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32話
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「……ニルス」
「うん」
「そこにある書類たちって、何?」
「……後回しにしても問題ない案件かそうでないかを仕分けてる」
「なるほど?」
のわりに無造作に置いてるな、と全然なるほどでないものの頷いた。
「えっと、機密情報とか重要書類とかじゃないなら、ちょっと見ても構わないだろうか」
「? ああ、それらは別に問題ないが」
「よかった。ありがとう」
エルヴィンは手を伸ばし、少々緊張しながらヒュープナー家の名前が見えた書類を手に取った。
「確認していくのを手伝ってくれるのか?」
ニルスはそう言いながらエルヴィンの指先に触れてきた。ニスルにしては珍しい行為の気がするためか、変に心臓が鼓動したが下手をすればまた勝手に感情を読んでしまうため、エルヴィンは笑いながらその手を軽く払った。
「はは。別に手伝ってもいいけど」
ニルスは払われた手を見ている。なんとなく「ごめん」と思いつつ、エルヴィンは手にした書類に目を通した。
領地の取引関連の内容か。確かにただの報告書って感じだし、後回しにされそうだな。というか基本流されそうな書類だ。
だが見ていると違和感を覚える。数字に強いわけではないが、記載されている取引の際に発生したであろう入出金に関わる数字がどうも不自然な気がする。多分、これも今のようにじっと見ていなければそのまま気づかず流れていたかもしれない程度だけに、エルヴィンは自信なくニルスに尋ねた。
「これさ、ちょっと数字、不自然じゃないだろうか」
ニルスは無言のまま受け取り、書類がどの書類かに気づくと「これは……リックによく見ておいてくれと言われていた内容だな……」と呟いた。
「リック王子が?」
「ああ……後回しの書類に紛れてたのか。うっかりしていた……」
確かに父親の仕事を手伝うとはいえ、いくつかの案件を請け負っているとこういったものに紛れた書類のことは流れてしまいそうだ。
そう思えば俺も父上に仕事を頼まれてよかったのかもな。それもリック王子絡み、か。留学しておきながら絡んでくるなあ。
内心苦笑していると、いつも無反応に近いニルスが書類を持ったまま立ち上がった。
「ニルス?」
「エルヴィンの言う通りだ。おそらく不正がある」
「えっ」
「まず父上に報告してくる」
「わ、わかった」
不正だって?
ニルスが出て行ったのをポカンとして眺めながらエルヴィンは少し首を傾げた。
遡る前にはなかったことだ。ヒュープナー家の名前がこういったことで上がることは確かになかった。一体どういうことなのだろう。色々と状況が変わったとはいえ、ヒュープナー家までもがガラッと変わることはあるのだろうか。それとも遡る前にも不正はあったものの、単に発覚していなかっただけだろうか。
……それは……あり得るな。
エルヴィンとヒュープナー家の間での直接的な関りはないが、エルヴィンの周りではずいぶん状況は変わっている。遡る前はニルスやニルスの父親といったウィスラー家と直接関わることがなかったが、今はこうして書類を持ってきたり一緒に茶を飲んだり、そして書類を見せてもらって違和感を覚えたりしていた。
ニルスも、わからないけどもしかしたら遡る前はリック王子の留学について行っていたのかもしれないし、そうすると仕事を山ほど抱えたニルスのお父さん、オッフェンブルク大公爵はヒュープナーの書類を見落としていたままだったかもしれない、よな……?
エルヴィンはぎゅっと自分の片手を握った。
ヒュープナー家では実際に不正を働いているようだった。エルヴィンが見つけた書類により調査することでどんどん埃が出てきたようだ。それらについてはニルスが調べる役割を請け負ったようだ。仕事が増え申し訳ないと思いつつも、ニルスなら間違いないと安心もできた。
国の存続に関わるような大きな不正ではなく、つまらない金の誤魔化しなどばかりだったのもあり、男爵という爵位はどうやら剥奪されなかったらしい。ただ、不正を正すだけでなく差し押さえや保釈金なども含めて諸々莫大な借金を抱える羽目になったヒュープナー家は没落するしかなかった。
もちろん、ラヴィニアも娯楽どころではなくなったのだろう。姿を見かけることは全くなくなったとエルヴィンはニルスから聞いた。
その後、膨大な負債を払いきれなくなった男爵家は結局爵位を返上し、姿を消したようだ。どうなったかはわからないが、どこかの国で庶民として暮らしているのかもしれない。ただ、ラヴィニアを思うと庶民としてやっていけるとは思えなく、実際のところ本当にどうなったかはエルヴィンにはわからない。
これは偶然なのだろうか。
正直、もろ手を挙げて大喜びしてもいい展開だが、エルヴィンとしては素直に踊って喜べない。
確かにあまりにも憎い相手だった。具合さえ悪くなるほど、姿を少しでも見るのも嫌だった。
とはいえ、今のラヴィニアは王族の男たちを狙っているとはいえ何かをやらかしたわけではない。そしてエルヴィンとしてはそれもあり、顔を見るのも嫌なのもあり、将来を思うとどうにかしたほうがいいと思いつつも手をこまねいている状態でしかなかった。
