彼は最後に微笑んだ

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30話

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 少し眠ろうとは思ったが本当にいつの間にかぐっすり眠っていたようだ。目を覚ましたところでエルヴィンは自分が眠っていたことに気づいてほんのり驚いた。
 ラヴィニアのことで具合が悪くなるくらい気に病んでいたというのに速攻で眠りに陥れる自分を誇らしげに思えばいいのか微妙に思えばいいのか、ついでに何だかいい匂いがするし腹が減ったな、などと考えているとニルスがそばにいることに気づいた。
 ただいつもと少し様子が違う気がする。どこか戸惑っているというか、困惑しているというか、申し訳なさそうというか、よくわからないがそんな感じがする。よくわからないのは多分ニルスの表情が基本的に読み取りにくいからだろうか。

 ……もしかして出た振りしてすぐまた入ってきてたとか? だから申し訳なさそう、とか?

「ニルス……まさか出ていったと思ったらすぐ戻ってきたのか?」
「いや。大広間に少しいた」

 ですよね。さすがにそこまでする意味がわからないもんな。
 じゃあ、何でそういう風に思える様子だったんだろう。何かやらかしちゃった、みたいに思ってそうに感じたんだけど、俺の読み取りミスかな? いつものニルスだったのかな?

「あと、これ……」

 これ、とニルスがテーブルを示す。見れば美味しそうな食事が乗った皿がいくつか置かれている。いい匂いの元はこれだったようだ。

「もしかして持ってきてくれたの?」
「ああ」

 お前が神か。

「ありがとう、ニルス。腹減ったなあって考えてたとこなんだ」
「うん」
「ニルスは何か食べた?」
「いや」
「じゃあ一緒に食べよう」
「二人分はない。お前が食べろ」
「せっかくだから一緒に食べようよ。な?」
「……うん」

 嫌なのかな?

 思わずそう思ってしまうくらい、やはりニルスが少々やらかした的な顔をしているように見える。

「ニルス、どうかしたのか?」
「……いや」
「そう? ならいいんだけど」
「ああ」
「じゃあ食べよう。どれから食べようかな。ガッツリ濃そうなやつからいく? それとも最初は抑え気味でサラダ系から……」
「……すまない」
「いや、何で? 急にどうした。もしかして先に食っちゃってた?」
「いや」
「? だったら何で急に謝るんだ」
「……なんでもない」
「変なニルスだな。じゃあ食べよう」
「ああ」

 食事はそこそこ冷めていたが美味しかった。眠って少しすっきりしたせいもあるからかもしれない。
 少ししてからニルスが「もう具合は大丈夫なのか」と聞いてきた。本当に心配してくれていただろうし、いい加減に答えるのもなとエルヴィンは改めて自分の中の気持ちを探る。
 ラヴィニアのことは心の底からやはり嫌いだし、できればもう二度と会いたくないと思っている。
 だがこのまま放置していて取り返しのつかないことになるのも嫌だ。かといって今自分にできることが特にない。

 ……なるようになる、か?

 とりあえずできそうなことはする。手をこまねくことだけはしない。だがそのために自分が犠牲になるつもりもない。
 極力ラヴィニアに会うことなく、自分のできる範囲で動ける時は動く。

 これしかない、だろうかな、今のところ。

 うん、とエルヴィンは頷いた。

「ああ、もう大丈夫だ。心配かけてしまって悪い。ありがとう、ニルス」
「問題ない」
「あと、その、ラヴィニアのことだけど……」
「彼女は俺が見ている限り、リックやデニス殿下に近づくことはない」

 頼もしすぎか。

 しかも何故そんなに? と詳しく聞いてくることもない。

「ありがとう、ニルス。本当にありがとう」

 あまりパーティーが好きではないというのに、今後デニスが出る予定があるパーティーにはニルスも出席してくれるとさえ言ってくれた。

「リックは休暇中で帰ってきた時はさておき、留学中だし基本的に出ることはない」

 だからデニスに注意を払っておこう、とニルスは約束してくれた。とても申し訳ないと思いつつ、とてもありがたい。
 結局その日は大広間に戻ることなく、エルヴィンは帰宅した。ニルスが約束してくれたことをありがたく享受し、自分は今後パーティーに出席するのは控えようと思った。ラヴィニアはかなり娯楽好きだったはずだ。しかも機会があればデニスやニルスとの接触を狙うつもりだろうし、どこかで開かれるパーティーに出席してくる可能性は高い。
 ラウラが好んで読んでいる小説のヒーローやヒロインなら、ここで絶対自分に鞭打ってでもパーティーに出て自らラヴィニアとの接触を図るのだろう。そして自ら危険な目に遭う。
 そうしなければ物語の盛り上がりにも欠けるのだろうが、小説に入り込めていないエルヴィンからすれば「何でここで自ら行っちゃうの」と主人公たちに突っ込みたい。ここは待機だろうっ? と揺さぶりたい。
 自分に当てはめたとしたら、エルヴィンの場合わざとラヴィニアに接触を図ったところで、墓穴を掘る羽目になりそうだ。侯爵家長男は王子や大公爵家の王族に比べると見劣りするかもしれないので、おそらく獲物にはならないだろうが、目をつけられて遡る前の二の舞になる羽目になるかもしれない。

 でも小説ならあれかな、うっかりラヴィニアが俺に惚れちゃって、王子との仲を邪魔するどころか、って流れだろかな。

 現実だとまずあり得ないだろうが、どのみち恋愛小説的な展開になるのだとしてもごめんだ。
 そんなことを考えた後に「何だかんだで俺もラウラが好む小説の影響受けてんだろ……」とエルヴィンは微妙な気持ちになった。
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