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112話
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朝食の席で顔を合わせたリックがにこやかに「あれ? エルヴィンってば寝不足?」などと聞いてくる。朝の柔らかな心地いい日差しにぴったりな爽やかな笑顔に対し、エルヴィンはじっとりとした顔を向けた。
「あん……あなた、ニルスが酔ってんの知ってただろ」
「ん? 何のこと?」
その最高に満面の笑みが忌々しいとエルヴィンはとてつもなく思う。
ちなみにそのニルスだが、本人に用意されていた自室で今頃はすっきりとしたフレッシュジュースでも飲んでいる頃だろう。とはいえ爽やかな朝を自室でのんびり迎えているのではなく、多分襲い来る頭痛に何とか対処しようとしているはずだ。
エルヴィンは結局ほぼ眠られなかった。眠っているニルスに羽交い締めの勢いで後ろから抱きしめられたまま、ひたすら眠ろうと努力してみたものの、到底眠れるわけがなかった。意識し過ぎて疲れ切ったのもあるのだろう、幸い朝方に少しだけ寝落ちしたようだ。そして少し眠れていたらしいと気づきながら目を覚ますと同時に、背後から言語し難いおそらく小さいながらも叫び声のようなものが聞こえてきた。
「……ニルス? 起きたのか?」
「……こ、れは……」
ニルスの腕が外れたのでエルヴィンが体を起こしながら振り向くと、体を起こしていたニルスが見たこともないほど青ざめた様子でじりじりとエルヴィンから後退っている。
「お、おいニルス。そんなに後ろに下がったら……」
落ちるぞと言う前にニルスがベッドから落ちた。だが身体能力が高いからか妙な転び方もせず床に座り込んでいる。
こういう時に変なところ見せてこないのがほんとイケメンだよな……。
エルヴィンならきっとベッドから落ちたならそのまま笑えるような転げ方をしそうだ。ベッドから落ちるという事実だけで本来ならおかしな状況だろうに、ニルスがすればちっとも間抜けにならないのは純粋にすごいと思った。
「大丈夫か?」
ニルスの近くへ寄って行き、マットレスからニルスを覗き込むとニルスが心許なさげにエルヴィンを見上げてきたように見えた。
何だこれ。頭撫でたいな。
「……お前こそ……大丈夫なの、か?」
「え? 俺? いや、俺は……うん、全然問題ないぞ」
というか何故こちらの心配をしてくるのか。
「本当に? 俺はお前に無体なことを……して、ないのか?」
ああなるほど、とエルヴィンは合点がいった。酔っていて何も覚えていないのだろう。そして目が覚めると自分が思いきりエルヴィンを抱きしめた状態でベッドに横たわっていることに気づく。おまけにエルヴィンは昨日の服のままでしかもシャツやズボンが皺くちゃだ。単に皺だらけとはいえ動揺しているニルスからすれば、乱れた風に見えたのかもしれない。
……はは。何なら羽交い締めにされたまま服、脱いでいればもっと楽しかったかな?
少しそんな風に意地悪く思いつつ、もしそんなエルヴィンを見ればニルスはもっと青ざめそうでやはりかわいそうだなと、皺になろうが服を着ていてよかったと実感する。
というか、待って。無体なことって! 言い方!
何て古風な言い方をしてくるのかと少し笑いそうになりながら、ニルスがエルヴィンに対してそういうことをする可能性を心配してきたことにやたらテンションが上がった。
だって、そういう可能性、やっぱあるってことだろ? ニルスだってそういうこと、俺としたいって多少は思ってくれてるってことかもだろ?
ついニマニマしそうになったが、顔を青ざめて困惑していそうなニルスに改めて気づき、早々に事実を伝えることにした。
まあ、教えてもニルスはひたすら申し訳なさそうな様子だったけどさ。
あまりに申し訳なさそうに頭が項垂れているため、エルヴィンはひたすら大丈夫だよという言葉だけでなく、「むしろ一緒にいる時間が長くなって嬉しかった」など少々自分的に恥ずかしいことまで告げて慰めた。あと酷い顔色はエルヴィンに対してだけでなく、おそらくひどい二日酔いなのだろう。とりあえず自室に戻って水分をとり、休めるだけ休むように言ってきた。ニルスは「すまない」「本当に申し訳ない」とひたすら謝罪しながらも素直に一旦ニルスに用意された部屋へと戻っていった。
そして今、リックと対面してピンときた。リックは絶対わかってニルスにシュナップスをやたら飲ませたに違いない。
「ほんといい加減にしてくださいよ?」
「ひどいなあエルヴィンは。俺が何かしたって決めつけて」
「あなたが何もしていないことなんてないんだ、ってむしろ俺が気づくべきでした」
「自分を顧みて反省するのっていいことだよね」
「あなたこそ、それ実行してください」
「えー?」
ひたすらにこにこしているリックにため息をつきながら、エルヴィンはパンをちぎった。デニスとジェムはすでに食べ終え、出かける支度をしに部屋に戻っている。朝は苦手そうに見えたデニスだが、案外早くに起きたようだ。これまた少し意外だった。
「……で?」
ちぎったパンを咀嚼しているとにこにこ顔のリックが身を乗り出すようにしてエルヴィンを見てきた。
