彼は最後に微笑んだ

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31話

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 誕生日も終え、気づけばエルヴィンは十七歳を過ぎていた。何というか、一年一年過ぎるのが早い気がする。年配の人がそう言うのを聞いたりするが、エルヴィンはまだ成人して一年しか経っていない。

 もしかしてあれかな、二度目だからかな。

 二十七歳で一度人生を終えた身としては、九歳の頃から今のところ人生を二度送っていることになる。それに二十七歳だったあの時からある意味八年経ったということは考え方によれば外見は十七歳でもエルヴィンの意識としては三十代半ばとも考えられるのではないだろうか。

 のわりに俺、全然大人って感じじゃないけどもさ。

 二度目だからか、今のところ日常生活は結構スムーズに過ごせている。騎士としても貴族としても兄としても息子としても順風満帆ではないだろうか。おまけに以前はいなかった友人にも恵まれている。あとは無事、ラウラが十八歳を過ぎることを祈るくらいだろうか。そしてデニスが今の婚約者と結婚し、その後仲睦まじく過ごしてくれたら最高だろう。
 そのためにもラヴィニアに対して油断できないが、できればもう姿を見るのも嫌なエルヴィンとしてはいまだにニルスに頼るしかない。
 そう思っていたある日、エルヴィンは父親に頼まれてニルスの父親であるデトレフの執務室を訪れていた。そして預かってきた書類をデトレフに渡す。

「確かに。預かっておくよ。ありがとう、エルヴィン」
「いえ」

 騎士団長であるエルヴィンの父親、ウーヴェは先日、休暇中で国に一時帰国していたリックから軍関連の書類を渡されていた。リックが留学中に国外で見聞し参考にした軍関連の内容が記載された書類のため、王の騎士団長であるウーヴェが預かったのだが、内容を確認すると中に国政関連の書類が紛れていることに気づいたらしい。
 ウーヴェは「あのしっかりしたリック殿下が珍しい」と言いながら、エルヴィンにその国政関係の書類をラフェド王の補佐をしているデトレフに預けるよう頼んできた。そしてそれを渡すために今、執務室を訪れていた。

「手数をかけたね」
「とんでもない」
「あと、いつも私の息子と仲よくしてくれてありがとう」
「むしろ俺のほうこそ、ニルスと仲よくしてもらっています。色々助けてもらったりもしていて」
「ふ。この不精者がな」

 デトレフがおかしそうに笑って、部屋の少し離れたところにいるニルスを見る。ニルスは無言のまま茶の準備をしている。

「とりあえずこの書類を担当の官僚のところへ持っていこう」
「あ、でしたら俺が」
「いやいや。国政関連の内容だし、私が持って行ったほうがいいしな。エルヴィンはよかったらここでもう少しゆっくりしていってくれ」

 デトレフはにっこりと笑うと執務室を出ていった。ニルスの父親だけに顔は似ているのだが、いかんせん表情の変化が断然豊富で、エルヴィンは思わずデトレフに見とれてしまっていた。

「……中年が好きなのか」
「は……、いやいや、何でそうなるんだ。でもニルスのお父さん、かっこいいよな。すごく美形おじさまって感じ」

 というかニルスが老けたらデトレフのようになるのだろうか。とはいえ年を取ってもニルスはあまり表情が出ないままの気はする。そう思うとニルスに似たデトレフが微笑む姿が何だかレアな気がしてつい見とれていたようだ。

「綺麗なものとかかっこいいものって見とれちゃうだろ?」
「……自分の父親だから」

 だから見とれることがない、という意味だろうか。確かにエルヴィンもウーヴェがいくら尊敬できる父親でも見とれることはないだろう。

「まあ、そうだな」
「とりあえずがんばって老けるようにする」
「いや、なんでだよ。ニルスってたまによくわからないな」

 ははは、と笑いながらニルスを見るが、少なくとも冗談を言っている顔ではない。ただ、基本的にいつも同じ表情をしているのでなんとも言えない。
 ブローチをつけてはいるので触れたら今のよくわからない冗談らしき言葉の意味もわかるのかもしれないが、そういう目的のためにあえて触れることはしないでいようと思っているため、エルヴィンはとりあえず「じゃあ……」と執務室を出ようとした。

「茶を淹れた。飲んでいってくれ」
「そういえば準備してたな。おじさんにかと思ってたけど……俺に?」
「ああ」
「ありがとう。じゃあ呼ばれようかな」

 使用人に淹れさせたのではなくニルスが自ら淹れてくれたのなら飲まなければ嘘だ。
 ソファーへ移動し、茶を飲む。美味しい。ニルスもそばに座り、同じく茶を飲んでいる。特に会話はないが、幼馴染としてずっといる相手だからだろうか、何だか落ち着く。なんならこのままずっとぼんやり二人で茶を飲みたい気持ちにさえなる。

 って、俺はじいさんかよ。

 年寄りでなければもしくは──

 あれ? もしくは、何だ?

 首を傾げていると、ため息置かれていた書類に目がいった。いくつもの無造作に置かれている書類の中に、嫌いだからだろうか、それとも普段から気にしているからだろうか、ヒュープナー家の名前が目に入ってきた。
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