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113話
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そんなわけないでしょうと、パンをようやく飲み込んだ後にエルヴィンが言い放つと、リックは大いに不満そうだ。
「何です?」
「え、だって二人きりでしかもニルス、酔ってるんだよ? なのに何もないとか、そんなことある?」
「ありますよ。酔ってる相手に何するって言うんですか……」
「えー。ほんともう、エルヴィン真面目すぎじゃない? 女性ならまだしも、相手はがっしりしたニルスだよ? もうちょっと適当だったり気楽だったりしてもいいと思うよ。あと悪さだって」
「何勧めてんですか……。……あ! そういえばリック」
「何?」
「酔いと言えば、俺の馬車酔い治してくれましたよね? もしかして二日酔いも治せます?」
「できるけど……エルヴィン、馬車で酔ったって認めるんだ?」
「み、とめません、あれは食べ過ぎたからで認めませんけど、便宜上、っていうか今それどうでもいいんです。ニルスの二日酔いが治せるのかが聞きたいんです。できるんですね?」
「もしかしてニルスってばほろ酔いどころか、かなり酔っちゃってたの? うーん、そんなに飲ませたかなぁ……」
そんなに飲ませた、って。やっぱあんたの仕業じゃないか。
口にはしないがエルヴィンは笑顔でリックを睨んでおいた。
「あ、わかった。ニルスのことだからエルヴィンのピッチに合わせちゃったのかもね。エルヴィンは度数低い酒だったの考慮せず。ほんとニルスってば、エルヴィン絡むとちょっと抜けるよねえ」
そうなの? 抜けるの?
それもかわいい、などとつい思った後にハッとなる。
「……って、それは知りませんが、治せるなら今すぐ治してやってください」
「俺、食事中だけど」
「ニルスを治してあげてからまた食べればいいじゃないですか」
「俺、王子様で君の上司だけど」
「だから何なんです? あと、幼馴染で友人なんでしょ」
「……はは。君もニルス絡むとたいがいかもだよね。そういう君が大好きだよ」
「俺もリックが好きですから、早く。今すぐニルスの部屋へ向かいましょう」
「今適当に流したよね?」
「気のせいです」
言いながらエルヴィンが立ち上がるとリックが笑顔で首を振ってきた。
「君は食べてなさいよ」
「それこそ上司で王子様のリックに行かせて魔法を使わせるってのに俺だけ食べてるわけにいきません」
「やっぱりほんと真面目だねえ。いいから食べてて。あとほら、ニルスだって大好きな恋人にこれ以上弱ってるとこ、見られたくないかもでしょ」
そう言われ、エルヴィンは中腰のまま固まった。確かにそうかもしれないとそして思う。エルヴィンもニルスに弱っているところをそんなに見せたくない気がする。というか今までむしろ散々見せてしまったから、これ以上失態したくないというのだろうか。だからニルスとはまた違う気もするが、リックが言っていることはわかる。
「ではあなただけに行かせるのは大変申し訳ないですが、お願いしてもいいでしょうか」
「うん、お願いされたよ、任せて」
「ありがとうございます」
「この借りはまた改めて返してね」
「……あなたがしでかしたことのせいでしょうが……。でもわかりました」
「ふふ。ああそうそう。これでわかっただろうけど、ニルスってほんとわかりにくいけどね、一般的にだとそんなに弱くはないんだろけど俺らの中ではお酒、弱いほうかもだから」
「だから何なんです?」
「これからも機会狙ってあわよくば襲っちゃえばいいよ」
「襲いません……!」
