彼は最後に微笑んだ

Guidepost

文字の大きさ
80 / 193

80話

しおりを挟む
 待ってと言われたものの、ニルスはそれ以上何も言ってこない。だが腕をつかまれたままなので逃げ……切り抜けることもできない。

「……あの、ニルス……?」

 何か言うか腕を離してもらえればと思う。さらにもう少し欲を言えば、何か言うにしても罵りなどはできれば避けていただければとエルヴィンは切に願った。
 幼馴染で親友である同性から気持ちを向けられて爽やかな気持ちになれないとしても、できれば流すというか、せめて「気持ちはわかった。だが俺は」といった風にさらりと断って欲しい。そうでないとうっかりバレてしまった上に罵られる状況にエルヴィンは上手く対応できないかもしれない。

 そりゃ断られるのも悲しいけど……でもこればかりは仕方ないことだと受け入れられる。本当ならもっとこう、多少なりともその気になってもらえるよう努力してから気持ちがバレたかったが、こうなっては仕方ないもんな……。

 潔く断りを受け入れた上で、今後それでも諦めずに努力していくか、どうしても無理そうなら諦める努力をするか決めていくしかない。だが罵られるとさすがに覚悟の上だったわけではないので少々、いや、結構心が折れそうだ。
 かといって腕を振りほどいてまで逃げるのはさすがに卑怯だし、腕を振りほどいて先にいっそ心を読むために触れにいくのはもっと卑怯だ。

「……エルヴィン」
「は、はい」

 来るぞ……俺、気合いれろ。どう言われても心、折るなよ?

「……その」
「はい」
「……ほ、本当、に?」
「え?」

 予想していた反応と少々違いエルヴィンが戸惑っていると、ニルスがつかんでいた腕をそっと離したかと思えば今度はエルヴィンの両手首をつかんできた。エルヴィンの精神上、好きな人に触れられて嬉しいというより、まるで縄にかけられたような気分だ。その上でニルスはじっとエルヴィンを見下ろしてきた。表情が読みにくいながらに吸い込まれそうな美しい瞳に目が離せなくなりそうだが、やはり今の精神上、できれば顔をそらしたい。
 ただ久しぶりに間近で目の当たりにし、改めて男から見てもニルスは美形な上に見惚れるほど男らしい見目だなと思う。それなりに背のあるエルヴィンよりさらに高い背でこの見た目だ。その上大公爵家の子息の上に本人もすでに侯爵の称号を得ている。ニルスは何も言わないが、見合い話が後を絶たないどころか対応できないほど積み上げられているレベルだろうし、たくさんの令嬢からも直接アピールされているのではないだろうかと思う。

 ……むしろ俺の気持ちを知っても「そうか」で済ませそうな勢いだよな。そうか、で流されそうというか。

 だが今、ニルスは「本当に?」と何故か聞いてきた。

 何だろ……まさか、そんな気持ちを俺に向けるなんて嘘だろ? と、ある意味罰として繰り返し言わされるプレイ……? いや、ニルスはそういうことしないよな……。

「エルヴィン……」
「あ、え、……あ、ああ! そう、だ。……こういう感じで気持ちがバレてしまうのは俺もすごく不本意だけど……」

 もうこうなったら男らしく行くしかない。ただでさえ男らしいところを今まで全然見せられていない上に先ほどからエルヴィンの言動は完全に情けない。せめて今からでも努力するしかない。

「……俺はニルスが……、……好きだ」

 先ほどリックのせいでうっかり聞かれてしまった時と違い、今改めて口にすると逆に落ち着いてきた。

「ごめんな、お前はずっと俺のこと、幼馴染の友人だと思ってくれていただろうに。俺もずっとそう思ってはいたんだけど……悪い、気づけばお前のこと、好きになっ」

 なっていたと言いかけているところで手首から離れたニルスの手がエルヴィンの体にまわってきて思いきり抱き寄せられた。

「っな、ん」

 一瞬唖然としてから驚いたが、正直嬉しく思ったりもする。仕方ない。好きなのだから、そんな好きな相手にどういう意味だかわからないにしても抱きしめられるなど、喜ばない男などいないのではないだろうか。
 だがぎゅっと抱かれたまま時間が経過するのは少々落ち着かない。というか心臓にもよくない。

「……あの」
「……あ、ああ。すまない……。嬉しく、て」
「え?」

 何が?

「ニルス?」
「……俺、も……お前の、こと……」

 え?

「エルヴィン……」

 一旦抱擁を解かれ、名前をそっと呼ばれた。そして小さな声で多分「愛している」と聞こえた気がしたが、ニルスの熱い息がかかったかと思うと唇がエルヴィンのそれに触れてきたおかげでとりあえず何もかも吹き飛んだ。
 夢で見たことがあるからだろうか。エルヴィンはニルスとのこの唇の触れ合いをすごく知っている気にさえなった。
 甘くて柔らかくて熱くてとろけそうで、そしてニルスの味がする。

 この味と感触を、俺は知ってる……。

 そんな錯覚をエルヴィンは体の芯から疼く何とも言えない最高の感覚とともに痛感した。
 とはいえ頭での理解は全く、全然、追いついていない。だがそんなこと今はどうでもいいとばかりにエルヴィンはニルスに腕を回し、ただひたすら夢中になってその味を堪能した。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

処理中です...