彼は最後に微笑んだ

Guidepost

文字の大きさ
10 / 193

10話

しおりを挟む
 留学することで、マヴァリージ王国では学べないような魔術や政治など様々なことを学んできたのであろうリックは歯がゆそうな顔を見せてきた。

「父の訃報を聞き、急いで戻ろうとしたんだ。だが遠く離れた国外だったのもあり、葬儀には間に合わなかった。とりもなおさずの一時帰国だったため、その後一旦また国を出て国外でのことをすべて片づけてから最近正式に帰国した。ここまでわが国が変わっているとは……」

 それでもどうにか国を立て直そうと動き始めた時にどうやらヴィリーがとうとう行動に移してしまったようだ。

「シュテファンは俺にとっても大切な甥だ。必ず救うことを約束する」

 リックはそう言うと牢から立ち去っていった。その時に一緒にいた青年、要はニルスだが、その青年がエルヴィンをじっと見て呟くように口を開いてきた。

「……もっと早く出会っていれば……」

 だったら何か変わっていたのだろうか。

「とにかく……信じて待っていてくれ」

 そう言い残すとニルスもリックの後に続いて立ち去っていった。
 そこからのことはあまり覚えていない。二人を信じる間もなかった。二人がやって来た数日後に、おそらくエルヴィンは牢の中で毒殺されたのだと思う。



 改めて思い返すのもつらい出来事だ。
 とにかく、遡る前の流れを思うと、やはり今のところ諸々変わってきているように思える。
 おとなしいラウラにも親しい友人ができたし、デビュタント前に子ども同士とはいえ社交の場に出ている。エルヴィンもヴィリーもそうだ。何より十八歳となるデニスの婚約者はまだ決定していない。
 とはいえもしかしたら運命には逆らえず、どうあがこうが同じ未来が待っている可能性もなくはない。だが変えられる可能性は絶対にある。ならばやはりそのためにがんばりたい。
 ラウラが十四歳となり大きな分岐点に差し掛かるであろう、実はその前に近づいている事柄がある。
エルヴィンが十六歳の今、リックも十四歳となる。そう、リックが留学のため国外へ旅立つ年だ。
 さすがにこの国の王子の留学を止めることはできない。ただ、せめてリックが留学から戻ってきたのを知るのは牢の中でないことを願う。
 留学のために旅立つ前日、リックはエルヴィンの元を訪ねてきた。

「どうされたんですか」

 メイドが用意した茶と茶菓子をリックに勧めながら、エルヴィンは怪訝な顔を隠すことなくリックを見た。いつもは絶対にそばにいるニルスもいない。何かあったのかとついそわそわしてしまう。遡る前と同じ出来事ならあらかじめわかっているため対応もできるが、最近はあの頃にはなかった出来事のほうが多くなってきているように思う。

「長らく君にも会えないしね、挨拶だよ」
「それは嬉しいですが、ニルスもつけずに?」
「ニルスに会いたかった?」
「いや、それは別にないですが……」

 怪訝な顔のまま答えると何故かリックが吹き出している。ますます意味がわからない。

「何故笑うんです」
「いやぁ、これは君を笑ったんじゃなくて、そうだね、ニルスを笑ったんだよ」

 何故だ。
 それはそれでわからない。

「明日には旅立たれるんですよね。今日はゆっくりなさったほうが……」
「君はいくら成人したとはいえまだ十六歳なんだから、そういう成熟した大人のような気遣いは不要だよ」

 何言ってんだ、ならあんたこそまだ十四歳のわりに大人びた言い方してるだろ。

 内心思いつつも、まるで本当は十六歳じゃないのだろうと言われているかのような気もしてエルヴィンは口元を引きつらせながら微笑んだ。

「どうやら俺は昔から大人びてるそうで」
「うんうん。ああ、そうそう。用事もあったんだ」

 適当な頷きをしてくるくらいなら、先にその用事とやらを言ってくれとまた内心思ったが、いつだって飄々としているリック相手にそう思っても詮無き事だろう。牢で会った時はこんな風だとは思ってもみなかった。何というか、もっと真面目というか、何というか。
 ただ、デニスの圧政を思うとリックの気が抜けるような感じはむしろこのマヴァリージ王国には必要なのかもしれないとも思う。

 だから頼む、リック王子。留学、とっとと終えて帰ってきてくれよ。

「用事とは?」
「これ」

 リックが笑顔で何やら差し出してきた。手の甲を上にしてゆるりと握っているため、差し出してきたものがわからない。また怪訝な顔をしていると「手を出して」と笑われた。
 いくら飄々としていても、さすがに第二王子ともあろう人が恐ろしげなものを人に寄こしはしないだろうと踏んで、エルヴィンは言われたとおりに手を出した。リックはエルヴィンの手のひらに手の中のものをそっと置いてくる。美しい青とも水色とも言える石が目に飛び込んできた。

「……こ、れはブローチ?」
「うん。大丈夫、ちゃんと男性用だよ」

 いえ別にそんな心配はしていませんが。

「は、ぁ」
「魔術具なんだ。俺が作った」
「リックが?」

 確かリックは精霊のエレメントが宿らないこの国の中では、珍しく魔力が強い人だった。それは遡る前から知っている情報だ。だがあくまでも全体的に魔力の低いこの国の中では、だったはずだ。それもあり、リックは外交も兼ねてその才能を伸ばすために留学した。
 だから留学前に魔術具を作ることができると知り、エルヴィンは純粋に驚いた。

「そんな唖然とされるなんて。俺は結構魔力あるほうなのになあ」
「そ、れは知ってますが……魔術具を作るのって確か難しいのでは」
「君のためにがんばったんだよ。いいからこれ、つけてて。綺麗でしょ。魔除けだよ。お守り。幼馴染の君につけてもらいたいんだ。毎日ちゃんとつけててね」
「は、ぁ。……あ、えっと、ありがとうございます」

 魔術具のお守りならば、もしかしたら多少はあの恐ろしい災害ともいえる出来事から守ってくれるかもしれない。それに微々たる力だとしても気持ちはとても嬉しい。さすがにエルヴィンの今後の境遇など知るはずのないリックは、単に親しい相手に対してそういった気持ちを示してくれる人なのだろう。
 エルヴィンは微笑みながら礼を言い、ブローチを上着につけた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。 11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

聖者の愛はお前だけのもの

いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。 <あらすじ> ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。 ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。 意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。 全年齢対象。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

処理中です...