた。

「まあ望奈さんって俺わりと飲み会で一緒になるんだよね」
「え、何の?」

 海が言う言葉にそして速攻反応する。

「何のっていうか。何だろな、気付けば何の飲み会か既にわからなくなってるんだけどね。律がでも会った事あるって言ってたろ」
「聞いてたけど海さんがそんなよく飲みに行ってるって思うわけないだろ」
「まあ、いいじゃない。望奈さんが都合悪いならじゃあ他に共通の知り合いなんてそんないないしね。元貴誘う?」
「俺の尻の穴の危機は困るんだよ……!」

 元貴の名前を出すと翔がますます微妙な顔になる。翔に対しても元貴がたまに冗談で「付き合おう」的なことを言ってくるからだと思われる。翔もそれが冗談だとわかっているし本気にしているなら、だいたい亨や海に付き合ってそこに飲みに行ったりしない。
 それでも二組の男同士カップルと翔、そして元貴等という組合せは何と言うか、微妙だと思った。
とはいえ、望奈を誘うわけにもいかなかった。いくら周りが安全でも男は男だ。男五人に女一人ってどうよ……、と微妙になる。
 望奈の性格思えば、周りが男だろうが女だろうが気にしなさそうだし、女がいなくとも一人で温泉を楽しめる人ではあるだろう。だが翔が落ち着かない。
 そもそも本人が言っていたが、キス魔らしい。亨と海がいる以上絶対食事中は酒があるだろうし、もし翔もその場に居合わせるなら酒は飲みたい。そんな場に望奈がいると考えるだけで顔がひきつりそうだ。
 さすがに海と知り合いな上に海を見て「かわいい」とは思わないだろうし、亨も然り。利央はかわいい範疇に入るかどうかわからないが高校生だ。さすがに除外だろう。だが律は今でもかわいいと思っているだろうし、実際既にキスしたらしいからな、と翔はジロリと律を見た。

「な、何」

 何故じっとりと自分を見てくるのかわからない律は怪訝な顔をしている。

「翔、まさか俺の兄貴狙って……?」

 それに気付いた利央が今度は翔をジロリと睨んできた。

「いやいやいやいや、無いわ……! お前、律とちょっといい感じだからって普通の感覚置いてきぼりにするなよ! いや……でもお前、律と普通に兄弟だった時から俺をたまに敵対視してたわな……」

 翔は呆れたように利央を見た。

「翔がやたら俺の兄貴と仲いいからだろ」
「いちいち俺のってつけてくんなようぜぇな! そりゃこちとら長らく律と親友やってっからな! 仲もいいっつーの」

 先ほどから調子が狂っていた翔だが、ようやく自分を取り戻したのか明らかにわざとからかうように言う。

「じゃあ別にこのメンツでも温泉いいじゃない」

 だが海にニッコリ言われてまた微妙な顔になる。

 ああもう、やっぱ何でこの兄弟、付き合ったりしたんだろうな。

 お互い好きなら応援する、と利央に言った言葉は嘘ではない。だがどうにも色々やりにくい。
 でもまあこれからも付き合いは長いだろうし、というか翔が長く付き合うつもりなので気にしない方向で行くしかないのだろうなとそっと思う。

「まあ、いいけどな。りおが睨もうが俺、律と温泉入って楽しくお喋りするし」
「別にすんなとは言ってねーし。つかだいたい俺、行くって言ってない」

 利央が生ぬるい顔で生意気なことを言ってくる。

「そうなの? 楽しそうだけどな。りお、何か用事あった?」

だが律にそんな風に言われ「いや、ないよ。兄貴が行きたいなら全然構わないよ」と直ぐにニッコリ笑いかけていた。

 ……ほんっといい性格してんよな。

 今度は翔が生ぬるい顔で利央を見ていると「松田さんとやら、誘えば」と利央に言われた。

「いや、何でだよ。誘うか!」

 翔は手にしていたビールの残りを一気にあおり、喉の器官に詰まらせ咽る羽目になった。
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