彼は最後に微笑んだ

Guidepost

文字の大きさ
111 / 193

111話

しおりを挟む
「ニルス! 魔法引っ込めて!」

 慌てて言うとニルスがこくりと頷いてすぐに火は消えた。恐る恐る絨毯を見ると焦げ跡は全くなかった。酔いながらも魔法の火力を調整できるほど、ニルスもそこそこ魔力があるのかとエルヴィンはつい感心していたが、すぐに「そんな場合ではない」と我に返る。

「ここはお前の屋敷じゃないんだぞ。しかも友好的とはいえ他国の宮殿なんだから、そんなことしちゃ駄目だろ」

 つい弟に言うような言い方になってしまったが、実際弟がいるからか言い聞かせようとするとどうしてもそうなってしまいがちだ。
 だがニルスは気を悪くした様子もなく「……わかった」と素直に頷いてきた。

「よかっ」
「お前がここで眠るなら」
「よくなかった……! ニルス。何もでかい男二人でベッド使う必要ないだろ。ソファーもベッド並みに寝心地よさそうだし、俺は……」

 話している途中でまた足元がちろちろと燃え出す。

「わかった! 俺こそわかったから引っ込めて!」
「ああ」

 慌てて肯定するとまた火は消えた。

「……ニルス……お前、酔うとわかりにくいくせに案外たち悪いな」
「そうか」
「……はぁ。じゃあ着替えるからその間にとりあえずそっちに寄ってて……っ、おい」

 着替えるためにベッドから離れようとしたら今度は腕を引かれるどころか体に腕が回ってきた。

「どこへも行くな」
「いや、着替えるだけなんですけど……ああもう。わかった。どこにも行かないから、せめて俺が眠るスペース空けて」
「わかった」

 認めるとニルスは頷いてエルヴィンを離してきた。そしてもぞもぞとベッドに上がって半分を空けるように移動する。
 今のニルスには何を言っても無駄なのかもしれない。そのわりに基本的にはいつもと同じように言われたことを素直に聞いてくれたりもする。一瞬「俺が言うことを聞くのは基本的にニルスも望むとこだけど、俺がどこかへ行くのはニルスが望まないことだから言うこと全然聞いてくれない、とか?」などと調子のいいことが頭に浮かんで、エルヴィンは自分に対して微妙な気持ちになった。

 どんだけ俺が好きなんだよそれ。調子よすぎか俺。

 とりあえず今日はもうこのまま眠るしかないと、エルヴィンもそのままベッドに座った。この服は皺だらけになるだろうが一応いくつか着替えは持ってきているので問題はないだろう。
 横たわるとエルヴィンはニルスに背を向けた。そうでもしないと変に意識してしまいそうだ。普通に考えたら男同士なので同じ部屋、同じベッドだろうが平穏無事な状況だろう。だがニルスに関しては違う。エルヴィンの大切で大好きな恋人なのだ。意識しないほうがおかしい。

 でも思ってた以上に酔ってそうだもんな。そんな相手に何もできるわけないし、とりあえず早く寝よ。

 背を向けて目をつむると、少しして背後から腕を回された。え? っと思う間もなく、気づけば背後から抱きしめられている。

 ちょ、ちょ、あの、ニルスさん? え、あ、もしかして酔ってるけど……その気? その気なの?

 エルヴィンの心臓が動きすぎて胸から飛び出すのではと心配になりそうなくらい高鳴っている。ますます意識し過ぎて、そのままギシリと体は固まっている。
 ただニルスの手はしっかりエルヴィンを背後から抱きしめているものの、それ以上何も進展がない。その手がエルヴィンの体をまさぐることもなければ、ひょっとしてひょっとしたらもしかしてもしかしたら万が一硬くなっているかもしれないニルスのものが後ろから押しつけられることもない。

 いや、でもほら、ニルスも緊張なんてしてみたりして、戸惑ってる、とか? だってほら、ニルスの恋愛遍歴さ、遡る前のことは全然知らないけど、少なくとも今のニルスは多分、誰とも付き合ってなかったことない? 俺と一緒じゃない? だからほら、どうしていいかなとか、このままどうにかしていいのかなとか、ほら、色々戸惑いつつ、さ?

 何でも持っているハイスペック貴族様の男らしいニルスとその考えは一見一致しないが、だがそういったかわいいところもニスルにはあると、エルヴィンはちゃんと知っている。今では性別を凌駕して大好きなニルスのことを、少なくともそれくらいは把握している。
 つもりだ。

 でもたまに予想外のこともするからなあ。

 そんなことを考えつつ様子を窺うも、ニルスはただエルヴィンを抱きしめたままだ。その気になってくれているのか、ニルスも興奮したりするのか、結局ニルスが大好きだろうが皆目わからない。今ほどブローチが欲しいと思ったことはない。上着を脱いで椅子にかけるんじゃなかったと心底思った。ブローチはそこについている。

 少し……少し手を回して……その……硬くなってるか……確認して、みる?

 自分に聞いてから自分の返事を待つことなく、エルヴィンは実行しようとした。だが意識し過ぎで体が動かないのではなく、ニルスにがっちりホールドされていて動かないのだと気づく羽目になった。

 待て。っていうか酔ってるもんな……もしかしてこのまま寝てるって可能性……! ってことは俺、ニルスが腕を緩めてくれないとこのまま? 下手したらこの生殺し状態で眠れぬ夜を過ごす羽目になる?

 それは王子を護衛する任務についている者としてもかなり困る。寝不足で任務につくのは駄目だ。

「ニ、ニルス」
「エルヴィン……」
「あ、よかった。起きてたか。あの、ちょっと一旦離してくれる?」
「……エルヴィン……ここで……眠……」

 寝言かい……!
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。 11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

聖者の愛はお前だけのもの

いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。 <あらすじ> ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。 ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。 意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。 全年齢対象。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

処理中です...