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105話
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自分ともあろう者が情けなくも取り乱してしまった。邦一と喧嘩した後で秋星は落ち込んでいた。お陰で自ら率先して食事にまで出向いた勢いだ。家族には珍しがられた。
食事から戻ると着物と布団の用意がされてあった。顔を見たくないと言ったのは秋星だ。だというのに寂しさを覚える。一人で着物を着る味気なさにますます気分が下がった。
邦一のことを考えていると、ふと邦一に貰った彼岸花を思い出した。そして次に持ってきた薔薇を。
……あいつほんま、個性的な花ばっか持って帰ってくるよな。
薔薇は世間では個性的とは言わないかもしれないが、秋星たちにとっては個性的というか毒である。もちろん死にはしないが力が弱る程度には苦手だ。匂いだけでも力が抜けそうになるし、触れると枯らしでもしない限りじわじわと肌を焼き溶かしてくる。秋星たちにとっては彼岸花よりも余程死に近い感覚のする花だ。
彼岸花に対して邦一は死の世界というイメージが強いようだ。秋星も似たイメージはあるものの自分たちの流派と似た概念の絡む花に惹き付けられもする。
死、というより救いであり、その霊魂は全てに宿る。
……そうやねん。その考えでいったらクニがいずれ死を迎えることも失うって訳やないねん……。
邦一の霊魂はある意味生き続ける。邦一が愛用していたものや場所、そして秋星の中で生き続ける。
自分たちの流派の考えと照らし合わせるとそうなる。そういった考えは十分理解しているつもりだ。
だが怖い。邦一の死だけは、怖い。触れられない、二度と目の前で邦一そのものの形としての動きが見られない。邦一が自分の意思で視線を秋星へ向ける。そんな些細なことすら見られない。
それが怖い。
だからあんな風に我を忘れたかのように取り乱してしまった。少しであろうが、邦一が危険な目に合う可能性は許せない。
怖いと言えば……と秋星はぼんやり思う。彼岸花の花の由来を話している最中、あの赤から邦一が何らかの連想をしてしまわないかと少しハラハラしつつも何らかの影響がないかと推し量っていた。
白が血に染まったかのような、そして邦一が感じているらしい禍々しさから、自分からまさに赤い花が咲いたかのように血が流れていくところを思い出さないだろうか、と。もちろん考え過ぎだったのだろう。邦一はそれに対しては何も思ったようではなかった。
それでも考えて止まない。どんなことが記憶を刺激するかわからない。どんなことが危険に繋がるかわからない。
ただ慎重になり過ぎても不審だろうと普段は自由にさせているつもりだが、そうすると邦一はたまにこちらをハラハラともさせてくる。あの薔薇庭の住人のこともそうだ。彼らに危険はもちろんないが、本当に思いがけないことを邦一はしてくる。危険はないものの、邦一が話したという男は多分ヴァンパイアの女を好きになり、自らヴァンパイアを望んだ元人間だろう。血を好まない主人に仕えていたヴァンパイアに惚れて仲間となった人間の話など、邦一の死は怖いが魔物にすることだけはしたくない秋星にとっては聞かせたくない内容だった。
野良ヴァンパイアのことも、首を突っ込んでいるうちに当事者になりかねない。女を対象にしている時点で、基本的に異性の味を好むヴァンパイアを思うと恐らくそいつは男だろうと予測出来る。とすると邦一は基本的に対象外であるのだが、邦一のもつ独特の匂いを思うと安心できない。
確かに万人が過剰反応する程という訳ではないが、大抵のヴァンパイアが好む匂いだとは思う。それでも純粋なヴァンパイアならまだ自分の力が及ぶ為、危惧はしていなかった。
「秋星、……その、悪かった。心配して言ってくれているお前に対して考えが無さすぎた」
邦一は夜更けに秋星の部屋へやって来ると頭を下げてきた。素直そうでいて結構頑固な邦一が謝ってきたことに唖然とした。