だがエルヴィンがまだ何もしないうちから、ラヴィニアのほうで勝手に倒れてくれた。遡る前にはあり得なかった出来事だ。
「うん」
「そこにある書類たちって、何?」
「……後回しにしても問題ない案件かそうでないかを仕分けてる」
「なるほど?」
のわりに無造作に置いてるな、と全然なるほどでないものの頷いた。
「えっと、機密情報とか重要書類とかじゃないなら、ちょっと見ても構わないだろうか」
「? ああ、それらは別に問題ないが」
「よかった。ありがとう」
エルヴィンは手を伸ばし、少々緊張しながらヒュープナー家の名前が見えた書類を手に取った。
「確認していくのを手伝ってくれるのか?」
ニルスはそう言いながらエルヴィンの指先に触れてきた。ニスルにしては珍しい行為の気がするためか、変に心臓が鼓動したが下手をすればまた勝手に感情を読んでしまうため、エルヴィンは笑いながらその手を軽く払った。
「はは。別に手伝ってもいいけど」
ニルスは払われた手を見ている。なんとなく「ごめん」と思いつつ、エルヴィンは手にした書類に目を通した。
領地の取引関連の内容か。確かにただの報告書って感じだし、後回しにされそうだな。というか基本流されそうな書類だ。
だが見ていると違和感を覚える。数字に強いわけではないが、記載されている取引の際に発生したであろう入出金に関わる数字がどうも不自然な気がする。多分、これも今のようにじっと見ていなければそのまま気づかず流れていたかもしれない程度だけに、エルヴィンは自信なくニルスに尋ねた。
「これさ、ちょっと数字、不自然じゃないだろうか」
ニルスは無言のまま受け取り、書類がどの書類かに気づくと「これは……リックによく見ておいてくれと言われていた内容だな……」と呟いた。
「リック王子が?」
「ああ……後回しの書類に紛れてたのか。うっかりしていた……」
確かに父親の仕事を手伝うとはいえ、いくつかの案件を請け負っているとこういったものに紛れた書類のことは流れてしまいそうだ。
そう思えば俺も父上に仕事を頼まれてよかったのかもな。それもリック王子絡み、か。留学しておきながら絡んでくるなあ。
内心苦笑していると、いつも無反応に近いニルスが書類を持ったまま立ち上がった。
「ニルス?」
「エルヴィンの言う通りだ。おそらく不正がある」
「えっ」
「まず父上に報告してくる」
「わ、わかった」
不正だって?
ニルスが出て行ったのをポカンとして眺めながらエルヴィンは少し首を傾げた。
遡る前にはなかったことだ。ヒュープナー家の名前がこういったことで上がることは確かになかった。一体どういうことなのだろう。色々と状況が変わったとはいえ、ヒュープナー家までもがガラッと変わることはあるのだろうか。それとも遡る前にも不正はあったものの、単に発覚していなかっただけだろうか。
……それは……あり得るな。
エルヴィンとヒュープナー家の間での直接的な関りはないが、エルヴィンの周りではずいぶん状況は変わっている。遡る前はニルスやニルスの父親といったウィスラー家と直接関わることがなかったが、今はこうして書類を持ってきたり一緒に茶を飲んだり、そして書類を見せてもらって違和感を覚えたりしていた。
ニルスも、わからないけどもしかしたら遡る前はリック王子の留学について行っていたのかもしれないし、そうすると仕事を山ほど抱えたニルスのお父さん、オッフェンブルク大公爵はヒュープナーの書類を見落としていたままだったかもしれない、よな……?
エルヴィンはぎゅっと自分の片手を握った。
ヒュープナー家では実際に不正を働いているようだった。エルヴィンが見つけた書類により調査することでどんどん埃が出てきたようだ。それらについてはニルスが調べる役割を請け負ったようだ。仕事が増え申し訳ないと思いつつも、ニルスなら間違いないと安心もできた。
国の存続に関わるような大きな不正ではなく、つまらない金の誤魔化しなどばかりだったのもあり、男爵という爵位はどうやら剥奪されなかったらしい。ただ、不正を正すだけでなく差し押さえや保釈金なども含めて諸々莫大な借金を抱える羽目になったヒュープナー家は没落するしかなかった。
もちろん、ラヴィニアも娯楽どころではなくなったのだろう。姿を見かけることは全くなくなったとエルヴィンはニルスから聞いた。
その後、膨大な負債を払いきれなくなった男爵家は結局爵位を返上し、姿を消したようだ。どうなったかはわからないが、どこかの国で庶民として暮らしているのかもしれない。ただ、ラヴィニアを思うと庶民としてやっていけるとは思えなく、実際のところ本当にどうなったかはエルヴィンにはわからない。
これは偶然なのだろうか。
正直、もろ手を挙げて大喜びしてもいい展開だが、エルヴィンとしては素直に踊って喜べない。
確かにあまりにも憎い相手だった。具合さえ悪くなるほど、姿を少しでも見るのも嫌だった。
とはいえ、今のラヴィニアは王族の男たちを狙っているとはいえ何かをやらかしたわけではない。そしてエルヴィンとしてはそれもあり、顔を見るのも嫌なのもあり、将来を思うとどうにかしたほうがいいと思いつつも手をこまねいている状態でしかなかった。
だがエルヴィンがまだ何もしないうちから、ラヴィニアのほうで勝手に倒れてくれた。遡る前にはあり得なかった出来事だ。
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