呆れて頭を抱えた後に顔を上げて思いきり言い返すも、リックはすでに向かったのかこの場にいなかった。
「……はや」
一瞬で見えなくなるくらい早い移動に少々唖然としつつ、エルヴィンはむしろいつでも動けるように、せっかくなので朝食の続きをとった。
食べ終えて一旦部屋に戻り、騎士の制服に着替え終えたところでノックがある。
「はい」
「……入っても?」
見れば少し俯き気味のニルスが開けられたドアの外に立っている。
「もちろん。二日酔いはもう大丈夫なのか?」
「ああ。リックが」
リックが、というのはリックが来て治してくれたという意味だろうとエルヴィンは頷く。そして入ったもののその場で立ったままのニルスに苦笑した。
「そこにずっといる気? 用、あるんだろ? ドア閉めてここまで来てくれる?」
「ドアは……」
「俺とニルスは恋人だろ。閉めても問題ないよ」
「……そうか」
手を繋いでいいかと聞いたら「もちろんだ」「お前の手は心地いいな」などと言ってきたニルスがもはや幻のニルスになっている。酒の酔いってすごいんだなとエルヴィンは少々遠い目で思った。
とはいえニルスはこんなニルスだからこそ好きになったんだろうなとも思っている。
「どうかしたのか、ニルス?」
エルヴィンの近くまで来たニルスに聞けば「その……本当に申し訳なかった」とまた謝られた。
「もういいって。さっき散々謝ってたのにまだ謝るの? だいたいニルスはそこまで謝るようなこと、俺にしてないけど」
「情けないことにかなり酔った」
「仕方ないだろ。問題ないよ」
「それにお前の部屋に上がりこんだ」
「恋人なんだから何が駄目なのかむしろ教えてくれよ」
「……夜更けに……無防備なお前に対し……」
「ニルス……。恋人だけどな、俺は男だから。男だぞってあえて言わなくてもわかってると思うけど。だからそういう繊細な気遣いは必要ないよ」
「男だが、恋人だろ……俺の大切な人だ」
堂々と言ってきたとはいえ、言い方は控えめだ。昨日の酔ったニルスなら当然とばかりにエルヴィンの手でも取りながら言ってきた気がする。
でも普段無口なだけに控えめだろうが、俺にとってはあまり心臓によくないな。心の栄養にはいいかもだけど。
一気に顔が熱くなるのがわかりながらエルヴィンはそれでもにやけそうな口元を隠すように手を口にそっとあてた。
「何です?」
「え、だって二人きりでしかもニルス、酔ってるんだよ? なのに何もないとか、そんなことある?」
「ありますよ。酔ってる相手に何するって言うんですか……」
「えー。ほんともう、エルヴィン真面目すぎじゃない? 女性ならまだしも、相手はがっしりしたニルスだよ? もうちょっと適当だったり気楽だったりしてもいいと思うよ。あと悪さだって」
「何勧めてんですか……。……あ! そういえばリック」
「何?」
「酔いと言えば、俺の馬車酔い治してくれましたよね? もしかして二日酔いも治せます?」
「できるけど……エルヴィン、馬車で酔ったって認めるんだ?」
「み、とめません、あれは食べ過ぎたからで認めませんけど、便宜上、っていうか今それどうでもいいんです。ニルスの二日酔いが治せるのかが聞きたいんです。できるんですね?」
「もしかしてニルスってばほろ酔いどころか、かなり酔っちゃってたの? うーん、そんなに飲ませたかなぁ……」
そんなに飲ませた、って。やっぱあんたの仕業じゃないか。
口にはしないがエルヴィンは笑顔でリックを睨んでおいた。
「あ、わかった。ニルスのことだからエルヴィンのピッチに合わせちゃったのかもね。エルヴィンは度数低い酒だったの考慮せず。ほんとニルスってば、エルヴィン絡むとちょっと抜けるよねえ」
そうなの? 抜けるの?