多分、秋星が憂いを感じていることがどういったものなのかは完全にはわからないだろう。もちろんわからないようにしているのは自分なのだから、本当なら「顔を見たくない」と怒りを露にした秋星のほうが謝るべきなのだとは思う。だというのに秋星は「……わ、かったんやったら……えぇ」と偉そうに返すしか出来なかった。それでも邦一はホッとしたように笑いかけてきた。それが愛しくて堪らない。
気づけばキスを交わしていた。そしてそのまま求め合った。体を捧げ体を求める行為に夢中になる。
「そういや、好きなよぉに血ぃ……吸うてえぇんやったよなぁ……?」
「……それに関してはお手柔らかに頼む……」
「それに関してだけ?」
「体を重ねることに関してはお前が俺に頼むほうだろ?」
「ほんま可愛くなくなったわ……」
自分の中への激しい侵入を許し、代わりに舐め、噛みつき、邦一の全てが自分のものなのだと許しを得るかのように摂取する。お互いに与え、与えられ合った。
暗い部屋にて乱れた着物をそのままに、布団の中で行為後もどこかに触れ、絡ませていると邦一の手にある傷に気づいた。どうしたのかと聞けば猫に引っかかれたと返ってきた。
「クニが無理やり何かしたんやろ」
ほのぼのとしたものを感じて笑えば邦一も笑ってきた。
「こっちの猫みたいな人からはむしろ無理やり、やらしいことされたけどな」
「無理やりちゃうわ。規格外におっきぃしときながら何言うてんねん」
「……いや、別に俺、そんなデカくは……」
十分過ぎる大きさと思われるが、本人には全く自覚はないらしい。
こちとら初回であまりの痛みに寝込んだっちゅうねん。
少々微妙に思いながらも全く傷を気にしていなかった邦一に聞いた。
「で、痛ないん?」
すると邦一は少しポカンとしながら「そういえば痛くないな……」と呟いていた。
引っ掻き傷は血が出たのだろう。乾いている今でもまだ赤い。普通なら痛いと思われる。
「……なぁ、それってどんな猫やねん」
「どんなって、普通の猫だよ。邦一が化けてるみたいな似非感のない、普通に、猫」
「は? アホ言いなや。俺の変化は完璧に決まってるやろ」
「……。いや、確かに見た目は秋星も完全に猫だけど中身が猫じゃないだろ」
「当たり前や」
「だからそういうことだよ。多分トラ猫かな、それ以外説明しようがないくらい、猫だったよ」
食事から戻ると着物と布団の用意がされてあった。顔を見たくないと言ったのは秋星だ。だというのに寂しさを覚える。一人で着物を着る味気なさにますます気分が下がった。
邦一のことを考えていると、ふと邦一に貰った彼岸花を思い出した。そして次に持ってきた薔薇を。
……あいつほんま、個性的な花ばっか持って帰ってくるよな。
薔薇は世間では個性的とは言わないかもしれないが、秋星たちにとっては個性的というか毒である。もちろん死にはしないが力が弱る程度には苦手だ。匂いだけでも力が抜けそうになるし、触れると枯らしでもしない限りじわじわと肌を焼き溶かしてくる。秋星たちにとっては彼岸花よりも余程死に近い感覚のする花だ。
彼岸花に対して邦一は死の世界というイメージが強いようだ。秋星も似たイメージはあるものの自分たちの流派と似た概念の絡む花に惹き付けられもする。
死、というより救いであり、その霊魂は全てに宿る。
……そうやねん。その考えでいったらクニがいずれ死を迎えることも失うって訳やないねん……。
邦一の霊魂はある意味生き続ける。邦一が愛用していたものや場所、そして秋星の中で生き続ける。
自分たちの流派の考えと照らし合わせるとそうなる。そういった考えは十分理解しているつもりだ。
だが怖い。邦一の死だけは、怖い。触れられない、二度と目の前で邦一そのものの形としての動きが見られない。邦一が自分の意思で視線を秋星へ向ける。そんな些細なことすら見られない。
それが怖い。
だからあんな風に我を忘れたかのように取り乱してしまった。少しであろうが、邦一が危険な目に合う可能性は許せない。
怖いと言えば……と秋星はぼんやり思う。彼岸花の花の由来を話している最中、あの赤から邦一が何らかの連想をしてしまわないかと少しハラハラしつつも何らかの影響がないかと推し量っていた。
