不良兄と秀才弟

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9話

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 この間は後輩との会話でなんとなく余裕が出てきているのではと思ったが、実際本当に余裕は出てきているのだろうかと総司は疑問に思う。何故なら幾斗から教えてもらっていることを今のところ自分で到底できそうにないからだ。
 キス一つにしてみても、自分からするのがこれほど難しいものとは思わなかった。幾斗の言うとおり、双子なのだから何でも遠慮なくできそうだというのに、自分から唇を合わせにいくだけですらどうにも難しい。
 世の中の彼女持ちの男たちはどうなっているのだと心の中で激しく疑問に思った。双子の弟に対してですらこんななのに、好きな女子相手に恰好よくなんて、どうやったらできるというのだ、そして実際周りはどうしているのだ。

「まさか俺だけできねえんじゃねえよな……」
「お前は色々慣れてなさすぎなんだろ。慣れたら問題なくなるんじゃないか」

 その双子の弟である幾斗が言ってくれる言葉に今は救われる。意地悪で冷たいやつだと思っていたが、やはりさすが弟、いいやつだったんだなと改めて総司は思った。
 元々小さい頃はとても仲がよかったのを覚えている。でも大きくなるにつれて幾斗は冷たくなっていったような気がする。総司が何かを言っても「はぁ」と呆れたようにため息をついてきたりする。愛想笑いができないやつだとわかっているが、他の相手に対してはまだそれなりに受け答えしているのに総司にだけ、実際馬鹿なのだろうとわかっているが、心底馬鹿を見るような目で見てくるのだ。たまに笑いかけてくれたかと思うとこの間みたいにわさびたっぷりの寿司を食わせてくるようなことをしてくる。
 もしかしてこれが兄離れか、とハッとなったりもした。だがやはりいいやつだったのだと最近は思っている。とはいえ油断しているとまた意地悪なことをしてくるかもしれないと警戒するのはもう癖になってしまっている。

「いつになったらじゃあ慣れんだよ」
「知るか。何度でも覚えろよ、勉強みたいに」

 じとりと幾斗を見ると素っ気なく言われた後にまたキスをされた。総司も色々覚えようとしているのだが、どうにも幾斗にキスをされると頭の中がぼんやりしてしまう。ただでさえ覚えたりするのは苦手だというのにさらに働かなくなってしまう。

 多分気持ちいいのが駄目なんだ。

 そう思うが、だからといってどうすることもできない。初めて舌を入れられた時は自分のじゃない舌の感覚に違和感を覚えるよりも何よりも、その動きや与えられる感触に不覚にも情けない反応をしてしまった。おまけにその時たまたまだと思っていたのだが、そうでもないことがまた情けない。

「っぁ」

 今日は唇にキスをされた後に首筋に舌を這わされた。要は首を舐められただけだというのに自分の口から出たとは思えない情けない声に、総司は唖然となる。思わずジロリと幾斗を睨むのだが、幾斗は全然気にした様子もなく総司の制服のシャツを肌蹴させてきた。

「だいたいお前なんで普段からこんなにボタン開けてんだ?」
「なんかおかしいのか?大地だって開けてんぞ」

 聞いてくる意味がわからなくて今度は怪訝そうに総司は幾斗を見た。大地というのは別のクラスの友人だが、総司と気が合う相手だ。総司と違って背は小さい大地も、同じようにピアスを沢山開けているしネックレスが見えるからとシャツのボタンも上の方は割と開けている。

「つかさー、皆何であんな上の方までボタン留めてんだよ、窮屈じゃねえのか」
「お前の首はどんだけ太い訳だ? シャツで窮屈になる訳ないだろうが。お前は開けすぎなんだよ」

 相変わらず馬鹿にしたような目で見てきたかと思うと、幾斗は元々開いていた上にさらに肌蹴させてきたシャツの中に顔を入れ、総司の鎖骨近くを少しきつく吸いこんできた。

「っなにすんだよ!」

 別にさほど痛い訳でもないが総司がムッとしたように言うと直ぐに唇を離してきた。

「お前がシャツのボタンを締めたくなるようにな」
「は? 意味わかんねえ」

 怪訝そうに眉をひそめると幾斗は「ああ、お前馬鹿だもんな」とニッコリ見返してきた。

「ぁあっ? バカっつーほうがバカなんだよ! だいたい俺、ほんとは総番長だから気軽に触らせられねえんだぞ? お前が教えてくれるっつーから仕方ねえって思ってやってんのにバカバカ言うな」
「は? なんだ、それは」
「だって前にナツとヒトが言ってた。総番長ともなれば気軽に触らせちゃだめだってなっ」

