彼は最後に微笑んだ

Guidepost

文字の大きさ
37 / 193

37話

しおりを挟む
 気づけばラウラが十七歳になっていて、そういえばあと一年もすれば本来はデニスと結婚していたのだなとエルヴィンはしみじみ思った。
 別の令嬢と婚約しているデニスは、おそらくこのままその令嬢と結婚するだろうと誰もが思っている。よって同じく気づけばラウラがデニスと結婚する可能性はほぼゼロと言っても過言ではなくなっている。
 ラヴィニアもあの事件があってから名前を聞くこともなくなった。というか、一度王城の仕事の面接にそれらしい女性は来たらしい。ニルスに聞いた。
 名前は変わっていたが、女性の顔を基本覚えないニルスが珍しくラヴィニアだけは覚えていて、面接を担当している者に身元をしっかり調べるよう助言しておいたらしい。王城に勤める者えメイドであっても、身元が怪しい者は不可だ。よってラヴィニアと疑わしい女性は身元不明確ということで面接で落とされたと聞いた。
 その女性がラヴィニアだったと断言できるものはない。違うかもしれない。だがエルヴィンはニルスに頼んでおいてよかったと心底思った。そしてニルスが珍しく女性の顔を覚えていてくれてよかったと同じく心底思う。

「何で顔、覚えてたんだ? もしかしてタイプだった?」

 エルヴィンが聞けば、とてつもなく不可解そうな顔をされた。多分少なくともタイプではないのだろうと内心苦笑しながら思っているとニルスは「……お前に言われてたから」と呟くように言ってきた。
 こんな身分のいい、しかも容姿もいい美形イケメンが友人の戯言のような言葉を真に受けてくれて顔まで覚えていてくれるとは、とエルヴィンは感動と少しの照れのため、思わず手で顔を覆った。

「エルヴィン?」
「……いいやつすぎだろ」

 ところでちょくちょくニルスに助けられてばかりだが、小説に出てくるように自ら派手に動いて物事を解決していくようなことをエルヴィンは一切していない。少々情けない気もするが、やり直しの人生は無駄ではないと思える程度には自分も多分運命を変えられているのではないだろうかと思うことにしている。
 いつもは仕事の後などに酒を飲んで喋ったりすることが多いが、今日は珍しくエルヴィンの屋敷にある庭園で、ニルスとニアキスの男三人でのんびり茶を飲んでいる。昔子どもの頃こういう集まりよくあったよな、などと懐かしがったり、今の仕事で見つけた面白おかしい話をしたりしている。主にエルヴィンとニアキスが。
 少し離れたところではラウラのスペースで、ラウラが花の世話をしながらテレーゼと楽しそうに会話をしている。ニアキスは時折そちらをちらりと見ては、また見る、と繰り返していた。

「いい加減チラ見してる振りしつつガン見するのやめろよな」

 エルヴィンが呆れつつ言えば「俺だって心置きなく堂々と見つめられる関係になりたい」と返ってきた。ニルスは耳にタコだといった様子で黙って茶を飲んでいる。

「あ。ニルス。今、聞き飽きたって思っただろ」
「……思ってない」
「嘘だ。絶対思ったはずだ。俺だってそろそろお前らに同じことじゃなくて新規情報をお伝えしたいよ。いい方でな。悪いニュースじゃなくて!」

 エルヴィンとしてもニアキスに任せてもいいと思ったりはしているが、肝心のラウラがその気でなければどうしようもない。

「というかな、お前だってそろそろ婚約者決めてもいいだろ。もう十九歳だろ? エルヴィンも」
「それを言うならニアキスはもう二十歳だろ」
「嫌ってほどわかってるぞ。それに俺はいつでも婚約オッケーだしむしろ今すぐ結婚だって問題ない。ただ相手が振り向いてくれないだけだ」
「一番大事なところだろうが、侯爵家ご長男様よ」
「エルヴィンだって同じだろうが。なあ、ニルス」

 大公爵家ながらに次男坊のニルスは、どうでもよさげに「……さあ」と答えただけだった。

「反応が微妙すぎる」
「……お前の話が微妙だからだろ」

 エルヴィンが呆れたように言えばニアキスは思いきり首を振ってきた。

「俺としてはだな、本気で、ほんっきでエルヴィン、お前とテレーゼが一緒になってくれたらって思っているんだ。お前になら俺の妹を……、ってニルスさん? 今俺のこと睨まなかったか?」

 言われてもただ茶を飲んでいるニルスの代わりにエルヴィンが代弁しておいた。

「お前がつまらない話ばかりするからだろ。ニルスが睨むなんてあり得ないかもだけど、もしほんとに睨んだとしてもとてもわかる。俺が睨んでもいい」
「なんでだよ」
「つまらないからな。あといい加減俺の言ってること、理解しろ、恋愛脳」
「ええ。俺のささやかな望みなのに」
「煩い。そういえばニルス」
「何」
「リック王子、もうそろそろ帰ってくるって噂を耳にしたんだけど」
「……ああ。本当だ」
「へえ。そうなんだ。二年ほど前に一時帰国はしてたけど、それ以来またずっと会ってないし、楽しみだな」
「ああ」
「俺も聞いたぞ、その話。もう向こうの国を出発したんじゃなかったか?」
「ああ。馬車で出てこっちに向かっている」

 リックは十四歳から外交を兼ねて他国へ留学していた。これは遡る前も変わらない。むしろ全く同じ時期だったため、エルヴィンは「結局同じ運命をたどるのでは」と少々動揺したくらいだ。
 だが、帰国は以前、もっと遅かったはずだ。とはいえあの頃はリックと知り合いでさえなかった。牢の中で初めて話したくらいだった。

 これも運命が変わったからなのだろうか?

 内心首を傾げつつ、でも久しぶりの友人に会えることは楽しみだった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。 11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

聖者の愛はお前だけのもの

いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。 <あらすじ> ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。 ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。 意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。 全年齢対象。

処理中です...