白が血に染まったかのような、そして邦一が感じているらしい禍々しさから、自分からまさに赤い花が咲いたかのように血が流れていくところを思い出さないだろうか、と。もちろん考え過ぎだったのだろう。邦一はそれに対しては何も思ったようではなかった。
それでも考えて止まない。どんなことが記憶を刺激するかわからない。どんなことが危険に繋がるかわからない。
ただ慎重になり過ぎても不審だろうと普段は自由にさせているつもりだが、そうすると邦一はたまにこちらをハラハラともさせてくる。あの薔薇庭の住人のこともそうだ。彼らに危険はもちろんないが、本当に思いがけないことを邦一はしてくる。危険はないものの、邦一が話したという男は多分ヴァンパイアの女を好きになり、自らヴァンパイアを望んだ元人間だろう。血を好まない主人に仕えていたヴァンパイアに惚れて仲間となった人間の話など、邦一の死は怖いが魔物にすることだけはしたくない秋星にとっては聞かせたくない内容だった。
野良ヴァンパイアのことも、首を突っ込んでいるうちに当事者になりかねない。女を対象にしている時点で、基本的に異性の味を好むヴァンパイアを思うと恐らくそいつは男だろうと予測出来る。とすると邦一は基本的に対象外であるのだが、邦一のもつ独特の匂いを思うと安心できない。
確かに万人が過剰反応する程という訳ではないが、大抵のヴァンパイアが好む匂いだとは思う。それでも純粋なヴァンパイアならまだ自分の力が及ぶ為、危惧はしていなかった。
「秋星、……その、悪かった。心配して言ってくれているお前に対して考えが無さすぎた」
邦一は夜更けに秋星の部屋へやって来ると頭を下げてきた。素直そうでいて結構頑固な邦一が謝ってきたことに唖然とした。
多分、秋星が憂いを感じていることがどういったものなのかは完全にはわからないだろう。もちろんわからないようにしているのは自分なのだから、本当なら「顔を見たくない」と怒りを露にした秋星のほうが謝るべきなのだとは思う。だというのに秋星は「……わ、かったんやったら……えぇ」と偉そうに返すしか出来なかった。それでも邦一はホッとしたように笑いかけてきた。それが愛しくて堪らない。
気づけばキスを交わしていた。そしてそのまま求め合った。体を捧げ体を求める行為に夢中になる。
「そういや、好きなよぉに血ぃ……吸うてえぇんやったよなぁ……?」
「……それに関してはお手柔らかに頼む……」
「それに関してだけ?」
「体を重ねることに関してはお前が俺に頼むほうだろ?」
「ほんま可愛くなくなったわ……」
自分の中への激しい侵入を許し、代わりに舐め、噛みつき、邦一の全てが自分のものなのだと許しを得るかのように摂取する。お互いに与え、与えられ合った。
暗い部屋にて乱れた着物をそのままに、布団の中で行為後もどこかに触れ、絡ませていると邦一の手にある傷に気づいた。どうしたのかと聞けば猫に引っかかれたと返ってきた。
「クニが無理やり何かしたんやろ」
ほのぼのとしたものを感じて笑えば邦一も笑ってきた。
「こっちの猫みたいな人からはむしろ無理やり、やらしいことされたけどな」
「無理やりちゃうわ。規格外におっきぃしときながら何言うてんねん」
「……いや、別に俺、そんなデカくは……」
十分過ぎる大きさと思われるが、本人には全く自覚はないらしい。
こちとら初回であまりの痛みに寝込んだっちゅうねん。
少々微妙に思いながらも全く傷を気にしていなかった邦一に聞いた。
「で、痛ないん?」
すると邦一は少しポカンとしながら「そういえば痛くないな……」と呟いていた。
引っ掻き傷は血が出たのだろう。乾いている今でもまだ赤い。普通なら痛いと思われる。
「……なぁ、それってどんな猫やねん」
「どんなって、普通の猫だよ。邦一が化けてるみたいな似非感のない、普通に、猫」
「は? アホ言いなや。俺の変化は完璧に決まってるやろ」
「……。いや、確かに見た目は秋星も完全に猫だけど中身が猫じゃないだろ」
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