それもかわいい、などとつい思った後にハッとなる。
「……って、それは知りませんが、治せるなら今すぐ治してやってください」
「俺、食事中だけど」
「ニルスを治してあげてからまた食べればいいじゃないですか」
「俺、王子様で君の上司だけど」
「だから何なんです? あと、幼馴染で友人なんでしょ」
「……はは。君もニルス絡むとたいがいかもだよね。そういう君が大好きだよ」
「俺もリックが好きですから、早く。今すぐニルスの部屋へ向かいましょう」
「今適当に流したよね?」
「気のせいです」
言いながらエルヴィンが立ち上がるとリックが笑顔で首を振ってきた。
「君は食べてなさいよ」
「それこそ上司で王子様のリックに行かせて魔法を使わせるってのに俺だけ食べてるわけにいきません」
「やっぱりほんと真面目だねえ。いいから食べてて。あとほら、ニルスだって大好きな恋人にこれ以上弱ってるとこ、見られたくないかもでしょ」
そう言われ、エルヴィンは中腰のまま固まった。確かにそうかもしれないとそして思う。エルヴィンもニルスに弱っているところをそんなに見せたくない気がする。というか今までむしろ散々見せてしまったから、これ以上失態したくないというのだろうか。だからニルスとはまた違う気もするが、リックが言っていることはわかる。
「ではあなただけに行かせるのは大変申し訳ないですが、お願いしてもいいでしょうか」
「うん、お願いされたよ、任せて」
「ありがとうございます」
「この借りはまた改めて返してね」
「……あなたがしでかしたことのせいでしょうが……。でもわかりました」
「ふふ。ああそうそう。これでわかっただろうけど、ニルスってほんとわかりにくいけどね、一般的にだとそんなに弱くはないんだろけど俺らの中ではお酒、弱いほうかもだから」
「だから何なんです?」
「これからも機会狙ってあわよくば襲っちゃえばいいよ」
「襲いません……!」
呆れて頭を抱えた後に顔を上げて思いきり言い返すも、リックはすでに向かったのかこの場にいなかった。
「……はや」
一瞬で見えなくなるくらい早い移動に少々唖然としつつ、エルヴィンはむしろいつでも動けるように、せっかくなので朝食の続きをとった。
食べ終えて一旦部屋に戻り、騎士の制服に着替え終えたところでノックがある。
「はい」
「……入っても?」
見れば少し俯き気味のニルスが開けられたドアの外に立っている。
「もちろん。二日酔いはもう大丈夫なのか?」
「ああ。リックが」
リックが、というのはリックが来て治してくれたという意味だろうとエルヴィンは頷く。そして入ったもののその場で立ったままのニルスに苦笑した。
「そこにずっといる気? 用、あるんだろ? ドア閉めてここまで来てくれる?」
「ドアは……」
「俺とニルスは恋人だろ。閉めても問題ないよ」
「……そうか」
手を繋いでいいかと聞いたら「もちろんだ」「お前の手は心地いいな」などと言ってきたニルスがもはや幻のニルスになっている。酒の酔いってすごいんだなとエルヴィンは少々遠い目で思った。
とはいえニルスはこんなニルスだからこそ好きになったんだろうなとも思っている。
「どうかしたのか、ニルス?」
エルヴィンの近くまで来たニルスに聞けば「その……本当に申し訳なかった」とまた謝られた。
「もういいって。さっき散々謝ってたのにまだ謝るの? だいたいニルスはそこまで謝るようなこと、俺にしてないけど」
「情けないことにかなり酔った」
「仕方ないだろ。問題ないよ」
「それにお前の部屋に上がりこんだ」
「恋人なんだから何が駄目なのかむしろ教えてくれよ」
「……夜更けに……無防備なお前に対し……」
「ニルス……。恋人だけどな、俺は男だから。男だぞってあえて言わなくてもわかってると思うけど。だからそういう繊細な気遣いは必要ないよ」
「男だが、恋人だろ……俺の大切な人だ」
堂々と言ってきたとはいえ、言い方は控えめだ。昨日の酔ったニルスなら当然とばかりにエルヴィンの手でも取りながら言ってきた気がする。
でも普段無口なだけに控えめだろうが、俺にとってはあまり心臓によくないな。心の栄養にはいいかもだけど。
一気に顔が熱くなるのがわかりながらエルヴィンはそれでもにやけそうな口元を隠すように手を口にそっとあてた。
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