「で? とは何です?」
「した?」
「っぐ」
口に入っているのが飲み物でなくてよかったとエルヴィンは心底思った。
「あん……あなた、ニルスが酔ってんの知ってただろ」
「ん? 何のこと?」
その最高に満面の笑みが忌々しいとエルヴィンはとてつもなく思う。
ちなみにそのニルスだが、本人に用意されていた自室で今頃はすっきりとしたフレッシュジュースでも飲んでいる頃だろう。とはいえ爽やかな朝を自室でのんびり迎えているのではなく、多分襲い来る頭痛に何とか対処しようとしているはずだ。
エルヴィンは結局ほぼ眠られなかった。眠っているニルスに羽交い締めの勢いで後ろから抱きしめられたまま、ひたすら眠ろうと努力してみたものの、到底眠れるわけがなかった。意識し過ぎて疲れ切ったのもあるのだろう、幸い朝方に少しだけ寝落ちしたようだ。そして少し眠れていたらしいと気づきながら目を覚ますと同時に、背後から言語し難いおそらく小さいながらも叫び声のようなものが聞こえてきた。
「……ニルス? 起きたのか?」
「……こ、れは……」
ニルスの腕が外れたのでエルヴィンが体を起こしながら振り向くと、体を起こしていたニルスが見たこともないほど青ざめた様子でじりじりとエルヴィンから後退っている。
「お、おいニルス。そんなに後ろに下がったら……」
落ちるぞと言う前にニルスがベッドから落ちた。だが身体能力が高いからか妙な転び方もせず床に座り込んでいる。
こういう時に変なところ見せてこないのがほんとイケメンだよな……。
エルヴィンならきっとベッドから落ちたならそのまま笑えるような転げ方をしそうだ。ベッドから落ちるという事実だけで本来ならおかしな状況だろうに、ニルスがすればちっとも間抜けにならないのは純粋にすごいと思った。
「大丈夫か?」
ニルスの近くへ寄って行き、マットレスからニルスを覗き込むとニルスが心許なさげにエルヴィンを見上げてきたように見えた。
何だこれ。頭撫でたいな。
「……お前こそ……大丈夫なの、か?」
「え? 俺? いや、俺は……うん、全然問題ないぞ」
というか何故こちらの心配をしてくるのか。
「本当に? 俺はお前に無体なことを……して、ないのか?」
ああなるほど、とエルヴィンは合点がいった。酔っていて何も覚えていないのだろう。そして目が覚めると自分が思いきりエルヴィンを抱きしめた状態でベッドに横たわっていることに気づく。おまけにエルヴィンは昨日の服のままでしかもシャツやズボンが皺くちゃだ。単に皺だらけとはいえ動揺しているニルスからすれば、乱れた風に見えたのかもしれない。
……はは。何なら羽交い締めにされたまま服、脱いでいればもっと楽しかったかな?
少しそんな風に意地悪く思いつつ、もしそんなエルヴィンを見ればニルスはもっと青ざめそうでやはりかわいそうだなと、皺になろうが服を着ていてよかったと実感する。
というか、待って。無体なことって! 言い方!
何て古風な言い方をしてくるのかと少し笑いそうになりながら、ニルスがエルヴィンに対してそういうことをする可能性を心配してきたことにやたらテンションが上がった。
だって、そういう可能性、やっぱあるってことだろ? ニルスだってそういうこと、俺としたいって多少は思ってくれてるってことかもだろ?
ついニマニマしそうになったが、顔を青ざめて困惑していそうなニルスに改めて気づき、早々に事実を伝えることにした。
まあ、教えてもニルスはひたすら申し訳なさそうな様子だったけどさ。
あまりに申し訳なさそうに頭が項垂れているため、エルヴィンはひたすら大丈夫だよという言葉だけでなく、「むしろ一緒にいる時間が長くなって嬉しかった」など少々自分的に恥ずかしいことまで告げて慰めた。あと酷い顔色はエルヴィンに対してだけでなく、おそらくひどい二日酔いなのだろう。とりあえず自室に戻って水分をとり、休めるだけ休むように言ってきた。ニルスは「すまない」「本当に申し訳ない」とひたすら謝罪しながらも素直に一旦ニルスに用意された部屋へと戻っていった。
そして今、リックと対面してピンときた。リックは絶対わかってニルスにシュナップスをやたら飲ませたに違いない。
「ほんといい加減にしてくださいよ?」
「ひどいなあエルヴィンは。俺が何かしたって決めつけて」
「あなたが何もしていないことなんてないんだ、ってむしろ俺が気づくべきでした」
「自分を顧みて反省するのっていいことだよね」
「あなたこそ、それ実行してください」
「えー?」
ひたすらにこにこしているリックにため息をつきながら、エルヴィンはパンをちぎった。デニスとジェムはすでに食べ終え、出かける支度をしに部屋に戻っている。朝は苦手そうに見えたデニスだが、案外早くに起きたようだ。これまた少し意外だった。
「……で?」
ちぎったパンを咀嚼しているとにこにこ顔のリックが身を乗り出すようにしてエルヴィンを見てきた。
「で? とは何です?」
「した?」
「っぐ」
口に入っているのが飲み物でなくてよかったとエルヴィンは心底思った。
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