 総司が言うと幾斗は気のせいか微妙な顔をしている。

「んだよその顔……」
「うるせぇよ。ちょっと静かにしろよ」
「んだと、お前が……っぁ、ん」

 思いきり言い返そうとしていたせいもあり、先程以上に変な声が出た。総司は思わず口を押さえた。顔が熱くなる。

 ……っ今のはさすがに本気で情けねぇだろがっ。
 だが幾斗がいきなり変なことをしてきたせいもあると口を押さえながら幾斗の頭を睨みつけた。静かにしろと言ってきた後に肌蹴たシャツを捲ってきた幾斗は総司の乳首に舌を這わせてきたのだ。

「おま、な……に」

 口を押さえながらもなんとか文句を言おうとしていると「総番長関係なく他人に気安く触らせんな。とはいえ俺は別。色々、知りたいし慣れたいんだろ?」と幾斗が見上げてくる。
 なんのために普段かけているのかわからない眼鏡を外している幾斗の目は上目でも鋭い。されていることのせいなのか、そんな幾斗の目が妙に総司を落ち着かなくさせてきた。
 見上げてきた後にまた舐められ、総司はぎゅっと目を瞑った。

 つか、待て。男って、胸、感じるものなのか?

 今まで見たことあるのは男が女相手にしているものだけだからか、ちっともわからない。

「あ、んんっ、ちょ、な、なあ……っ」

 ゆっくりと舐められる感覚に堪らなく感じてしまっている自分を信じていいのかおかしいと思っていいのかもわからず、総司は必死になって幾斗を呼びかけた。

「……なに」

 幾斗がめんどくさそうに見てくる。多分また「このバカが」くらいに思ってるんじゃねえのと少しムッとしつつ、総司は続けた。

「お、男って、胸感じんの?」

 体がやたらもぞもぞとする。もし「感じる訳ないだろ。これはお前に教えるためだけだってのにお前、変なんじゃないのか」とか言われたらどうしようと総司はコクリと唾を飲み込んで幾斗をじっと見た。幾斗はポカンとしたような顔でそんな総司を見返してくる。

 ああ、それってやっぱり俺だけ、なのか?

 総司の口が引きつりそうになっていると幾斗が少し笑ってきた。

「なんだ、そんなことか。馬鹿だな、性感帯に男も女もある訳ないだろ」
「え? え? 待て。結局どういう意味だ?」
「……はぁ。男も胸、感じるってことだよ」
「マジで? そ、そっか。よかった……! お、俺だけだったらどうしようかって思った」
「……ふぅん? じゃあとりあえず今お前は感じてたってことだよな?」

 ニヤリと言われ、総司はハッとなる。

「はぁっ? 俺はだな、ただ普通はどうなんだろなって……っ」

 ごまかそうとしたらニッコリと総司の下にくっついているとても正直な息子を指さされた。ぐっと言葉に詰まっているとため息をつかれる。

「総司、別に皆感じるものだし、おかしくないっつってんだろ」
「マジでか。でも別に皆そんな話してねえけど」
「当たり前だろ、ほんっとお前救い難いな? だったらお前は自分のどこがどう感じるのか誰彼となく言ってまわるのか?」
「言うかよ……っ。あ、そうか、なるほどな」

 やはり幾斗はところどころで総司を小馬鹿にしてこようともいいヤツらしいと総司は納得した。

「だから安心して感じてろ」
「分かった……!  ……いや待て、安心できねえだろっ。気持ちよけりゃ勃つんだよ男だったら!」
「……。……じゃあまた数式でも考えてろ」

 幾斗は素っ気なく言うとまた総司の乳首に舌を這わせた後で今度は転がすように舐めたり吸ったりしてきた。総司は必死になって九九を考えようとする。

 いや、つか、ちょ、待て。俺はそもそも覚えるためにこういうことを教えてもらってんじゃね? だったら九九考えてたらこっち覚えられなくね?

 そんな事を思いつつも、だが幾斗のしてくることに集中しようとすると今度は自分のものがますます辛くなってきそうなため、総司はどうしていいかわからなくなってきた。
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